
2026年10月22日、国内外で人気を集めていた生成AI楽曲「INMU KING(インムキング)」がYouTubeから削除された。
理由は性的コンテンツに関するポリシー違反。
しかし、制作者によると、具体的にどの部分が問題なのかは示されていないという。
SNSでは「なぜ性的コンテンツと判断されたのか」と疑問が噴出し、ランキング操作を疑う陰謀論まで飛び交っている。
炎上した有名人をAIで踊らせる「INMU KINGの刑」が流行するなか、今度は楽曲そのものが騒動の主役となった。
INMU KINGとは? 野獣先輩とAIが生んだ大ヒット
「INMU KING」は、動画投稿者「やじゅまん」がYAJU-MC名義で2026年8月10日に公開した楽曲・ミュージックビデオだ。
題材となったのは、男性同士の成人向け映像作品に由来する「真夏の夜の淫夢」と総称されるネットミーム。
なかでも「野獣先輩」と呼ばれる人物や、長年ネット上で使われてきた独特のセリフ、通称「淫夢語録」を歌詞と映像に盛り込んでいる。
音楽と映像には生成AIを活用。
音楽生成サービス「Suno」を使用し、制作費は本人の説明によると5万円弱だったという。
YouTube版は10月18日までに2600万再生を突破。
オリコン週間YouTubeチャートでは初登場20位から7位、さらに2位へ急上昇した。
10月9~15日の週間視聴回数は540万8165回を記録している。
なお、同チャートは同一楽曲の対象動画を合算した数字で、本家MV単体の再生数とは異なる。
中国・広州のイベントをはじめ、台湾や韓国にも派生ミームが波及。
もはや一部のネットユーザーだけが楽しむ内輪ネタではなくなっていた。

「INMU KINGの刑」炎上有名人がAIで踊る
人気を加速させたのが、「INMU KINGの刑」と呼ばれる二次創作だ。
SNSで不祥事や炎上騒動を起こした著名人を、生成AIによって楽曲に合わせて踊らせる。
騒動の関係者まで一緒に踊らせる動画もあり、嘲笑の対象にする二次創作として広がった。
こうした現象は、以前からネット上で使われてきた「淫夢入り」という言葉にも通じる。
実在人物やキャラクターが、本人の意思とは無関係に淫夢関連のパロディーへ組み込まれることを意味する。
ただし、踊らされた人物が必ずしも不祥事を起こしたわけではない。
流行が拡大するにつれ、アニメキャラクターなどを踊らせる動画も登場した。
SNSでは、炎上した人物について「INMU KING行き」と表現する投稿も見られる。
騒動の当事者をAIで踊らせることが、ネット上の罰ゲームのように扱われているのだ。
笑いとして消費される一方、実在人物が本人の関与していないAI映像によって嘲笑の対象になる危うさもある。
YouTube削除の理由は? 性的判定に疑問
10月22日、事態は急変した。
やじゅまんはYouTube版「INMU KING」が削除され、ニコニコ動画版もデバイス規制の対象になったと報告した。
YouTubeで示された削除理由は、ヌードや性的コンテンツに関するポリシー違反。
しかし、やじゅまんは具体的な該当箇所が提示されていないと説明している。
ニコニコ動画については、会員登録後にセンシティブ表示設定をONにすることで視聴できると案内。
YouTubeには再審査を請求しているという。
SNSでは、「日本国内外を問わず大人気を博していた動画を何の前触れもなく削除するのはどうなのか?」「歌詞に問題があったかもしれませんが、具体的な性的な描写は一切なかった筈です」「おかしいですねぇ、なんでこれが性的コンテンツとわかったのでしょうか」といった疑問の声が上がっている。
確かに、成人向け作品を元ネタにしていることと、動画そのものが性的コンテンツに該当することは同義ではない。
ただし、性的描写が露骨でなければ必ず規約に適合するわけでもない。
今回どのような審査を経て削除に至ったかは明らかになっていない。
「消すと増える」SNSで批判と陰謀論
削除を受け、Xでは反発や落胆が相次いだ。
「YouTubeから消えても、俺らの心からあのフレーズは消えないよ。ありがとうやじゅまん」作品への愛着を示す声がある一方、削除の背景を疑う投稿も現れた。
「これはINMU KINGをオリコン1位にしたくないレコード会社とYouTubeの陰謀」「国が動いたかもしれない…」こうした声には皮肉や冗談が含まれている可能性もあるが、ランキング操作や国家の関与を裏付ける証拠はない。
また、企業広告との対応の違いを指摘する声もある。
「動画よりまず企業のinmuking広告を消せよ…」10月18日には、位置情報共有アプリ「Bump」のYouTube広告で楽曲が使用されているとして、やじゅまんが企業側に連絡を求めていた。
ユーチュラによると、制作者は著作権侵害の追及よりも、成人向け作品由来の楽曲を広告に使用することによる企業イメージへの悪影響を懸念していたという。
さらに10月13日には、JOYSOUNDへの楽曲登録後、同日中に削除され、カラオケ配信が実現しなかった経緯もある。
そして、今回の騒動を象徴するのが、「消すと増えるんだよなぁ…」という投稿だ。
Xではニコニコ動画やBilibiliの投稿動画へ視聴者を誘導する動きも見られる。
削除後に投稿数が実際に増えたかは未確認だが、規制そのものが新たな話題を生んでいる。
INMU KING騒動が問うAIとネット私刑
今回の騒動で見落としてはならないのが、作品の題材となった人物も実在するという事実だ。
「野獣先輩」は長年ネットミームとして扱われてきたが、本人が現在の拡散やAI加工を承諾していると確認されたわけではない。
さらに「INMU KINGの刑」では、炎上した著名人や事件の当事者が、本人の意思に関係なく動画に登場する。
YouTubeの削除理由が妥当かという問題と、実在人物の肖像や尊厳をどう守るかという問題は、分けて考える必要がある。
やじゅまんは権利者からの削除請求など法的措置を避けるため、作品を無収益で運用していると説明している。
ただし、収益を得なければ権利上の問題がなくなるわけではない。
生成AIは、誰もが低予算で映像や音楽を制作できる環境を生み出した。
その反面、本人の望まない映像を大量に作り、拡散することも容易にした。
YouTubeから1本の動画を削除しても、楽曲を記憶した人々や、すでに広がった二次創作まで消せるわけではない。
炎上した人々を踊らせてきた「INMU KING」。
今度は、その作品を消したプラットフォームが批判の的となっている。
「消すと増える」という言葉は、単なるネット上の冗談なのか。
それとも、生成AI時代におけるコンテンツ規制の難しさを映す現象なのか。
問われているのは削除の是非だけではない。
どこまでが創作の自由で、どこからが他人の権利を侵す行為なのか。その境界線もまた、曖昧なままだ。



