
不動産会社エスポア(東京・渋谷)の上場廃止が決まった。名古屋証券取引所は9月16日、重要な財務情報が長期間、不確かな状態に置かれていることなどを理由に、同社株を10月17日付で上場廃止にすると発表した。
何が起きていたのか。同日、エスポアが公表した第三者委員会の調査報告書によると、同社は実態の認められない仕事について、1億1000万円の売上を計上していた。調査が進むと、その取引を主導した「事業本部長」が偽名を使い、会社も本人の身元を確認していなかったことが明らかになった。
エスポアとは何の会社か 上場維持を迫られた不動産会社
エスポアは、マンションや商業施設の開発・販売、土地や建物の賃貸・管理、不動産売買を支援するコンサルティングなどを手がける会社だ。1972年に設立され、かつてはゲオグループで不動産事業を担っていた。2008年に名証へ上場し、2011年にはゲオグループを離れている。2026年2月末時点の同社単体の従業員は、正社員2人と臨時従業員2人という小さな上場会社だった。
そのエスポアが抱えていたのが、資産より負債が多くなる債務超過の問題だった。同社は2026年2月期末までにこれを解消できなければ、2期連続の債務超過となり、上場廃止につながる状況にあった。そんな決算期末に計上されたのが、不動産コンサルティングなどの収益3件である。
ところが、決算を点検する会計監査人は、仕事の実態を確認できる十分な証拠を得られず、監査意見を出せなかった。この問題が、第三者委員会による調査の出発点となった。
1億円の仕事を調べると、相手はエスポアを知らなかった
特に問題となったのは、税抜き1億1000万円の不動産コンサルティング売上だ。この案件を主導したのが、報告書で「g氏」と記された事業本部長だった。g氏らの説明では、エスポアは依頼主の不動産売却を手伝い、買主の紹介やホテル計画の資料作成支援、隣接地の取得交渉などを行ったことになっていた。
ところが、委員会が買主企業に確かめると、同社はエスポアもg氏も認識していないと回答した。買主側の業務日誌を確認しても、g氏が買主を紹介したという経緯は成り立たなかった。さらに、隣接地の取得について協議したとされる町会に尋ねると、g氏が交渉相手として挙げた人物そのものが存在しないという。ホテル計画を作成したとされる企業も、エスポアの依頼で作ったものではないと回答した。裏付けを取ろうとするたびに、説明が崩れていった。
g氏と依頼主は仕事をしたとの説明を維持したが、委員会は取引の実在性を認めなかった。ただし、依頼主からエスポアへの支払い自体はあり、消費税込みで1億2100万円が動いている。仕事の実態が認められないのに、なぜこれほどの金額が支払われたのか。委員会は、その目的までは解明できなかったとしている。
「事業本部長」は偽名 本人確認でさらに崩れた説明
では、g氏とは何者だったのか。本人の説明によると、株主間の紛争に絡んでエスポアに関与し、従業員の離職などを受けて事業にも深く携わるようになったという。実際、g氏は取締役会にオブザーバーとして出席し、社長と並んで事業の中心人物として活動していた。しかし、役員ではなく、雇用契約や業務委託契約の書面も交わしていなかった。
身元への疑いが生じたのは、委員会がパソコンのデータを調べたときだった。業務用のWord文書の作成者欄に、g氏が名乗っていたものとは別の名前が残っていた。g氏は当初、従兄弟の名前だと説明した。しかし、保険会社にその名前を自分の名前として申告した記録も見つかり、最終的にはそちらが本名だと認めた。偽名を使った理由について、g氏は詐欺事件の実刑前科を隠すためだったと説明している。
本人確認をめぐる説明は、それだけでは終わらなかった。g氏は書類を提出できない理由として入院を挙げ、病院の領収書のようなものを提示したが、後にそれも偽造または虚偽作成だったと認めたという。一方、会社側は、g氏について本人確認も反社会的勢力のチェックも行っていなかった。重要な取引を任せる相手について、会社は基本的な確認をしないまま事業を進めていたのである。
エスポアの役員は、なぜ確かめなかったのか
委員会は、調査した3件すべてを実態のない取引としたわけではない。別の不動産コンサルティング1件については、仕事の実態を認めている。一方、蓄電池関連の1件では、社長自身が関わり、翌年度に計上すべき2000万円の収益を前倒ししていたと認定した。この2件を修正すると、2026年2月期の連結決算は約1億868万円の債務超過になるという。
なぜ社内で止められなかったのか。報告書によると、役員の多くはg氏を株主間の紛争を解決した人物と認識する一方、どのような人物なのか十分に理解せず、深く関わったり指摘したりできない状況にあった。委員会は、各取締役や各監査役が、誰かが契約書を確認しているだろうという他人任せの姿勢で、本来必要なチェックをしなかったと指摘した。問題の1億1000万円の取引も、実質的な審議を経ない書面決議で承認されていた。
エスポアは、委員会の事実認定や会計判断には従来の見解と異なる点があり、決算への最終的な影響額は確定していないと説明している。
それでも、この問題を「偽名の人物に振り回された会社の話」だけで片付けることはできない。本名も確かめない人物に重要な取引を任せ、その仕事を十分に検証しないまま決算に載せた会社の側にも、説明責任が残っている。



