
32年にわたりストレッチパンツをつくってきた神戸のアパレル企業が、さつまいもで故郷を元気にしようと動き出した。
株式会社バリュープランニングが、新規事業として「淡路島さつまいもプロジェクト」を始めた。耕作放棄地を生かし、若い農業の担い手を育てることを目指す取り組みだ。
観光客1283万人の島が抱える農業の課題
同社によると、淡路島には年間およそ1283万人の観光客が訪れる。しかしその一方で、地域の農業は、耕作放棄地の増加と後継者の不足という深刻な課題を抱えている。にぎわう観光の裏側で、島の畑は担い手を失いつつある。同社の井元憲生代表取締役は、淡路島南部の南あわじ市の出身だ。故郷への恩返しをしたいという思いが、アパレルとは畑違いの農業への挑戦を後押しした。
全国の農村では、担い手の高齢化と人口の減少により、耕作放棄地が広がっている。使われなくなった農地は、雑草や害虫の温床になり、景観や防災の面でも課題となりやすい。観光地として知られる淡路島も例外ではなく、にぎわいの一方で農業の足元は揺らいでいる。異業種の企業が農業に踏み込むことは、その担い手不足を補う一つの動きでもある。
玉ねぎに続く名産を目指して
プロジェクトの特徴は、栽培から加工、販売までを一貫して手がける「6次産業」への挑戦にある。同社によると、栽培という1次、加工という2次、販売という3次を、自ら通しで担う。作物にさつまいもを選んだのは、淡路島の名産である玉ねぎに続く、新たな名産を育てたいという狙いからだ。さつまいもは、焼き芋や干し芋、菓子やスイーツなど、多様な商品に加工できる。栽培して終わりではなく、島の外へ届く商品にまで育てることを見据えている。
栽培から販売までを一社で通すことは、簡単ではない。それぞれの工程に異なるノウハウが要り、リスクも伴う。しかし、加工や販売まで自ら手がければ、生み出した価値がそのまま地域に残りやすい。ものづくりを長く続けてきたアパレル企業が、その経験を食の分野で生かそうとしている。
休耕地でテスト栽培、想定収穫量4トン
初年度となる2026年度は、まず小さく始めるという。同社によると、南あわじ市の休耕地およそ2反(20アール)を活用し、約6000本の苗でテスト栽培を行う。想定される収穫量はおよそ4トン。生育の状況や収量、品質を確かめ、試作やテスト販売にも取り組む予定だ。耕作放棄地を再び畑としてよみがえらせることは、荒れた土地を生かすと同時に、農業の担い手を呼び込むきっかけにもなりうる。
テスト栽培は、いきなり大きく広げるのではなく、土地や気候との相性を見極めるための一歩だ。1年目の結果を踏まえ、栽培の規模や品種、加工の方向性を定めていく。小さく始めて確かめながら進める姿勢が、無理のない事業の育て方といえる。
「第0回」会議から、ファンと共に
同社は、プロジェクトの「0段階」から参加者を巻き込もうとしている。9月27日には、神戸市中央区文化センターで「第0回淡路島さつまいもプロジェクト会議」を開いた。農業や地域活性化に関心のある人らと意見を交わし、商品の企画やアイデアを一緒に生み出す場である。応援してくれるファンとの関係づくりを、事業の出発点に据える考えだ。
バリュープランニングは、1994年創業のアパレル企業で、ストレッチパンツを中心に事業を続けてきた。井元代表取締役は「アパレル一筋で歩んできたが、食を通じてもお客様に喜んでいただける事業に挑戦したい」とし、地域の課題に向き合いながら淡路島を元気にしたいと語る。
新規事業が軌道に乗るには、時間も試行錯誤も要る。だからこそ、初期から応援してくれる人を巻き込み、共に育てていく姿勢が、事業を支える力になる。会議という開かれた場から始めることで、地域の内外に仲間を広げようとしている。
服づくりで培ってきたものづくりの姿勢を、農業の現場にどう生かすか。異業種からの挑戦が、島の耕作放棄地と担い手不足という課題にどう応えるのかが注目される。



