
全品390円という手ごろな価格で、キャラクターグッズや推し活アイテムを幅広くそろえる人気雑貨店がある。SNSで新作の入荷を心待ちにするファンも多いその「サンキューマート」がいま、まだ発売前の一つの企画をめぐって、異例の判断を迫られることになった。
先行予約が始まるはずだった当日、同社は新作の推し活シリーズ「推しと牛乳でみるみる成長中!」の発売中止を発表し、謝罪した。5人組ボーイズグループ「M!LK」を連想させ、公式コラボを経ない便乗ではないかとの指摘が相次いだためである。ただ、その受け止めはファンの間でも大きく割れている。
予約開始当日に一転中止 サンキューマート「推しと牛乳でみるみる成長中!」とは
サンキューマートを運営するのはエルソニック株式会社で、全品390円(税込429円)均一を掲げる雑貨チェーンである。今回問題となった「推しと牛乳でみるみる成長中!」は、「フルーツミルク」や牛乳、牛をモチーフにした推し活グッズのシリーズだった。牛柄の着ぐるみやパーカー、牛乳パック風のカードホルダー、アクリルフレームキーホルダーなど、推しを飾るためのアイテムが並ぶ予定だった。
中日スポーツによると、同シリーズは17日に告知され、18日正午から公式オンラインショップで先行予約を開始、11月中旬からは全国の店舗でも順次販売する計画だった。ところが、その予約開始が予定されていた当日、同社は一転して全面的な中止を決めた。予約直前という異例のタイミングでの撤回である。
同社は公式サイトとXに「『推しと牛乳でみるみる成長中!』発売中止のお知らせ」を掲載。「ご意見・ご指摘をいただき、これらを真摯に受け止め、改めて検討した結果、発売を中止する判断に至りました」とし、「ご心配とご迷惑をおかけいたしましたこと、深くお詫び申し上げます」と謝罪した。楽しみにしていた客への配慮を示しつつ、頭を下げる形となった。
「みるみる」「牛乳」「メンカラ」 M!LK便乗を指摘する声
批判の的となったのは、シリーズ全体が「M!LK」を想起させるという点だった。M!LKはスターダストプロモーションに所属する5人組のダンスボーカルグループで、2014年に結成され、近年は楽曲「イイじゃん」がSNSで大きな反響を呼ぶなど勢いに乗っており、熱心なファン層を抱える。それだけに、名前や色への感度も高いグループである。
ファンが便乗を疑った根拠は複数ある。企画名に含まれる「みるみる」という響き、グループ名と直結する牛乳のモチーフ、そしてカラー展開だ。中日スポーツによると、商品の色はピンク、青、赤、白、黄というメンバーカラーと完全に一致していたという。皮肉なことに、M!LKはもともと「何色にも染まることができる」というコンセプトを掲げてきたグループでもある。
事前に公開されたビジュアルを見たファンからは、「ちゃんとM!LKとコラボすればよかった」「正規の方法でコラボしたらいい」といった声が上がった。公式のコラボレーションを経ていないにもかかわらず、特定のグループのイメージへ露骨に寄せているのではないか、という不信感である。
「敏感すぎ」「中止は残念」も 割れるファンの反応
もっとも、今回の一件に対する受け止めは一様ではない。
ねとらぼによると、告知の直後には「もはやM!LK概念」「全部かわいい」と好意的に受け止め、購入に前向きなファンも数多く見られた。中止の発表後には「中止は残念」と惜しむ声のほか、「牛やミルクのモチーフを売るだけなら問題なかったのでは」「牛乳のグッズはM!LKを通さないと駄目ということか」と、過剰反応ではないかと戸惑う意見も相次いだ。
一方で、「あれは完全にアウト」「露骨すぎた」と中止を支持する声も根強い。牛乳や牛といったモチーフ自体は無数の商品に使われてきただけに、どこからが便乗で、どこまでが許容範囲なのか。その線引きをめぐって、ファンの間でも評価が交錯している。企業への苦言と、行き過ぎた指摘への懸念が、同じタイムラインの上で入り混じる展開となった。
におわせ商法とメンカラ便乗 推し活グッズ市場のグレーゾーン
今回の騒動は、サンキューマート一社の企画にとどまらない論点を含んでいる。特定のグループやキャラクターを公式に明示しないまま、メンバーカラーやモチーフをそれとなく想起させる、いわゆる「におわせ」型のグッズ展開である。
推し活市場が拡大するなか、ファンは自分の「推し」を連想させる色や意匠の商品に強く反応する。企業にとっては、版権料を伴う正式なコラボを結ばずとも、ファンの購買意欲を取り込める手法になりうる。SNS上では、過去に展開された多色の雪だるまや宝石をモチーフにしたシリーズなどを引き合いに、こうした色展開はこれまでも繰り返されてきたと指摘する声もあった。
ただ、この手法は常にファンの心情との緊張関係にある。純粋に作品やグループを応援したいファンほど、非公式の便乗と受け取れば失望も大きい。今回、購入を望む声と批判の声が同時に噴き出したことは、便乗と着想の境界が曖昧なままこの商法が広がってきたことの表れとも言える。
公式コラボと非公式の境界 企業に問われる線引き
商品そのものに違法性があるわけではなく、名指しでグループ名をうたっていたわけでもない。それでも、予約当日という段階で中止に踏み切った背景には、ファンコミュニティの反応の速さと、ブランドイメージへの配慮があったとみられる。安価で親しみやすいグッズを強みとしてきた企業にとって、ファンの信頼は看板そのものだからである。
推し活グッズは、ファンの熱量に支えられて成り立つ市場である。だからこそ企業には、どこまでが健全な着想で、どこからが特定の存在への便乗となるのか、これまで以上に慎重な線引きが求められる。今回の判断が一過性の対応で終わるのか、それとも業界全体が非公式の「におわせ」と向き合う契機となるのか。推し活文化とグッズビジネスが、ともに成熟を試される場面に差しかかっている。



