
構造と設備の専門エンジニアをそれぞれ15名以上擁し、一都三県の新築マンションを中心に設計・監理・コンサルティングを手がけるエナ・デザインコンサルタント。工事費まで見据える「経済設計」を掲げる一方、約5年前には全社員50名中26名が離職する危機を経験した。そこから基本理念の最優先を「社員とその家族」へと改めた同社は、設計の価値と技術者の働き方をどう捉えているのか。
「設計料は費用ではなく投資」——工事費まで見据える「経済設計」
設計料を抑えるのではなく、工事費まで含めた事業全体の価値を考える。エナ・デザインコンサルタントが掲げるのは、「設計料は費用ではなく投資である」という考え方だ。
同社は一都三県の新築マンションを中心に、構造・設備設計、現場監理、コンサルティングを一貫して手がける。会社情報では、耐震診断も事業内容に挙げている。そこで重視しているのが、安全性を高い次元で確保しながら、物理法則に誠実に向き合い、無駄な資材を徹底的に削ぎ落とす「経済設計」である。
インタビューシートでは、設計料が他社より高くても、性能を確保しながら工事費を数千万~数億円安くできると説明している。さらに、お施主様に10倍以上の費用対効果を還元することを目指しているという。単に図面という「モノ」を納めるのではなく、お施主様の「事業成功(コト)」に貢献することが、設計の役割だと捉えている。
その考え方を支えているのが、構造と設備を社内でつなぐ体制だ。顧客から寄せられた「構造と設備が一緒にいてくれて本当に助かる」という言葉にも、同社が目指す設計のあり方が表れている。
構造と設備、それぞれ15名以上。内製で完結する「ワンストップ体制」
エナ・デザインコンサルタントには、構造と設備の専門エンジニアがそれぞれ15名以上在籍している。従業員数は40人。構造・設備設計だけでなく、現場監理やコンサルティングまで含めて内製完結できる「ワンストップ体制」を築いている。
同社はこの体制を、業界では極めて稀なものと位置づける。インタビューシートでは、構造・設備の専門エンジニアがそれぞれ15名以上在籍し、内製完結できる体制を「ワンストップ体制」と表現している。その先に置いているのは、設計業務そのものの受注ではなく、お施主様の事業成功である。
実際、顧客からは「全てお任せします!」「構造と設備が一緒にいてくれて本当に助かる」といった言葉が寄せられているという。さらに、他社が実現できないとした要望を「経済設計」で形にしてきたとし、現在の自社を「行列ができる設計事務所」と表現している。
ただし、現在の体制に至るまでの道のりは順調なものばかりではなかった。およそ5年前、売上を追いすぎた結果、組織そのものが大きく揺らぐ出来事を経験している。
50人中26人が離職。理念の最優先を「社員とその家族」へ

当時、全社員50名のうち26名が離職した。インタビューシートでは、この出来事を「壊滅的な崩壊危機」と振り返る。そこで同社が突きつけられたのは、顧客へのサービスと、そこで働く人の状態をどう両立するかという問題だった。
その反省から生まれた言葉が、「自己犠牲の上のサービスはまやかしだ」である。基本理念の最優先を「社員とその家族」に書き換え、働く環境そのものを見直した。
具体的には、「失敗を恐れず挑戦していい。法的責任は会社が100%保障する」という心理的安全環境を整え、単価向上と適切な報酬制度、社員幸福の環境づくりを進めてきた。挑戦する姿勢を「ナイストライ!」と笑顔で称え合う文化も、その一つである。
こうした環境づくりとあわせて、同社は「技術力×人間力」を掲げている。顧客から「業界の未来のためにも、エナは成長し続けてくれ」と言われたことも、インタビューシートには印象的な言葉として記されている。
「設計者の社会的地位を向上させたい」——創業の原点にある危機感
同社が社員の働き方にこだわる背景には、創業時から抱えてきた問題意識がある。
インタビューシートでは、日本の設計事務所の90%が10人以下の零細組織で、一級建築士の中でも構造はわずか4%、設備は1%しかいないともいわれている、としている。さらに、少子高齢化と多重下請け構造のなかで、末端にいる技術者ほど過酷な労働と薄給に追われ、疲弊して夢を諦めてしまうことを社会問題として挙げる。かつての姉歯耐震偽装事件にも触れながら、技術者が置かれてきた状況への問題意識を示している。
回答者自身は、美容師から20代半ばでこの業界に入った。災害の多い日本で、技術者が夢を語れない現実に強い憤りを覚えたことが、「設計者の社会的地位を向上させたい」という思いにつながったという。
「エンジニアが笑顔でなければ、日常の安全という当たり前は守れない」。その危機感から、技術力と人間力を兼ね備えたリーディングカンパニーを目指し、2010年に創業した。「設計者の社会的地位を向上させたい」という創業時の思いは、現在の長期ビジョンにもつながるテーマとして示されている。
マンションの先へ。技術者が誇りを持てる仕事を広げる
現在、エナ・デザインコンサルタントは「構造・設備エンジニア事務所国内No.1」という長期ビジョンを掲げる。これまで培ってきたマンション領域での専門性を基盤に、大手設計事務所や大手ゼネコンから直接オファーを受け始めているといい、倉庫、ホテル、超高層、商業施設などへの「全面展開」に向けて技術力を磨いている。
あわせて、AIやBIMを活用した次世代設計を進め、生産性を徹底的に引き上げる方針も示す。その先に置くのは、設計を単なる「図面」から「価値」へ変え、技術者が社会的に正当に評価され、家族に自慢できる環境をつくることだ。まずは平均年収750万円を目標として掲げている。
インタビューシートの読者へのメッセージには、「建築設計は、一本の線で人命を守り、何十年先の日常の快適を創り出す、極めてやりがいのある仕事です」とある。だからこそ、古い商習に縛られず、技術者自身が豊かで誇り高く挑戦し続けられる「当たり前」をつくることを目指す。さらに、日本の建設産業を「より透明で、付加価値が高く、次世代が本気で憧れる産業」へ再定義したいという意思も示している。
構造と設備を一つの組織に集め、経済設計で顧客の事業に向き合い、組織の危機をきっかけに社員とその家族を理念の最優先へ置いた。これらの取り組みの延長線上に、建築士を子どもたちのなりたい職業へ再び引き戻すという目標がある。同業者やゼネコン、意匠事務所、お施主様、未来の仲間と共に建築の社会的価値を高めていくことも、同社が読者へのメッセージとして掲げる姿である。



