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国税庁vs経産省「税制戦争」の行方 多くの中小企業が税金の支払いで事業承継ができない国へ一直線?

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国税庁VS経産省
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「本来、経営者なら『どうすればもっと利益を出せるか』を考えるべきでしょう。でも、承継が近づいてからは違いました。どうすれば自社株の評価を抑えられるのか。そのことをずっと考えていました」

つい最近、親族内で会社を承継したある経営者は、そう振り返る。やったことは少なくない。会社をホールディングス(HD)化し、金融機関や専門家と何度も協議して承継のスキームを組んだ。税務上の自社株評価を抑えるため、資産構成まで考えた。東京でオフィスビル不動産の区分所有を取得したこともあるという。

 

「本業と何の関係があるんだ、とは自分でも思っていましたよ。会社を伸ばすなら、新しい商品や設備、人材に金を使うべきでしょう。でも株価が上がれば、今度は会社を継げなくなる。承継するためには、そういうことまで考えざるを得なかった」

このように、相続・贈与時に使われる税務上の株式評価額を気にしなければならない現実が中小企業にはある。取材をしていれば、さして珍しい話ではない。事業承継やサクセッションプランを考える規模の企業であれば、どこでも気になる問題であり、対策しているところも多い。

実際に、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の事業承継解説には、役員退職金、設備投資、不動産取得、持株会社化などを利用した「自社株対策」が堂々と掲載されている。持株会社に借入をさせて株式を買わせたり、不動産など別の資産を持たせたりする方法まで説明されている。経済合理性を欠き、株価を下げることだけを目的とすれば租税回避と判断される可能性もあるため、実務は慎重な設計を要する。

つまり日本では、会社を大きくするコンサルタントがいる一方で、会社を次代に渡すために「自社株をどう低く評価してもらうか」を考える専門家もたくさんいるのだ。この奇妙な均衡を、さらに揺さぶりかねない議論が、いま霞が関で始まっている。

 

国税庁vs経産省「税制戦争」の内幕

「国税庁の頭は狂ってます」

9月18日、Xにこんな投稿が流れた。名乗りは「超黒字中小企業経営者の息子」さん。続けてこう書く。現金化できない資産に対して、現金納付で重税を課す。地域衰退を後押しでも考えているのか。

この無名の跡取りさんの怒りは、その2日前、霞が関の会議室で起きたことに端を発していた。9月16日、国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」。非上場企業の株を相続する際、いくらの価値があるとみなすか。その物差しを2028年1月から変える議論が、4月から重ねられてきたのだ。この第6回会合に、一通の意見書が提出された。差出人は企業団体ではない。経済産業省・中小企業庁。同じ政府の中で、企業を育てる側の役所である。

意見書の一節にはこう記されていた。「企業への影響の程度はこれだけでは全く不十分である」規模別の中央値を眺めて済ませるな。どの会社に、いくらの負担増が生じるのか、一社ごとに検証しろ。役所が役所に向けて書く文書として、これは相当に強い。

 

元経産官僚の宇佐美典也氏は、この対立を「国税庁vs経産省の税制戦争勃発」と名づけ、両者の言い分をこう戯画化した。国税庁は「オレらは純粋に財産評価のあり方を論じてるだけだから、副次的影響は事業承継税制で何とかしろ」と経産省に投げる。

経産省は「ふざけんな。お前らがやったことの無茶な後始末をオレらに押しつけるな。儲かってる企業ほど投資しづらくなって国策にも反する」とガチギレして会議に乗り込み、数分で追い出される。公開された議事要旨を読むと、国税庁が実際に「そうした企業のためにこそ事業承継税制があるのではないか」と述べていることが分かる。株の値段を決めるのは国税庁、負担を軽くするのは別の制度があるだろうと。

翌17日、日本商工会議所の小林健会頭は記者会見で語気を強めた。

「もうかったら税金が取られる、あまりもうけないでいようとなる。これはもう本末転倒だ」

翌18日には日商が意見書で正式に反対を表明し、日経は「中小企業の事業承継が崩壊する」という言葉を見出しに掲げた。全国中小企業団体中央会も「成長意欲を著しくそぐため反対」。経済団体と経産省が、揃って国税庁に牙をむいた形だ。

「税金を取りたい国と、払いたくない企業」の話なら、毎年の風物詩である。

今回が違うのは、国が二つに割れていることだ。そして割れ目の底にあるのは税率ではなく、もっと単純な問いである。はたして、会社に付けた値段と、跡取りの財布は、同じものと考えるべきなのか?

 

社員10人の町工場に「5600万円」

日商が示した試算に、こんな会社が出てくる。製造業。売上高6億5000万円。従業員10人。

実在企業50社のデータから作った仮想モデルだが、地方の工業団地なら一区画に一つはある規模だ。先代が建てた工場と機械があり、月末には材料代と10人分の給料が出ていく。特別なことは何もしていない。ただ、真面目に黒字を出し続けてきた。

国税庁の新方式は、この会社を簿価純資産と残余利益の二つに分けて値付けする。前者は工場や機械、積み上げた内部留保。後者は過去5年の平均利益から配当などを引いた、いわば「稼ぐ力」への評価だ。この物差しを当てると、自社株の評価額は現行の3.8倍になる。相続税の負担増は5600万円。

この5600万円について、確認しておくべきことがある。会社が大型受注を取ったわけではない。跡取りの給料が上がったわけでもない。工場も機械も社員も、先週と何一つ変わっていない。変わったのは国税庁の計算式だけで、その結果、跡取りは新たに5600万円の現金を用意しなければならなくなるという寸法だ。

 

「それだけ価値があるなら、売って払えばいい」。そう言う人は、非上場株を売った経験がない人だろう。上場株のように市場はなく、譲渡制限がついている場合も多い。そして何より、跡取りが株を売るとは、会社を継がないということだ。継ぐために相続した株を、継ぐための税金を払うために手放す。そんな本末転倒な話が起こりかねない。

「会社に金があるだろう」という声もある。だが会社の預金は跡取り個人の預金ではない。材料代も給料も設備更新も、そこから出る。借りて払えば済む、というのも違う。経産省の意見書は、成長投資に使うはずの融資枠が納税資金に食われるといったキャピタルアロケーションがゆがむ可能性を挙げ、さらに株式や事業資産の売却、廃業につながるおそれにまで言及した。

つまり中小企業庁が心配しているのは、税額が増えることそのものではない。その金を捻出するために、この町工場が何を諦めるか、である。

経営者に「稼げ」と言いながら、稼いだ会社を子へ渡そうとすると負担が重くなる。この矛盾を日商や経産省側は問題視している。日本商工会議所が2026年に3033社から回答を得た調査でも、事業承継が「円滑だった」と答えた企業ですら、自社株評価額の高さや納税資金を課題として挙げている。従業員20人以下でも、自社株評価が1億円を超える企業は3割超あった。

 

「社員持株比率アップ」の美談、その裏にあった相続税

もっと生々しい話もある。筆者が取材したある老舗の専門商社では、代替わりを前に創業家が頭を抱えていた。会社は順調だった。長年の蓄積で株価は上がり、逆に、その株をそのまま次世代へ渡すことが難しくなっていたという。

そこで同社が選んだのは、創業家が保有する普通株を整理し、従業員側へ株式を移していく資本政策だった。最終的に創業家側が残したのは、重要事項に拒否権を持たせる種類株式、いわゆる黄金株のみ。普通株の多くを従業員が持つ形となり、社員の持株比率は大幅に高まった。

外から見れば、従業員参加型経営への転換だ。実際、「社員が会社の株主になる」「従業員の経営参画意識を高める」といった文脈で好意的に取り上げられたという。

だが、事情を知る関係者の説明はもっと現実的だ。

 

「美談になりましたけど、一番大きかったのは相続ですよ。このまま創業家が普通株を持ち続けたら、次の代に渡すのがあまりにも重かった。だから普通株を創業家に残さない形をつくったんです」

違法な話ではない。中小企業庁の事業承継ガイドラインにも、従業員持株会と種類株式を併用する事例が掲載されている。拒否権付株式、いわゆる黄金株も、事業承継で使われる制度の一つである。むしろ興味深いのは、会社の歴史が長く、事業がうまくいき、株式価値が上がった結果、創業家が普通株を持ち続けること自体が承継の障害になったことである。

社員持株制度という美しい物語の裏で、相続税という極めて現実的な計算が走っていた。

株は売れない、税は現金 浜田聡氏の指摘

 

この構造を一行で言い切ったのが、前参議院議員の浜田聡氏。

「後継者は経営を続けるために株を売れないのに、納税だけは現金で求められる。払えなければ会社や事業資産を手放すのが現場の実態です」

浜田氏は中小企業庁の意見書を妥当としつつ、問題はそこではないと言う。「本質は計算式の微調整ではなく、換金できない自社株に重い相続税を現金で課す仕組みそのもの」。今回の案は純資産に数年分の利益を上乗せする方向に寄せるもので、すべての会社の評価が上がるわけではない。だが「業績を伸ばしている優良企業ほど評価が吊り上がり、相続税も跳ね上がる」。

国税庁が受け皿に挙げる事業承継税制についても、浜田氏の評価は辛い。「要件は厳しく手続きも重い。例外措置があるから本体の負担は問題ない、とは到底言えません」。これは経産省側の意見書とも重なる。中堅企業はそもそも対象外、中小企業でも長期の管理コストから使える者は限られる現行の制度。

「投資を止め、賃上げを止め、地域の中核企業を細らせる税制は、日本の競争力そのものを削ぎます」。浜田氏はそう結んでいる。

 

「十数件」のために「175万社」

そもそも、なぜ国税庁は物差しを変えたいのか。発端は2024年、会計検査院が現行方式を事実上見直すよう求めたことにある。事業規模の大きい区分の企業ほど相対的に低く評価される傾向がある、先述したコンサルなどが企業各社に提案するHD化などの組織再編を使った評価額の圧縮に部分修正では対処できないというのが国税庁側の説明だ。

衆院議員の門ひろこ氏(東京8区)は、ここに数字をぶつけた。「会計検査院が指摘した租税回避スキームは10数件しか確認されてないのに、影響を受けうる中堅・中小企業は法人数で約175万社」

十数件の節税封じのために、175万社の値付けを変える。しかもそれを「役所の有識者会議を回して決めてしまおうとしている」。門氏はこう続ける。税負担が増える話であれば「役所の庭先でロジックをこねくり回すのではなく、自民党税調/与党税調での議論を経て、国会で与野党あわせて議論すべき話ではないでしょうか」。

 

通達の改正であれ、跡取りの支払額が変わるなら、それは実質増税になる。門氏のもとには「来年の統一地方選で高市政権に打撃を与えるために、中小企業への増税を財務省/国税庁が仕掛けてる」のではないかという見方まで届いているという。真偽はともかく、そういう疑念が地元の経営者から議員に寄せられる程度には、この話は政治案件になっているということだろう。

実際、永田町は動いている。萩生田光一氏の事務所は、八王子商工会議所や東京商工会議所と意見交換を重ね、経産省・中小企業庁と打ち合わせを重ねた末に「今回、経済産業省・中小企業庁が文書を出しました」と明かした。あの意見書の背後には、政治家の関与があったのである。萩生田氏はこう言う。

「中小企業の事業承継は、会社の引き継ぎだけではありません。技術や人材の継承でもあり、単なる税制の問題ではないと考えます」

見直し案は、高市政権の掲げる「中堅・中小企業が主役となって地域経済をけん引する」方針に反しかねない、とも。国税庁は財務省の外局である。政権の看板政策に、政権の役所が逆走している格好だ。

 

長寿企業大国の値段

帝国データバンクによれば、2025年12月時点で業歴100年以上の企業は全国に4万6708社ある。24.4%が製造業。売上高が判明した老舗の約8割は10億円未満だ。

つまり日本の長寿企業とは、その大半が地方の、社員十数人の、真面目に黒字を出してきた会社である。日商が試算した「売上6億5000万円、社員10人の製造業」と、ほとんど同じ顔をしている。

国税庁の新方式は、こうした会社の「積み上げた資産」と「稼ぎ続けてきた力」に、より正直な値段をつける。正直であること自体は悪くない。ただし、その値段は跡取りの預金残高とは無関係に決まり、税は現金で請求される。払えなければ株を売るか、事業資産を売るか、借りるか、畳むか。中小企業庁が「売却・廃業」という言葉を意見書に書いたのは、大げさではない。

 

経産省が国税庁に求めているのは、業種や経営状況に応じた一社ごとの試算だ。評価が上がる企業が42%だという割合ではなく、どの会社で、いくらの負担が生じ、その会社は納税した翌年も社員を雇い、材料を仕入れ、機械を入れ替えられるのか。相続税の計算が終わったあとの会社を見ろ、と言っているのである。

跡取りが知りたいのも、自社株の新しい値段ではない。その株を受け継いだあとに、まだ会社が残っているかどうかだろう。

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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