宮里竹識代表(撮影:加藤俊、以下同)
制度はある。だが、その制度を最も必要とする人ほど、申請までたどり着けない。うつ病の障害年金には、そんな矛盾がつきまとう。
この課題に、日本で唯一「うつ病の障害年金」への専門特化(同社調べ)を掲げて挑むのが、社会保険労務士法人全国障害年金パートナーズだ。2025年の成功率は98.98%。業界トップクラスの案件数を、わずか4人の社員で担う。しかも、そのうち1人は社労士ではない。
なぜうつ病の障害年金には専門的な支援が必要なのか。そして「4人目の社員」の正体とは。宮里竹識代表に聞いた。
制度を最も必要とする人が、たどり着けない
厚生労働省の2023年患者調査によると、うつ病を含む「精神及び行動の障害」の総患者数は489万6,000人。障害年金は、病気やけがで生活や仕事が制限された人の所得を支える制度だが、初診日や保険料の納付状況、障害の程度など複数の要件を満たす必要がある。
うつ病の審査には固有の難しさがある。視力や聴力と違い、症状の重さを表す数値がない。そのため、食事や入浴、買い物、金銭管理といった日常生活の状況や就労の可否が総合的に見られ、精神の障害用診断書は原則A3判両面。本人は病歴・就労状況等申立書なども準備しなければならない。
問題は、この煩雑な手続きを担うのが、意欲や思考力の低下した当事者本人だという点だ。手続きの途中で力尽きる人、申請の入口までたどり着けない人も少なくない。働けない人を支えるための制度でありながら、その手続きが当事者の新たな負担になる。この矛盾が、同社の事業の出発点にある。
社員4人で、年間491件
宮里氏の著書
宮里氏によると、障害年金を専門的に扱う社労士事務所は全国に約200あるが、「うつ病」を専門領域に掲げるのは同社が調べた範囲で全国障害年金パートナーズだけだ。2025年に正式受託した案件は491件、うち486件で支給が認められ、成功率は98.98%。累計の受給代行は3,003件、獲得年金額は69億3,261万円に上る。なお、成功率の分母は年間約1万5,000件の無料判定ではなく、正式受託した案件。数字の「定義」を明示する姿勢も同社の特徴だ。依頼者が受け取る年金は平均で年120万〜130万円ほど、サポート開始から受給決定まではおおむね半年だという。
驚くべきはこのサポートを4人という少人数体制で回していることだ。しかも内訳は、社労士3人と、社労士ではない専門職が1人。この仕組みは、どのような原点から生まれたのか。
妻のうつ病と、医師の「届く言葉」
宮里さんが、うつ病の障害年金に特化した背景を教えてください。
宮里
私の実兄には、生まれつき重度の知的障害があります。障害は、子どもの頃から遠い世界の出来事ではありませんでした。父も沖縄で社労士として開業しており、年金や社会保険は家族や周囲の人を支える仕組みだと聞いて育ちました。私自身も上京して社労士資格を取り、実務経験を積みました。
転機は2012年ごろ。妻が仕事を続けられなくなり、落ち込みや感情の波が目立つようになりました。たまたま書店で『ツレがうつになりまして。』を手に取り、
妻の状態と重なることに気付いたのです。妻は「私を病人扱いしないで」と受診を嫌がりましたが、「病気だと決めつけるためではなく、今より良くなるための助言を聞きに行こう」と何度も話し合い、ようやく病院へ行くことができました。
宮里
最初は薬を飲むことにも抵抗がありました。ただ、担当の先生が素晴らしい方でした。最初の問診の後、妻に向かって「あなたの状況は必ず良くなります。うつ病は治る病気ですから、一緒に頑張って治していきましょう。大丈夫です」と自信を持って言い切ってくださったのです。
その瞬間、妻の目に涙が浮かびました。自分の苦しみを分かってくれる人がいた、と安心できたようです。「この先生の薬なら飲んでみる」と治療に前向きになり、現在は元気に回復しています。
宮里
治療が始まった後、障害年金の手続きを進めようとしたのですが、社労士の私にも非常に難しかった。書類の不足や修正を何度も指摘され、年金事務所と病院を行き来しました。専門家でもこれだけ疲弊する手続きを、うつ病の本人や看病で疲れた家族が行うのは無理がある。同じ思いをほかの家庭に味わわせたくないと、2014年の独立時から、うつ病の障害年金への特化を決めていました。
「病状が安定した」の一語が、逆の意味に読まれる
うつ病に特化することで、どのような違いが生まれるのでしょうか。
宮里
例えば、診断書に「病状が安定してきた」と書かれることがあります。医師は、うつ病特有の激しい症状の波が一定になったという意味で使っている。症状が軽くなったとは限りません。ところが審査側は「安定したなら回復に向かっている」と受け取る可能性がある。実際に、この解釈のずれで審査に通らなかったケースが過去にはありました。
うつ病の案件を繰り返し扱うことで、こうした細かなずれが見えるようになります。創業初期から、成功率が95%を下回ったことはありません。書類を通すために事実を変えるのではなく、その人の実際の状態が誤解なく伝わるようにする。それが専門家の役割です。
業界には、医師に「このように書いてほしい」と迫って怒らせてしまう社労士もいると聞きます。御社は医師とどう向き合っていますか。
宮里
書き方の指示は一切せず、判断は必ず先生に委ねます。私たちの役割は、先生が診断書を書きやすくなるよう情報を整理して渡すことです。特に重要なのが日常生活の実態です。短い診察時間の中で、毎日の食事を自分で用意できているか、入浴できているか、ゴミを出せているかまで話すのは難しい。「今の話を先生に伝えられていますか」と相談者に確認すると、ここまで伝えられていない人が9割以上だと感じます。そこを、丁寧なヒアリングでまとめた参考資料で埋めるのです。
それでも診断書の作成を断られるケースは1割強あります。そこで2026年には、診断書作成と受給の実績を確認できた全国2,500以上の医療機関を地図で検索できる「ドクターナビMap」を公開しました。将来の受給を保証するものではありませんが、申請を断念しかけている人の手掛かりになればと思っています。
社労士法人に、なぜ「声」の専門家がいるのか
冒頭で触れた「4人目の社員」について伺います。御社には話し声専門のボイストレーナーが社員として在籍しているそうですね。
宮里
専門家はつい「正しい知識を説明すれば役割を果たせる」と考えがちです。でも重要なのは、何を話したかではなく、相手にどう届いたかです。妻を治療に向かわせたのも、先生の正確な診断だけでなく、あの「届く言葉」でした。
うつ病の相談者は、長い説明を聞くだけでも負担になります。こちらの滑舌が悪くても、話す速度が速くても、「もう一度お願いします」と言えず、理解できないまま「はい」と答えてしまう人もいます。それでは正しい制度説明も意味がありません。相手の状態を考えながら、声のトーンや速度、間の取り方まで調整する必要があるのです。
最初の3年ほどは社員全員で外部のボイストレーニング教室に通っていました。それだけ価値があるなら社内にいてもらった方がいい。そう考えて、教わっていた先生を教室からヘッドハンティングしました。さすがに元の教室には少し怒られましたが(笑)、それくらいの価値を声に感じています。
今も全社員が週1回のトレーニングを受け、相談電話はすべて録音してフィードバックを受けています。ピアノと同じで、サボればすぐ質が落ちますから。成果は年単位で表れました。相談者の方は複数の事務所に電話をかけて比較されることも多いのですが、「おたくは全然違う」とよく言っていただけます。
動けない人を急かさず、「動ける日」を待つ
創業以来、日刊メールマガジンを毎日発行し続けているそうですね。
宮里
うつ病の人は、今日は少し動けても、翌日はベッドから起き上がれないことがあります。無料判定を受けた日に、すぐ依頼を決められるとは限りません。だから焦らせるのではなく、私たちの考えや社員の人柄、支援事例を伝え続け、本人が「今日は動けそうだ」と思った日に思い出してもらえる状態をつくるのです。
これは支援であると同時に、マーケティングでもあります。専門知識だけでは士業の経営は成り立たないと考え、独立前からマーケティングやセールスライティングを徹底的に学びました。見込み客と接点を持ち続ける発想は士業では珍しく、実は大きな優位性になっています。
成功率98.98%を土台にした「10倍返金保証」
コーポレートサイトには、利用者の声が開示されている
御社の報酬は着手金1万1,000円と成功報酬型で、不支給の場合は条件を満たす依頼者に着手金の10倍の10万円を返す保証があります。どう生まれたのですか。
宮里
創業当初は資金が必要で、20万〜30万円を先に受け取り、不支給なら1割上乗せして全額返す形でした。1年ほどで資金が回るようになり、依頼者が動きやすい成功報酬型に変え、そのとき着手金の10倍を返す今の保証にしました。
相談者は不安で、動けない状態にあります。「年金を受け取れるか、万一だめでも10万円が戻るか」という損の少ない選択肢で、最初の一歩を後押ししたかった。もちろん思いだけではなく、成功率が98%を超えているからこそ成り立つ計算もありました。なお、保証には病名や納付状況などの条件があり、対象は受託者の6割ほどです。
「第4の選択肢」と、援助ではなく「保険」という考え方
うつ病で休職した社員の傷病手当金が終わっても復職できないとき、企業も本人も難しい判断を迫られます。経営者や人事に伝えたいことはありますか。
宮里
復職か、休職の継続か、退職か。この三択に、所得を支える障害年金を検討するという「第4の選択肢」を加えてほしいのです。仮に雇用がいったん終わるとしても、「この先は何もない」と切り離されるのと、「収入を確保しながら療養できる可能性がある」と伝えられるのとでは、本人の受け止め方がまるで違います。誰でも受給できるわけではありませんし、企業にできるのは制度と相談先を伝えることまでですが、それだけでも「元気になったら戻ってきてください」と言える余地が生まれます。
最後に、「国から援助を受けるのは申し訳ない」と申請をためらう人へ伝えたいことは。
宮里
障害年金は生活保護のような援助ではなく、皆さんが保険料を納めてきた社会保険の給付です。生命保険や自動車保険で、保険金の請求をためらう人はいませんよね。まずは年金を受け取り、経済的な不安を減らして、心と体をしっかり休めてください。そして回復したら働ける範囲で働き、今度は次の誰かの障害年金を支える側に回ればいい。受け取ることを、自分を責める理由にしないでほしいのです。
制度が存在することと、必要な人が実際に使えることは同じではない。医師に生活実態を届ける資料、動ける日を待つ日刊メルマガ、返金保証、そして声のトーンまで。全国障害年金パートナーズは、意欲や判断力の低下した人を起点に支援のすべてを組み直すことで、「安心して休める社会」の実現に挑んでいる。