
発端はわずか1万円で買ったトラック一台分の商品だった。フリーマーケットで商品を売りながら、売れ筋や客層、立地ごとの違いを一つ一つ確かめ、やがて商店街での短期出店から常設店舗へと事業を広げていく。現在、化粧品や日用品などのアウトレット品を扱う店舗「Dream market」を展開する株式会社Trust、さらにリユース事業にも乗り出している。
その歩みの根底にあるのは、安くて良い物を届けること、そして廃棄されるはずだった商品に新たな価値を与えることだ。株式会社Trust代表取締役社長多川一馬氏に、創業の原点から現在、そしてこれからの挑戦について聞いた。
「何かしたい」から始まった、1万円の挑戦
―本日はよろしくお願いします。御社は多川代表が2009年に創業、2013年に株式会社化されていますが、その起業のきっかけについてお聞きします。
私は18歳から25歳まで運送会社でサラリーマン生活をしていました。入社したばかりの時は仕事を覚えることに必死だったのですが、二年目になるとある程度仕事にも慣れてきて、余裕が出てくる。
そうなるともっと何かしたいと思い始めて、深夜のアルバイトを始めたんです。
―昼間はサラリーマンをして、夜はアルバイト生活をしていた?
はい。飲食店で2時や3時まで働いていました。ですから睡眠時間は毎日二時間くらい。サラリーマンをしているとどうしても勤務時間中は拘束されてしまいますから、もっと何かをしたいと考えたら自分の時間を削るしかなかった。
しかしそういう生活が長続きするわけはなく、半年くらいで体を壊してアルバイトを辞めざるを得なくなった。ただ、そうして昼間の仕事だけになってしまうと、ポッカリ心に穴が開いたような気持ちになってしまった。
そんな時に、ある出会いがあったんです。
―どんな出会いがあったのでしょうか。
ある日、倉庫の前でバイクのメンテナンスをしていたら、廃品回収のトラックに乗ったおじさんが現れて「兄ちゃん、これ買わへんか?」と声をかけられた。おじさんは自分が集めたいろいろな品を手放したくて買い手を探していたんです。私が倉庫を持っているようだから声をかけてきた。値段を聞いたらトラック一台分で1万円だと。いちおう中身を下ろして見てみたんですが、もちろん私にはそれが売り物になるのかどうか見当もつかない。
けど、勢いで買ってしまった。
―当時の多川代表は商売をした経験はないし、買った物をどこで売るかも何も分からなかったはずですよね。なぜおじさんの言葉にうなずこうと思われたのでしょうか。
やはり当時、アルバイトを辞めてしまい、情熱の持っていき場をなくしていたからだと思います。そういうタイミングの時でなければ正体の分からない物に1万円を出す気にはならなかった。それに不安より興味が勝ったこともありますね。
そのころはまだ今のようにネットで物を販売する方法が普及していませんでした。だから私はどうやって売りさばいたらよいのか分からず、とりあえず買った物を週末に家の近所で開催されているフリーマーケットに持ち込んだんです。そうしたら予想外に売れて10万円を手にした。1万円が10倍に、その成功体験がこのビジネスに可能性を感じたきっかけですね。
―売るために買ったのではなく、買ったものを手放したいから売りに行ったら、思いがけず大きな利益が出たのですね。しかしなぜ誰かに任せず自分で売ろう、と思われたのでしょうか?
私は周りが大学へ進学する中、高卒で就職しました。だから物販にツテを持っている知り合いはいなかった。しかし何より「これは自分でせなあかん」という想いが強かったんです。

フリーマーケットから始まった、店舗展開への道
―それから各地のフリーマーケットを回りながら物を売り始めるわけですが、ツテのない中でどうやって商品の仕入れをしていたんでしょうか?
すぐに最初のおじさんにもう一度電話したんですが、もう何もない、と言われてしまって(笑)。それからは自分でディスカウントストアなどを回って見切り品などを買い集めて仕入れました。それにフリーマーケットに足しげく通うようになると、いろいろな商材を扱う業者と知り合いになる。こういった人たちと情報を交換していく中で「商品があるけど買わないか」と声をかけていただくことも多くなる。そういうつながりから仕入れを増やしていきました。
―そしていよいよサラリーマンを辞めて起業となるのですが、そのころはどのような商品を扱っていたのでしょうか?
25歳で独立するまで、本当にさまざまな物を売りました。婦人服や日用雑貨など……。そうして何が売れて、何が売れないかデータを集めていくうちに、今、弊社がメインで取り扱っている化粧品、日用消耗品、洗剤、シャンプーなどの商材にたどり着いた。
じつはそれらの商品はモデルチェンジが多く、入れ替えが激しい。店頭に並んでもパッケージが変更になるなどして、すぐに撤去・廃棄されている。ですからそれらを引き取って低価格で販売することはお客様が喜ぶだけでなく、廃棄品を減らすことにもなるんです。
―現在、御社はそういった化粧品や洗剤などの在庫品を問屋・メーカーから買い取り、特価で販売するアウトレット店Dream marketを運営されていて、39店舗(26年9月現在。10月には更に2店舗をオープン予定)を展開中です。フリーマーケットでの出店をやめ、常設店舗を出す決心をされた経緯はどういうものだったのでしょう。
起業したころはフリーマーケットだけでなく、商店街の空き店舗を一週間借りて、出店するようになっていました。最初に出した商店街は大阪の天神橋商店街。大阪で一番長い商店街として有名ですが、そこで一日60万円も売り上げた。それで出店する場所によっては大きな利益が生み出せると感じ、各地の商店街で次々と店を出しました。
月曜から日曜まで店を開いて日曜の深夜に撤収、荷物をトラックに積み込んで出発し、その日のうちに次の商店街へ、というサイクルを繰り返していましたね。せっかく借りているのですから朝から店を開けないともったいないですから。トラックを自分で運転して走り回っていました(笑)。
―そうして来客数や売れ筋などのデータを集めていった。
雨の日や暑い日の来客はどう変わるのか、毎日開けていたら売上がどう変わるのか、と調べ、さらに家賃や人件費とも突き合わせていき、この商店街なら常設店舗を出せる、と見極めていった。
店舗を出すことにはもちろんリスクが伴うので、泥臭く、地道に数字をにらんで考えていきましたね。データの収集には数年かけました。
―関東の商店街でも短期間、出店していたと聞きます。
私は大阪生まれの大阪育ちなので東京には土地勘もなければ、どこの商店街がどのくらい賑わっているかも分からないし、もちろん客層も分かりません。しかし東京でもこの業態で集客ができるのか調べてみよう、と一週間だけ貸してくれる場所がある商店街を転々と回りましたね。
社員一人に一緒に来てもらい、二人だけでずっと走り回っていました。
―多川代表と社員一人でやっていた状態から、企業として拡大していこうと考えたのはいつからなのでしょうか?
東京を偵察に行ったころにはある程度想定していて、知り合いから紹介してもらって正社員を雇い始めました。起業から5年ほどで3店舗出店し、いよいよ大阪で一番人が多い心斎橋筋商店街にオープンするのですが、そこで初めて外部の求人を使って従業員(アルバイト)を募集した。
その時、経営者としての責任の重さと、雇った人たちを裏切ってはならないと強く意識しましたね。その時の想いは今も変わらず持ち続けています。

「安くて良い物」を、もっと身近に
―全くの徒手空拳から小売業を立ち上げていかれたわけですが、小さいころから「商売」を身近に感じてはいたのでしょうか。
父が経営者でした。といっても従業員はおらず母と二人だけで、縫製工場から送られてきた服にアイロンをかけ、ラベル付けして袋に入れ、商品として店頭に並べられるようにする会社です。
幼いころの私は、アイロンの熱い蒸気が工場内に立ち込める中、夜中まで汗を流しながら働いている母の姿を見ていたんです。当時父は「この事業は将来、みんなでやったら儲かる仕事だ」と言っていたのですが、私はそうなのかな、とひそかに疑問を感じていたりもしました。
そうしているうちにアパレル業界が低調になっていき、仕事が減少し、私が社会人になったころ、父は廃業を決意しました。
会社運営の大変さ、一つひとつ積み重ねていく努力、人を大切にする想いなど父と母の背中を見て学んだことは、すごく大きなものでした。
―業種によってはどうしても時流に左右されてしまう。
家族経営だったので人を雇って経営することは学べなかったのですが、ターゲットを絞って商売する重要性は非常に大きいと感じていました。そういう認識もあったので、以前は起業する意欲はあまりなかったんです。
―そういう想いを持ちながら、アウトレット品の販売にビジネスチャンスを見出されたわけですね。最後に今後の展開や業界の展望についてお聞きします。
現在はアウトレット品をメインで扱っていますが、さらに中古品の買い取りもスタートしています。そしてこれからはアウトレット品だけでなくリユース品も融合させた店舗も作っていきたいと考えています。なぜならこれらを求めている客層は近いからです。安くて良い物を買いたい、中古品でも新品に見劣りしないなら欲しい、そう考えるお客様に私たちの店を知ってもらい「ここにはどんなものがあるのだろう?」とワクワクしながら来店する、そういう場所にしていきたい。
現在はDream marketで取り扱う商品を、業者様へご提供する卸売に力を入れており、一緒に販売してくれる仲間を増やすことで廃棄ゼロを目指しています。
―そうなると扱う商品も増えていきそうですね。
これまでは化粧品や日用品をメインで扱っていたので、店舗の適正な広さは25坪から30坪程度でした。しかし今後買い取りを進めていくにしたがって、例えば家電や建築資材など、大きな商品も扱うことになるでしょう。先日なんて、便器を買い取りました(笑)。今、それらの商品を販売するために建築関係の業者など、さまざまな業種の企業を巻き込んで話を進めています。
―アウトレットやリユース品を販売することで、消費者が安く良い物を買えるだけでなく、廃棄品の減少にもつながり生産者の利益にもなる。
私はフリーマーケットからスタートして、一つずつ積み重ねてきました。今は同世代の経営者も増えていますし、中には現在の経済状況に危惧を抱いている人もたくさんいる。そういった同じ想いを抱いて会社の舵取りをしている人たちと協力しながら、未来に対して自分が何ができるのか、模索していきたいですね。
―本日はありがとうございました。


株式会社Trust
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