やめたはずの訪問営業が、3年で戻ってきた。しかも、その仕事を担う会社をたどると、かつてNHKの受信契約を主力事業にしていた企業グループに行き着く。
共同通信が9月21日に報じたところによると、NHKは新規の受信契約を獲得する戸別訪問営業について、外部法人への委託を再開した。突然の訪問や応対への批判、経費削減を背景に、2023年9月までに全廃した仕組みである。なお、契約済みの未払い世帯などに支払いを促す訪問は続いており、今回の再開は新規契約のための法人委託だ。
では、いったい誰が再び玄関のインターホンを押すのか。

NHKが公式サイトで公表している9月10日付の営業局資料には、訪問による契約・収納業務の委託先として、サンジュウナナドとノービスハイエストサービスの2社が記されている。同資料が示す実施地域は、大阪府・兵庫県の一部だ。
聞き慣れない社名かもしれない。だが、サンジュウナナドの親会社は、東証スタンダード上場のコレックホールディングス。旧社名は、エヌリンクスである。NHKの仕事から撤退した企業グループが、子会社を通じて訪問業務に再び関わっていることが、公開資料から確認できる。
赤字が続くNHKと、受信契約を獲得してきた民間企業。いったん離れた両者は、なぜ再び結び付いたのか。
赤字318億円、NHKが再び玄関へ向かった事情
まず、NHKはいくら赤字なのか。産経新聞の決算報道によると、最新の2025年度決算は、事業収支で318億円の赤字だった。受信料収入は前年度から50億円減って5851億円。受信契約総数も34万件減り、4033万件となった。ただし、この赤字を「突然お金がなくなったので、慌てて訪問員を送り出した」と読むと、事情を見誤る。
NHKは2023年10月に受信料を1割引き下げ、その後の収支不足を還元目的積立金で補いながら、2027年度の収支均衡を目指している。2026年度予算では690億円の不足を見込むが、これは決算の実績ではなく、積立金で補う計画上の数字。
問題は、値下げで収入の水準が下がったところへ、契約件数の減少が重なっていることだ。NHKは契約減の背景として、契約者の死亡や単身赴任の解消などによる世帯数の減少を挙げ、新規契約で減少分を補えなかったと説明している。経営委員会の古賀信行委員長も、物価高のなかで受信料を安易に値上げできる状況ではないとの認識を示した。
経費を削っても、受信料を払う契約の土台まで縮み続ければ、収支均衡は難しくなる。値上げにも簡単には踏み切れない。こうした数字と説明を重ねると、今回の訪問再開は、単なる赤字の穴埋めというより、減っていく契約を補う営業手段を探し直す動きと読める。
その訪問業務の担い手として名前が出てきたのが、2社だった。
サンジュウナナドの親会社は、あの旧エヌリンクス
サンジュウナナドの公式サイトを開くと、マッチングアプリやトレーディングカードの資産管理アプリなど、デジタルサービスが並ぶ。2020年3月設立、資本金1000万円。代表取締役社長は木村昂作氏で、メディア運営などに加え、営業・事務・施工管理を受託するBPO事業も掲げている。

所在地は、東京都豊島区南池袋2-32-4、南池袋公園ビル。親会社のコレックホールディングスも、同じ住所に本社を置く。木村氏は親会社の執行役員にも名を連ねている。
同じ池袋にあるという、地理的な一致だけではない。コレックホールディングスの2026年2月期有価証券報告書では、サンジュウナナドに対する議決権の所有割合は100%。その親会社は、2024年3月にエヌリンクスからコレックへ、同年9月にコレックホールディングスへと社名を変更している。訪問業務の委託先は、旧エヌリンクスを前身とする上場会社の100%子会社なのだ。
さらに、同報告書には、グループが創業以来、NHKの放送受信料の契約収納代行を事業運営の中心としてきたこと、そして2023年9月をもって完全に撤退したことが記されている。
撤退後はゲーム攻略サイト「アルテマ」などのメディアやエネルギー事業へ軸足を移した。売上高は、NHK業務が主力だった2019年2月期の47.6億円から、コレックHDとなった2026年2月期には66.9億円まで拡大している。ただし営業利益は3.8億円から6300万円へ減少。多角化で売上規模こそ大きくなったが、かつてのNHK依存時代ほど利益を稼げているわけではない。
そんなタイミングで、古巣ともいえるNHKの戸別訪問が復活した。そしてNHKの公表資料に委託先として現れたのが、100%子会社のサンジュウナナドだった。
NHKの訪問営業を主力としてきた企業グループが、別法人を通じて再びNHKの訪問業務に戻ってきたのである。
ノービスハイエストサービスの過去の求人に「昼、夕方、夜」
もう1社のノービスハイエストサービスは、名古屋市中区に本社を置く会社だ。2016年3月設立、代表取締役は藤崎大智氏。会社概要では、資本金1000万円、従業員105人とされる。ただし従業員数は2024年12月時点の公表値で、東京、大阪、福岡にも営業所を構える。
こちらも、NHKとは初めての接点ではない。公式サイトの個人情報の取り扱いには、NHK事業における契約・収納業務やフォローコールへの利用が記載されている。さらに過去の採用情報をたどると、訪問営業の具体的な回り方まで見えてくる。

同社が2020年3月から6月にかけて転職サイト「doda」に掲載したNHK営業職の求人だ。そこでは、担当エリアの個人宅や事務所を1日100~150件訪問すると説明。昼間に不在だった場合には夕方、さらに夜と、計3回訪ねるという営業方法が紹介されていた。給与にはインセンティブを設け、インターホンを押してから契約に至るまでの流れを、マニュアルや研修で学ぶ仕組みも示されている。
これは2020年当時の募集内容であり、今回の訪問時間や回数を示す資料ではない。それでも、夜の再訪を含む営業が、少なくとも当時の求人では業務の進め方として明示されていたことは分かる。
営業側にすれば、不在の相手と会える時間を探す行動なのだろう。一方、訪問を望まない住民にとっては、夕方も夜も知らない人が来ること自体が負担になり得る。契約を獲得する側の効率と、生活の場を訪ねられる側の安心は、必ずしも一致しない。なにより、同社の社名を検索すると社名の次にでてくるサジェストワードが「うるさい」であり、典型的な営業会社なのだとわかる。
なぜ「NHK集金人」はここまで嫌われたのか
かつてのNHK訪問営業が嫌われた理由は、受信料制度への反発だけではない。夜間を含めて個人宅を回り、契約を求める営業そのものが、住民との摩擦を生みやすかった。実際、今回の委託先であるノービスハイエストサービスが2020年に出したNHK営業職の求人では、1日100~150件を訪問し、昼に不在なら夕方、さらに夜にも訪ねる営業方法が紹介されていた。成果報酬型の営業と戸別訪問が組み合わされれば、契約を取りたい側と、そもそも応対したくない住民が玄関先でぶつかることになる。
NHK自身も、巡回型訪問営業を見直した結果、営業経費だけでなく「視聴者からの苦情も大幅に減少した」と2026年3月の国会で説明している。つまり、訪問営業が大量の反発を生んでいたことは、NHK側の説明からもうかがえる。
NHK自身が認めていた「訪問営業を見直して苦情が減った」
では、NHKは以前の訪問営業をどう評価していたのか。2026年3月12日の衆院総務委員会で、NHKは、従来の巡回型訪問営業を廃止し、デジタルや書面などを組み合わせる方法へ転換したことで、営業経費が削減され、視聴者からの苦情も大幅に減ったと説明している。自主的な契約が増え、請求に対する収納率も改善したという。
訪問営業を見直した結果、費用も苦情も減った。これは、NHKに批判的な人々の主張ではなく、NHK自身が国会で述べた改革の成果である。それでも、契約件数の減少を補うには十分ではなかったということなのだろう。
共同通信によると、今回NHKは、事前に書面で案内するなどして、相手の理解を得ながら試行的に訪問を進めると説明している。以前より少額ながら、営業成果に応じた報酬も支払われるという。事前の案内は、突然の訪問を減らす工夫にはなる。しかし、手紙を送ったことと、訪問への了解が得られたことは同じではない。
何時まで訪ねるのか。不在なら何度まで再訪するのか。応対を断られた住宅をどう扱うのか。問題のある応対が起きたとき、NHKはどう把握し、委託先に改善させるのか。9月10日付の公表資料には、委託先と実施地域は載っているが、こうした運用条件までは記されていない。
成果報酬があるだけで、強引な営業になるとは限らない。ただ、契約件数が報酬に結び付くなら、応対の適切さをどう評価するかも同時に問われる。契約を取った数だけでなく、苦情や再訪の実態まで確認してこそ、以前との違いが分かる。
NHKをぶっ壊~すの復活か?
NHKの強引な戸別訪問に嫌気を指していた国民の不満や怒りを政治に変えた象徴が、立花孝志氏の「NHKから国民を守る党」だった。その立花孝志氏が長期拘留されている最中を狙いすましたかのような今回の戸別訪問復活劇。
もし再び強引な訪問や夜間営業への不満が噴き出せば、NHKは戸別訪問だけでなく、かつて「NHKをぶっ壊す」という政治運動を生んだ土壌まで掘り起こすことになる。
さてさて、NHKが今回復活させるのは、戸別訪問だけなのか。それとも、あの頃の国民の苛立ちまで、もう一度玄関先から呼び起こすことになるのか。
答えはこれから、各家庭のインターホンの向こう側で明らかになる。



