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セイコータイムラボ株式会社

https://www.seiko-stl.co.jp/

〒135-0007 東京都江東区新大橋1-12-13

修理から始まった会社、セイコータイムラボ。一本の時計に宿る時間を支え続ける

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セイコータイムラボ株式会社
セイコータイムラボ株式会社 管理部 部長 諸星 貴雄氏(左)と管理部 総務経理課 鍋島 里彩氏(右)

機械式時計やビンテージウォッチの人気が再燃し、ものを長く大切に使うという価値観が広がるなかで、時計の修理・メンテナンスへの需要が高まっている。買って終わりではなく、手をかけながら使い続ける。その営みを支えてきたのが、セイコーのグループ会社として腕時計の修理・メンテナンスを専門に手がけるセイコータイムラボ株式会社である。

同社の仕事は、壊れたものを直すという行為にとどまらない。熟練の技を次の世代へ受け継ぎ、一本の時計が世代を越えて時を刻み続ける文化そのものを、静かに下支えしている。

 

源流と再定義

セイコータイムラボの源流は、1877年に看板を掲げた「服部時計修繕所」にさかのぼる。のちにセイコーの礎を築く服部金太郎が、17歳で最初に構えた仕事場である。その4年前、13歳だった金太郎は近所の時計店をのぞき、雨で客足の途絶えた日にも店員が黙々と修理に励む姿を目にした。販売だけでなく修理でも利益を得られる。そう見抜いたことが、時計屋を志す決心につながったと伝えられている。この会社の系譜は、そのDNAを引き継いでいる。なお、服部金太郎は、1881年に「服部時計店」を創業し、グループとしての発展をスタートする。

修理を専門に担う会社として法人化されたのは1964年9月のことだ。時計が一般に広く普及し始めた時代であり、誰もが製品を長く使えるよう品質を維持・向上させる必要があった。加えて、製造拠点が複数箇所に分かれているため、修理に専門で対応する体制が求められていた。町の時計店に委ねるだけでなく、国内のどこでも安心して修理を受けられる仕組みを築き、一定水準を保ったメーカー修理を実現する。それが設立の目的であり、時計の普及そのものを裏側から支える役割でもあった。

現在の同社は、セイコーグループのウオッチ事業においてアフターサービスを担う一社として位置づけられている。従業員数は164名(非正規含む、2026年4月1日現在)。東京・江東区の本社と大阪の事業所を拠点に、腕時計の修理・メンテナンス、純正部品やバンドの販売・調達管理、そして海外の修理拠点への技術指導を手がける。連結で1万人を超えるグループのなかでは決して大所帯ではないが、市場に出回るセイコーの時計が使い続けられるかどうかは、この会社が担う技術に支えられている。

転機は2019年に訪れた。それまでの「セイコーサービスセンター」という名称を「セイコータイムラボ」へと改め、会社は新たな段階へ踏み出す。込められたのは、壊れたものを直すという従来の修理にとどまらず、真のグローバルブランドとして世界の時計市場においてリーディングカンパニーとなることを目指すセイコーブランドの価値向上に寄与するという意志だった。修理の位置づけは、製品ライフサイクルの出口ではなく、次をつくるための起点、またお客様が末永く時計と歩むことができる架け橋へと再定義された。

セイコータイムラボ 修理の様子
修理の様子

末永く使い続けるという文化は、それを可能にする技術の蓄積があってはじめて成り立つ。セイコータイムラボの修理は、自動化や機械化が難しい領域に踏み込んでいる。

100分の1ミリ、100分の1ミリグラムという精度の世界で、機械では届かない領域を担うのは熟練した職人の手だ。機械式腕時計の精度を左右する「ひげぜんまい」は、わずかな振れ幅を0.01ミリメートル単位で調整し、中心の位置を正確に定める。数百もの部品で構成される腕時計の内部では、摩耗を防ぐ潤滑油が欠かせず、部品ごとの特性に合わせて数種の油を0.01ミリグラム単位で注いでいく。一部のブランドには、表面の仕上げには、歪みのない鏡面下地を整えるザラツ研磨と、つやを出して輝きを蘇らせるバフ研磨を、筋目と鏡面を慎重に磨き分けながら施す研磨メニューを用意している。こうした作業には、「現代の名工」やマイスター、熟練の技能士が携わる。

預かった時計の修理や検査の内容は、データベースで管理される。修理を完了した時計には、外観と機能の両面で製造時と同等の基準により50を超える検査が行われ、その記録を記した修理完了の書類が添えられて手元へ戻る。職人の手仕事と、それを支える仕組みや設備とが組み合わさることで、品質は安定して保たれている。

 

技を受け継ぐ仕組み

修理・メンテナンスの需要が着実に増している一方で、その需要に応える技術者をどう確保し、どう育てるかは業界全体の課題となっている。時計修理を学べる専門学校は全国に2校しかない。技能の担い手が細っていけば、直して使い続けるという選択肢そのものが痩せていく。

セイコータイムラボは、この課題に人材育成という正面から向き合ってきた。技術者には国家資格である時計修理技能士の取得を求め、さらにマイスター制度を設けることで、技能を高めることがそのままキャリアの前進につながる道筋を用意している。入社後は3か月間の新人研修が組まれ、厚生労働省などが主催する技能五輪全国大会に向けた研修も行われる。技能の習得を個人の努力任せにせず、体系的な教育として設計している点に、継承への本気度がうかがえる。

学校と現場をつなぐ取り組みも続けてきた。2018年から毎年、東京都内の時計修理専門学校の学生を対象としたインターンシップを実施しており、2026年2月に行われた回で8回目を数えた。参加した13名の学生は、修理工房を見学し、機械式時計から最新のアナログクオーツに至る歴史の講義を受け、ムーブメントの構造を分析して実際に分解と組み立てを体験する。技能士である先輩社員との座談会も組み込まれた。学校の学びだけではつかみにくい現場の空気や、手に職をつけた先にどう働いていくのかという実感を、就職前に得られる場となっている。

その積み重ねは、数字にも表れている。インターンシップを通じて修理の現場を体験した学生のなかには、そのまま入社に至る例も少なくない。修理職に加え、事務職や検査業務など多様な職種を擁し、幅広い人材が力を発揮できる就業環境を整えてきた結果、20代の若手社員が全体の約3分の1を占めるまでになった。技能を必要とする仕事でありながら、次の世代がすでに現場の中核に育ちつつある。

継承の対象は、国内にとどまらない。同社は海外の現地法人や修理代理店に対しても技術指導を行い、人材の育成と修理拠点の確立を支えている。セイコーの時計は世界中で使われており、長く使い続けるためには、世界中で適切な手当てを受けられることが重要だ。日本で磨かれた技能を各国の現場へ橋渡しすること自体が、この会社の担う継承の一部となっている。

セイコータイムラボ 修理の様子
 

誰もが技を磨き続けられる場として

技能の継承は、教える仕組みを整えるだけでは完結しない。習得した技術が正当に報われ、働き続けられる環境があってはじめて、人は現場に残り、次の世代へ手渡す側になれる。

セイコータイムラボが手がける腕時計のメンテナンスは、自動化や機械化が難しい分野であり、技能士の技術力そのものが競争力となる。だからこそ同社は、技能士資格をはじめ、「現代の名工」や黄綬褒章といった評価に至るまで、技術を高める努力が年齢や性別といった属性にかかわらず、仕事に見合った対価として返る仕組みを重んじてきた。腕を磨いた分だけ認められるという実感は、そのまま働きがいへとつながっていく。

働き続けるための土台づくりも進む。産前・産後休暇の期間は給与が全額支給され、出生時育児休業は男女を問わず約1か月の有給が付与されるなど、法定を上回る制度が整えられている。技能士が作業時に着用する防塵着には、マタニティ用のサイズも用意されている。これは、ライフステージが変わっても現場に立ち続けられるという意思表示でもある。

こうした環境整備は、近年の潮流に合わせて後から取り付けられたものではない。属性にかかわらず社員が活躍できる場をつくることは、創業当時から続けてきた取り組みだと同社は位置づけている。誰もが働きがいのある仕事に就き、技術力を高めていく。その積み重ねが腕時計事業そのものの活性化につながるという考え方が、根底に置かれている。

 

使い続けやすさを設計する

どれほど高い技術を備えていても、修理という選択肢が使う側にとって遠いものであれば、時計は引き出しの奥で眠ったままになる。セイコータイムラボが力を注いできたのは、直して使い続けるという行為の敷居を下げることだった。

セイコータイムラボ オンライン時計修理サイト
オンライン時計修理受付サイトの案内

象徴的なのが、オンラインでの修理受付である。ウェブサイトから申し込むと、時計を安全に送るための発送キットが自宅に届き、それに収めて送るだけで手続きが完結する。修理を完了した時計は手元へ返送される。この発送キットは2017年に導入されたが、当初は課題を抱えていた。郵便受けのサイズによっては収まらず、顧客が在宅して受け取らなければならなかったのだ。修理を頼みたいだけなのに、荷物を待つ時間に縛られる。そうした声を拾い上げ、同社は改良を重ねてきた。緩衝材となるスポンジを圧縮袋に入れ、箱は折りたたんで封筒に収める。厚みを削ぎ落とすことで、発送キットは郵便受けに投函できるようになった。地味な工夫に見えるが、修理を思い立ってから時計を送り出すまでの摩擦を確実に減らしている。コロナ禍を経て利便性への関心が高まったこともあり、オンライン経由の依頼はコロナ以前と比べて2割以上増えた。

顧客の声から生まれたのは、受付の仕組みだけではない。深い傷や打痕を修復する「外装リペアポリッシュサービス」も、そうした要望に応えるかたちで導入された技術である。従来、表面の傷は研磨によって傷を取り除くが、深い傷の場合は取り切れない。そこで、髪の毛ほどに細い同素材の線材を添え、1000℃近いパルスレーザーで溶接して傷を埋め戻す「レーザーレストア」が用いられる。削るのではなく、足して埋める。そのうえでザラツ研磨とバフ研磨を施し、製造時に近い状態へと復元していく。製造から50年以上を経た時計であっても、この工程を経ることで新品に近い姿を取り戻す。諦めるしかなかった傷が、使い続けるための選択肢に変わった。

直近では、従来グランドセイコーで行っていたコンプリートサービス(※1)を、2026年6月からはクレドールにも展開し、高級ラインのサービスメニューの拡充を図っている。手をかけて使い続けたいと考える持ち主にとって、預けられる先が増えることの意味は小さくない。

セイコータイムラボ オンラインショップ
セイコータイムラボ オンラインショップ

そして、時計との付き合い方を軽やかにする提案もある。同社が運営するバンドのオンラインショップでは、およそ500点のアイテムを取り扱う。バンドの取り付け部がストレートであり、取り付け幅が合えばセイコー以外の時計にも取り付け可能である。また時計用の工具を使わずに自分で着脱できるスマートチェンジタイプにより、時計店に持ち込まなければ替えられないものだったバンドが、服装や季節に合わせて気軽に選べるファッションアイテムへと加わった。日常のなかで時計に手をかける機会が増えれば、その一本と付き合う時間も自然と長くなっていく。

※1 コンプリートサービス:内装修理・オーバーホールに加え、ライトポリッシュをセットにしたサービス

セイコータイムラボ スマートチェンジのバンド
スマートチェンジのバンド
 

直すことが、つくることにつながる

修理の現場には、製造の段階では見えなかったものが集まってくる。どの部品がどんな使われ方で摩耗するのか、経年でどこに不具合が生じやすいのか。年月を経た時計を数多く預かるからこそ蓄積される知見である。セイコータイムラボは、修理やメンテナンスの過程で得たこうした気づきを、企画・販売を担うセイコーウオッチや製造を担う工場へと「市場品質フィードバック」として還している。製造時には顕在化しなかった課題が次世代の製品づくりに反映され、より壊れにくい時計が市場に届く。逆方向には、新製品や新技術の情報が同社へと供給され、修理体制が整えられていく。直すという行為とつくるという行為が、互いの質を押し上げ合う循環がそこにある。

同社はこの営みを、SDGsの目標12「つくる責任、つかう責任」に連なるものとして位置づける。持続可能な生産と消費のかたちを確保するという目標に対し、時計を長く使い続けられる状態に保ち、そこで得た学びを製品の改良へ返していく。アフターセールスサービスの体制充実により、壊れない製品、長く使える製品の実現に向けて取り組んでいる。

買い替えを促すのではなく、一本の時計に宿った価値を保ち続ける。修理を専門とする会社が果たす役割は、環境負荷の低減という文脈をはるかに超えて、ものとの関わり方そのものに及んでいる。

ただし、その営みを支える技術の重みは、社会に十分には知られていない。腕時計の不調は、原因も症状も一つとして同じではない。数百の部品が組み合わさった精密な機構のどこに異変が起きているのかを見極め、0.01ミリメートル、0.01ミリグラムという単位で手を入れていく。その困難さと、それを担う技能の高さが伝わりきっていないことに、同社の担当者はもどかしさを口にする。修理という仕事が、単なる後処理ではなく、高度な専門性に支えられた創造的な営みであること。それが理解されてはじめて、技術を志す次の世代も増えていくはずだ。

1877年に時計を直すことから始まったセイコータイムラボの系譜は、修理という営みを事業の周縁ではなく中心に据え続けることで、今日まで受け継がれてきた。壊れない製品と長く使える製品をお客様に届ける循環を支える存在として、ウオッチ事業の中で役割を担ってきた。時を刻み続ける一本の時計の裏側には、その時間を支えようとする人の手が、いつも寄り添っている。

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ライター:

Sacco編集・ライター。企業に直接出向く取材が中心。扱う記事はサステナビリティ、ウェルビーイング関係が多め。

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