
企業と学校の産学連携は珍しくない。だが、その多くは「一緒に作って終わり」だ。靴下ブランド「HOTSOX」を展開するレンフロ・ジャパンは、その一線を越えた。文化服装学院の学生とデザインから販売までを共にし、学生はSNSで販促を競い、売れた分を報酬として受け取る。在庫のリスクは、企業が背負う。
5年続くこの取り組みは、学生の学びの場であると同時に、レンフロ・ジャパンにも確かな実りをもたらしている。取締役支社長の高橋良太氏に、その歩みを聞いた。
靴下は、キャンバスである
レンフロ・ジャパンが展開するブランド「HOTSOX(ホットソックス)」には、一つの特徴ある考え方がある。靴下を、キャンバスとして捉えることだ。
もとをたどれば、このブランドはニューヨークで生まれた。1971年、靴下のデザイナーたちが、名画をオマージュして靴下に写しとる試みを始める。フェルメールの真珠の耳飾りの少女、葛飾北斎の富嶽三十六景。名画をまとった靴下は「アーティストシリーズ」と呼ばれ、いまも継続して作られている。靴下を、単なる衣類の一部ではなく、アートやカルチャーを載せる媒体として捉える。その発想が、ブランドの根幹にある。
日本での展開が始まったのは、2010年代の半ばだ。靴下をキャンバスにして、アートと掛け合わせる。そのユニークさに共鳴した小売店は、いまも常設の売り場やアートコーナーを持つ。美術館の企画展に商品を出すこともあるという。ファッションブランドもとい、アートブランド。日本のHOTSOXは、そういった立ち位置で歩んできた。
高橋氏は、このブランドのアイデンティティを、こう語る。

高橋 良太支社長(以下、高橋氏)
「創業者が考えたのは、靴下も本来はアパレルの一部ですが、それを超えて、もっとファッション性やアート、カルチャーを載せられないか、ということでした。靴下をキャンバスにする。その考え方を私たちも引き継いで、日本ではファッションブランドというより、アートブランドのように展開してきたんです」
靴下をキャンバスと捉えるなら、そこに描くのは、必ずしも名画でなくてもいい。若手のクリエイターでも、子供でもいい。誰かが自由に描いた絵を、一枚の靴下に写しとる。その発想が、後の産学連携へとつながっていく。

これを支えているのが、近年の技術だ。従来の靴下は、色のついた糸を編み込んで柄を作る。味わいはあるが、多くの色を使えば糸のロスが出て、少量を作るのは難しい。だがレンフロ・ジャパンは、白い靴下にデザインを直接プリントする技術を、兵庫県尼崎市の東伸工業と共同で開発した。これなら、一つのデザインを小ロットで、次々と形にできる。名画の隣に、無名の学生の作品を並べる。そんな自由が、この技術によって開かれた。

靴下は、誰もが自由に描けるキャンバスだ。そのポリシーと、少量でも形にできる技術。この二つがそろったとき、レンフロ・ジャパンは、一つの新しい試みへと踏み出す。文化服装学院との、産学連携である。
「作って終わり」にしなかった理由
文化服装学院との取り組みが始まったのは、2022年のことだ。きっかけは、HOTSOXが掲げる、あのポリシーにあった。靴下をキャンバスにして、名のある画家だけでなく、無名の若手や学生にも自由に描いてほしい。その思いを形にする相手として、高橋氏はファッションを学ぶ学生たちに目を向けた。
はじめに持ちかけたのは、デザインの提案だった。学生たちに、靴下というキャンバスに自由に描いてもらい、それをレンフロ・ジャパンが商品として販売する。ところが、話し合いを重ねるうちに、取り組みはデザインの枠を超えて広がっていく。学校側から、デザインだけでなく、販売も一緒にやりたいという声が上がったのだ。
ここで、レンフロ・ジャパンにとっても好都合な事情があった。当時、同社が求めていたものが、まさに「売り方」だったのだ。

高橋氏
「5年前、6年前に私たちに足りなかったのが、SNSを使ったプロモーションでした。私自身も含めて、どちらかというと店頭で靴下を売ってきた人間です。ネットで靴下が売れる時代なんて来ない、と思っていたくらいで。でもコロナを経て、Webでの販売が伸びていく中で、これは自分たちも学ばなければいけない、と感じていたんです」
そして、その売り方を最もよく知っているのは、ほかならぬ学生たちだった。SNSを日常的に使いこなす世代。彼らが、自分たちのデザインした商品を、どうやってSNSで見せ、広め、売っていくのか。それを間近で見られることは、同社にとって、またとない学びの機会になる。
こうして、取り組みは一つの形に定まっていった。レンフロ・ジャパンが用意するのは、靴下と、在庫と、販売の機会。学生に求めるのは、そのブランドを、SNSを使ってどう広め、売り上げにつなげるか、という課題への答えだ。企業が学生に一方的に場を与えるのではない。学生は実践の場を得て、企業は次世代の売り方を学ぶ。互いに強みを差し出し合う、対等な関係が生まれた。
組んだ相手は、ファッションプロモーションコース。将来、アパレル業界で広報やPR、プロモーションに携わりたいと考える学生が集まる学科だった。デザインした靴下を、どう販売に結びつけるか、それを競い合う。「プロモーションバトル」と名づけられたこの試みは、こうして動き出した。
在庫リスクは、企業が背負う
産学連携そのものは、世の中にありふれている。文化服装学院にも、企業と組む取り組みは数多くある。Tシャツを一緒にデザインしよう、服を一緒に作ろう。だが、その大半は、ある一点で共通していると高橋氏は言う。「作って終わり」なのだ。
高橋氏
「一緒に何かを作りましょう、というところで終わってしまうんです。販売の予算を持って、販売目標を掲げて、在庫のリスクを背負う。そこまでやる会社は、なかったんですよね。作ることはするけれど、一緒に売ることはしなかった」
レンフロ・ジャパンは、そこへ踏み込んだ。学生がデザインした靴下を、実際に在庫として抱え、販売する。そして、売れた分に応じて、学生にロイヤリティ、つまり報酬を支払う。作るだけでなく、売る。そのうえ、売れ行きの責任を、同社が引き受ける。産学連携としては、異例の一歩だった。
なぜ、そこまでできたのか。理由の一つは、扱う商材が靴下だったことにある。ほかのアパレル商品に比べて、靴下は単価が安い。そのうえ、シーズンを問わない。服であれば、季節が過ぎれば売れ残り、単価も高く、在庫は重くのしかかる。だが靴下は、安く、一年を通して売れ、時期が過ぎても価値を失わない。仮に在庫が残ったとしても、腐るものではなく、いつかは売れる。靴下という商材の身軽さが、この踏み込みを可能にしていた。
そして、高橋氏の見立てには、もう一つの視点があった。在庫のリスクと引き換えに、同社が手にするものの大きさだ。
プロモーションバトルでは、10を超えるチームが、それぞれSNSのアカウントを運用する。商品を撮影し、モデルを立て、ロケーションを選び、クリエイティブを作り上げていく。本来、企業がこれを一つ発注すれば、撮影だけでも相応の費用がかかる。だが、この取り組みでは、その一切を学生たちが担う。撮影機材もモデルも、授業の一環として学校側が整える。企業が費用を投じてつくる発信を、学生たちが自らの手で生み出していくのだ。

高橋氏
「学生さんたちが作るクリエイティブが、本当に素晴らしいんです。私たちでは思いつかないようなアングルで撮影してくれる。これを全部お金に換算したらいくらかかるだろうと考えると、むしろ在庫を積んだ方が、リスクとしてはずっと小さい。それだけの価値を、学生さんたちが生み出してくれているんです」
在庫を抱えるリスクよりも、学生が生み出すクリエイティブの価値のほうが大きい。だから、踏み込んだ。それは、きれいごとだけの社会貢献ではない。学生には実践の場と報酬を、同社には売り方の学びと質の高い発信を。双方に利のある関係だからこそ、5年も続いてきた。作って終わりの一線を越えられたのは、この取り組みが、両者にとって確かに実のあるものだったからだ。
バトルが、学生を変えていく
プロモーションバトルは、どのように進むのか。おおまかな流れは、こうだ。
まず、学生たちが10から12ほどのチームに分かれる。1チームはおよそ5名。各チームが、靴下というキャンバスに自由にデザインを施し、レンフロ・ジャパンがそれを商品化する。名画をなぞる必要はない。一定のルールこそあるものの、何を描くかは学生に委ねられている。そのうえで、チームごとにSNSのアカウントを立ち上げ、自分たちの靴下をどう売るかを競っていく。競うのは、販売数と、SNSでの反応だ。売り上げはもちろん、投稿がどれだけ見られたか、どれだけ購入に結びついたかも、評価の対象になる。そして、売れた分に応じて、チームには報酬が支払われる。
この取り組みは、1年を通じて続く。学生は毎年入れ替わるため、同社は年に一度、一からこの授業を組み立てる。6月のキックオフに始まり、ブランドやマーケットの説明、SNS運用上の注意点の共有、中間報告、そして最後の結果発表まで。高橋氏やデザインの担当者が、幾度も学校に足を運ぶ。販売数が1位のチーム、SNSでの反応が1位のチーム。部門ごとに順位を発表し、賞金を手渡す。
高橋氏が面白いと語るのは、この半年ほどの間に、学生たちが目に見えて変わっていくことだ。

高橋氏
「6月の最初の授業では、まだチームがまとまりきっていないんです。緊張しているのか、反応も薄くなりがちだったり、意欲にばらつきが見られたりする姿も見受けられます。ところが、夏休みが明けて9月ごろになると、少しずつチームがまとまってくる。まとまらないチームは、まとまらないなりの姿が見えてくる。そういう変化が、見ていて分かるんです」
変化を後押しするのが、賞金の存在だ。報酬がかかることで、チームは本気になる。結束を強めるチームがある一方で、意見がぶつかり合うチームも出てくる。熱心に取り組む学生と、どこか冷めた学生とのあいだで、揉め事が起きることもある。だが、そうした軋轢もまた、学びの一部だ。
高橋氏
「最後に優勝するのは、たいてい、いちばんまとまっているチームなんです。みんなで協力し合って進めたチームが、結果を出す。社会に出れば、一人でできることが限られている場合も少なくありません。チームで動くことの大切さを、この取り組みを通じて学んでくれているのだと思います」
デザインを考え、商品を売り、数字で評価される。そのすべてを、仲間と力を合わせて成し遂げる。それは、教室で講義を聞くだけでは得られない経験だ。文化服装学院の学生の多くは、何かを学びたくて、自ら望んでこの学校の門をくぐっている。そんな彼らにとって、プロモーションバトルは、社会に出る前に一度、本気で何かに打ち込んだという記憶を残す場になっている。
若い世代が、ブランドと出会う
この取り組みは、学生に実践の場を与えるだけのものではない。レンフロ・ジャパンにも、はっきりとした実りをもたらしてきた。
まず、ブランドの認知が広がった。HOTSOXの顧客は、もともとアートを好む女性が中心で、とりわけ40代以上の層に支持されてきた。そこへ、プロモーションバトルが新しい風を吹き込む。学生たちがSNSで発信することで、これまで接点のなかった10代、20代が、ブランドを知り、商品を手に取るようになった。取り組みの期間中は、売り上げそのものも伸びるという。
数字も、それを裏づけている。2025年11月から2026年1月にかけて実施されたバトルでは、販売数は1,340足、売り上げは約295万円にのぼった。SNSでの表示回数は164万に達し、前年のおよそ2.5倍を記録している。動画を使った発信によって、自社のECサイトへの流入は、通常時の約3倍にまで増えた。学生たちの発信は、その靴下だけでなく、ブランド全体の認知や、通常商品の売り上げにも波及していった。
若い世代ならではの発想も、同社にとっては刺激になる。SNSをどう使い、どんな見せ方をすれば人の心が動くのか。デジタルに親しんだ世代の手法を、実践の場で間近に見られることは、店頭を主戦場としてきたこの会社にとって、貴重な学びだった。当初、レンフロ・ジャパンがこの取り組みに求めていた「売り方を学ぶ」という狙いは、こうして確かに満たされていった。
そして、思いがけない形で実を結んだのが、採用である。
プロモーションバトルは、もともと採用を目的に始めたものではない。だが、半年にわたって一つのことに本気で取り組む学生たちの姿を、レンフロ・ジャパンは間近で見ることになる。誰がどんな強みを持ち、どう仲間と関わるのか。通常の採用活動では決して見えない部分が、そこにはあった。これまでに、文化服装学院の卒業生3名が、同社に入社している。いまは、ECやデジタルマーケティングの担当として、あるいはデザイナーとして、それぞれの現場で活躍しているという。
高橋氏
「昨年のバトルで優勝した学生が、今年の4月に入社しました。弊社に入りたくて文化服装学院さんへ進学することを決め、バトルにも参加してくれたそうです。チームのリーダーを務めて、売り上げでも1位になって、優勝した。そのような熱意ある学生が仲間に加わってくれるのは、本当にありがたいことです」
就職活動のあり方が変わり、企業が学生の人となりを深く知る機会は、年々限られている。そんな中で、同じプロジェクトに本気で向き合った学生が、やがて同僚として現場に立つ。それは、同社にとって、何にも代えがたい財産になっている。

バトルは、外へ広がっていく
プロモーションバトルは、5年のあいだ、同じ形にとどまってはいなかった。年を追うごとに、その規模を広げてきた。
大きな転機は、2024年だ。それまで東京の文化服装学院だけで行っていたバトルに、大阪校が加わった。東京と大阪、二校が競い合う、東西対決の形である。この変化は、学生たちの熱を、いっそう高めることになった。同じ学校の中で競うだけでなく、東と西という看板を背負う。その構図が、参加する学生のモチベーションを押し上げた。昨年は、東西合わせておよそ100名の学生が、このバトルに取り組んでいる。
規模が大きくなれば、新たな課題も生まれる。参加する学生が増えるほど、一人ひとりの熱量に差が出やすくなる。本気で勝ちにいく学生もいれば、どこか一歩引いてしまう学生もいる。そこで、今年から新たに設けられたのが、予選会だ。
予選では、まず全チームが受注の形で靴下を売り、あわせて文化祭でのリアルな対面販売にも臨む。その成績で上位のチームを絞り込み、勝ち残ったチームが、本戦へと進む。競争のふるいを一段増やすことで、それぞれのチームが、より本気で取り組める仕組みにした。予選で敗れた学生も、勝ち残ったチームに合流し、最後まで関わり続ける。全員が参加するという原則は、崩していない。
そして高橋氏は、この取り組みの、さらに先を見据えている。文化服装学院という一つの学校を越えて、バトルを広げていく構想だ。

高橋氏
「将来的には、ほかのファッションの学校にも声をかけて、学校対抗のような形にできないかと考えています。いわば、プロモーションバトルの甲子園のようなものです。学生だけでなく、クリエイターの方にも参加してもらえたら、もっと面白くなる。靴下というキャンバスを、いろいろな人に開いていきたいんです」
構想は、すでに周囲を巻き込みはじめている。この取り組みに賛同する百貨店や商業施設も現れ、販売の場を提供しようという動きも出てきた。学生が描き、企業が売り、施設がその舞台を貸す。プロモーションバトルは、学校と企業の二者の関係から、地域や業界を巻き込む、より大きな輪へと育とうとしている。
すべては、一枚のキャンバスから
ここまで見てきた産学連携は、レンフロ・ジャパンにとって、特別な一つの事業というわけではない。高橋氏の中では、この取り組みは、もっと大きな一つの考え方の中に位置づけられている。冒頭で触れた、あのフィロソフィーだ。靴下は、キャンバスである。
白い靴下は、何も描かれていないキャンバスだと、高橋氏は捉えている。そこに、誰が何を描いてもいい。名のある画家の名画でも、若手のクリエイターの作品でも、子供のお絵描きでもいい。文化服装学院の学生たちが自由にデザインを描くのも、この白いキャンバスに絵筆を入れる行為にほかならない。
高橋氏
「私たちにとって、産学連携は独立した取り組みではなく、靴下をキャンバスにするという一連の流れの中の一つなんです。学生に描いてもらうのも、子供に描いてもらうのも、クリエイターに描いてもらうのも、根っこは全部同じ。HOTSOXは、あくまでキャンバスであり続けたいと思っています」
だからこそ、描き手は学生に限らない。レンフロ・ジャパンは、子供たちを対象にしたワークショップも各地で開いてきた。子供が自分で描いた絵が、その日のうちに一枚の靴下になる。小学校や自治体と組んだ取り組みには、問い合わせが後を絶たないという。絵に限る必要すらない、と高橋氏は考えている。音楽も、写真も、書も、データにできるものなら何でも、靴下というキャンバスに載せられる。表現の可能性は、まだ大きく広がっている。
このように描き手を広げていけるのは、少量からでも靴下を形にできる、あの技術があるからだ。白い靴下に直接デザインをプリントする仕組みは、一つのデザインを、無駄なく、小さなロットで生み出せる。多くの色の糸を編み込み、余った糸を捨てていた従来のやり方とは違う。作りたいものを、作りたいだけ。その身軽さが、名画の隣に、無名の誰かの一枚を並べることを可能にしている。

靴下業界は、けっして楽な状況にはない。国内の市場は、人口の減少とともに縮んでいく。それでも高橋氏は、悲観だけをしているわけではない。靴下を、単なる衣類ではなく、誰もが自由に表現できるキャンバスとして捉え直す。その発想の転換の先に、この産業の新しい可能性があると信じている。学生も、子供も、クリエイターも。多くの人が、一枚の靴下に自分の表現を描き込む。レンフロ・ジャパンが掲げる「足もとから世界を変えていく」という理念は、そんな一枚一枚のキャンバスの上に、静かに実を結ぼうとしている。



