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SDGsはもはや大学生の「常識」?~大学教育とSDGsの馴染みやすさとは

サステナブルな取り組み SDGsの取り組み
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粟津氏

筆者は東京都内女子大学の教員である。筆者の所属大学には、SDGsに取り組む部署も学科もない。「SDGs」と銘打った科目もない。大学のHPで活動事例を紹介している程度である。それほどSDGsに積極的でないと思っていたが、この原稿を機会に改めて振り返ってみたところ、「教育や研究にかなり浸透しているのではないか」と思い直した。

大学ランキングとSDGs

 大学は国際的なランキングを付けられることがある。有名なものはイギリス”Times Higher Education(THE)”誌が出すWorld University Rankings。日本の大学の総合力、研究力の順位がニュースになることもある。THEは SDGsに関する研究、管理責任、アウトリーチ、教育の4つを指標としたTHE impact rankingも公開している。2023年度の総合ランキングでは国内1位が北海道大学(世界22位)、2位が京都大学(世界49位)だった。各大学が自身の強みを選んでエントリーするものであるため、2023年度の日本からの参加校は全国800超あるうちの78校だった。

しかしランキングには不参加でも、SDGsに関連した取り組みを行い、大学HP等で公表している大学は多い。「大学名 SDGs」で検索すれば、非常に多くの大学がヒットする。大学は教育と研究を行う機関だが、教育でも研究でも様々な取り組みがされている。

授業に取りいれやすいSDGs

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SDGsはイマドキの学生の常識に?

なぜ大学でSDGsの取り組みが増えているのか。まずSDGsは、授業に非常に取り入れやすい。特に授業内容の社会的意義の説明に繋げやすい。例えば筆者の専門である心理学だと、SDGsの目標3(すべての人に健康と福祉を)はストレスに関する授業に、SDGs8(働きがいも経済成長も)はモチベーションに関する授業に繋げることができる。SDGsには17のゴールがあるため、非常に幅広い授業科目で関連付けて扱われている。

また、昨今の授業方法改革にも合わせやすい。近年、主体的・対話的学習として、グループでの討議や課題解決にむけて情報を収集・分析する探求型授業などが、小中高でも大学でも増えている。その中で調べ学習やグループワークの練習もかねて、自分が身の回りでできるSDGs活動を考えてプレゼンする、などの取り組みは、小中高でも大学低学年の授業でも増えている。企業や自治体と連携した授業も増えているが、ここでもSDGsに絡めた課題がよくある。例えば、SDGsの目標1(貧困をなくそう)を目指したフェアトレード商品のマーケティング提案などだ。SDGsの目標12(つくる責任つかう責任)に関連させた新商品開発、SDGsの目標17(パートナーシップで目標を達成しよう)に向けたコミュニケーション環境やツールの提案といったものもある。

SDGsは研究の意義が説明しやすい

筆者の専門分野には“Topics in Cognitive Science”という国際学術誌がある。2023年7月には、“Conceptual Foundations of Sustainability(持続可能性の概念的基礎)”という特集が組まれた。これはSDGsが心理学の国際的な研究テーマの1つになっていることを示すものだ。

研究者として見た場合、SDGsは社会的要請が高く、研究の意義が説明しやすいテーマの宝庫だ。しかも未知の難問ではなく、従来の研究とも繋げやすい。例えば心理学では、概念理解や意思決定などについて、以前から研究されてきた。研究テーマを「概念理解や意思決定」と言ってもなかなか理解してもらえないが、「どうすれば持続可能性の大事さを理解し、考えてもらえるようになるか」という例にすると、理解してもらい易い。

社会科学、自然科学、工学など様々な分野で、同じように感じる研究者も多いのではないだろうか。

大学の理念はSDGsと馴染みがよい

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SDGsは大学に馴染みやすい

大学をはじめ教育機関という存在自体が、SDGsと馴染みやすいように思う。学校には様々な建学の理念や設置趣旨があるが、SDGsの17のゴールと1つも関係しないことは考えにくい。例えば筆者が所属する女子大学の建学の理念は「女性が社会を変える、世界を変える」である。これはSDGsの目標5(ジェンダー平等を実現しよう)やSDGsの目標4(質の高い教育をみんなに)、SDGsの目標17(パートナーシップで目標を達成しよう)に関連している。

SDGsには教育や研究、技術開発に関係する目標もあり、組織としての大学にとっても、研究者としても、従来の延長線の中で取り入れやすい。もちろん組織によって、積極性も情報公開の程度も異なるが、多くの教育研究機関の活動の中でSDGsが扱われているように思う。

イマドキの学生とSDGs

学校や学部によっても異なると思うが、少なくとも筆者の周囲にはSDGsについて積極的に活動している学生はほとんどいない。貧困支援や美化活動、国際援助などを行うサークルなどもあるが、以前から存在しており、SDGsの問題意識に基づいて活動を始めたものではない。また民間企業への就職を志望する学生で、その会社のSDGsへの取り組みを志望理由とする学生は、私は会ったことがない(面接でどう言うかはわからない)。

自身が積極的に活動した経験はなくとも、学生はSDGsに関する話を聞き、調べ、考え、発表する経験を多く積んでいく。自分だけではなく、同世代の知り合いは同じような知識や経験を持っている。これはSDGsに関する知識や考え方が「常識」になっていくと言えるのではないだろうか。今後もSDGsの考え方を「常識」として持つ学生は増えるだろうし、各学生が経験する量も増えるだろう。

卒業した学生が、 意識してSDGsに積極的に取り組むかどうかはわからない。しかし、今の学生たちはこれまでの経験に基づき、「常識」に反した事柄や活動に気づく、そして好まない、という方向に進むのだと思う。

【著者プロフィール】
粟津俊二
1972年滋賀県生まれ。実践女子大学人間社会学部教授。公認心理師。研究者としての専門は認知心理学/認知科学、教育心理学。学内では、授業関連の事項の調整や大学共通教育科目の運営に携わっている。

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