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財務報告以上に重視される?企業報告とは(企業価値とESG #2)

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企業は利益を追求することはもちろんですが、社会に対しても責任を果たす必要があります。そのためには、財務報告だけではなく、企業報告(非財務報告)も重要な役割を果たすことになるでしょう。

企業報告は、企業の社会的責任(CSR)や持続可能な開発目標(SDGs)などの取り組みを示す報告書のことです。本稿では、企業報告が必要とされる背景と、そのメリットについて解説します。

財務報告だけでは不十分な時代に求められる企業の社会的責任

企業報告(非財務報告)が必要とされる背景には、次のような要因があります。

ステークホルダーの多様化と関心の高まり

ステークホルダーとは、企業に関係する人や組織のことです。従業員や取引先、株主や投資家、消費者や地域社会などが含まれます。近年、ステークホルダーは多様化し、企業の社会的影響に対する関心も高まっています。

例えば、消費者は商品やサービスの品質や価格だけでなく、環境や人権への配慮も重視するようになりました。投資家も、企業の財務的な実績だけでなく、ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する情報も重視するようになっています。 このように、ステークホルダーは企業に対して高い水準の透明性と説明責任を求めるようになっているのです。

グローバル化と規制強化

企業はグローバル化の波に乗り、海外市場への進出や国際的な取引を拡大しています。しかしグローバル化に伴い、企業はさまざまなリスクに直面するようになりました。例えば、気候変動や自然災害による事業活動への影響やサプライチェーンへの中断、人権侵害や汚職などの不祥事や訴訟リスクなどです。また、国際的な規制や基準も強化されており、企業はそれらに適合するために努力しなければなりません。パリ協定やSDGsなどの国際的な枠組みや目標に沿った取り組みや報告が求められています。

イノベーションと競争力の向上

企業はイノベーションを起こすことで新たな価値を創造し、競争力を向上させることができます。イノベーションを起こすためには、企業の内部にある知的資産(無形資産)を活用することが重要です。知的資産(無形資産)とは、企業の技術やブランド、人材や組織力などの資産のことで、財務諸表には表れていないものです。知的資産(無形資産)は、企業の競争力の源泉であり、将来の収益につながります。しかし、知的資産(無形資産)は目に見えにくいため、その価値を評価することが難しい場合があります。そのため、企業は知的資産(無形資産)を可視化し、ステークホルダーに伝えることが必要です。

企業報告(非財務報告)を行うことには、次のようなメリットがあります。

ステークホルダーとの信頼関係の構築

企業報告(非財務報告)を行うことで、企業は自社の社会的責任や持続可能な取り組みをステークホルダーに示すことができます。これにより、ステークホルダーは企業のビジョンや戦略、価値創造プロセスなどを理解しやすくなります。また、企業報告(非財務報告)は、企業が自らの強みや課題を客観的に分析し、改善策を示す機会にもなります。これにより、ステークホルダーは企業の成長性や将来性を評価しやすくなるでしょう。

資金調達やリスク管理の効率化

企業報告(非財務報告)を行うことで、企業はESG投資家や金融機関からの資金調達を効率化することができる可能性があります。ESG投資家や金融機関は、企業の財務的な実績だけでなく、ESGに関する情報も重視しています。企業報告(非財務報告)を行うことで、企業はESG投資家や金融機関に対して自社のESGパフォーマンスを示すことができます。 これにより、ESG投資家や金融機関は企業のリスクやリターンを評価しやすくなります。

また、企業報告(非財務報告)を行うことで、企業は自らのリスク管理も効率化することができるでしょう。企業報告(非財務報告)では、気候変動や人権侵害などの社会的リスクに対する影響分析や対策なども記載されます。これにより、企業は自らのリスク状況を把握し、予防策や緊急対応策を立てることができます。

ESG・SDGsの視点から見る統合報告の重要性とポイント

「統合報告」は、企業の財務情報と非財務情報を一体的に示す報告書のことです。非財務情報には、ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)に関する情報が含まれます。ESG・SDGsの視点から見た統合報告の重要性には、次のような理由があります。

競争力と持続可能性を高める

ESG・SDGsへの取り組みは、企業の競争力と持続可能性を高めることにもつながります。 ESG・SDGsへの取り組みは、企業のリスク管理やイノベーションを促進する効果があるでしょう。

例えば環境への配慮は、気候変動や自然災害などのリスクを低減するだけでなく、省エネやリサイクルなどのコスト削減や新たなビジネスチャンスを生み出すこともできます。人権への配慮は、人材確保や育成、多様性やインクルージョンなどの人事管理を強化するだけでなく、社会的信頼やブランド力を向上させることもできます。また、ガバナンスへの配慮は、コンプライアンスや内部統制などの経営基盤を強化するだけでなく、ステークホルダーとの対話や協働を促進することもできます。

ESG・SDGsの視点から見た統合報告のポイントには、次のようなものがあります。

重要課題の特定と目標設定

統合報告では、企業が直面するESG・SDGsに関する重要課題を特定し、それに対する目標や戦略を明確に示すことが重要です。重要課題の特定には、ステークホルダーとの対話やマテリアリティ分析などの手法が有効です。マテリアリティ分析とは、企業の事業活動におけるESG・SDGsに関する課題を、ステークホルダーへの影響度と事業戦略への関連度の2軸で評価し、重要度を可視化する分析手法です。重要課題を特定したら、それに対する目標や戦略をSMART(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)なものにすることが望ましいでしょう。SMARTな目標や戦略とは、具体的で測定可能で達成可能で関連性が高く期限が明確なものです。 例えば、「2030年までにCO2排出量を50%削減する」という目標はSMARTなものです。

パフォーマンスとインパクトの評価と報告

統合報告では、企業がESG・SDGsへの取り組みによってどのようなパフォーマンス(成果)とインパクト(影響)を生み出したかを評価し、報告することが重要です。パフォーマンスとインパクトは、定量的な指標や定性的な事例などで示すことができます。

定量的な指標には、国際的に認知されたものや業界団体が策定したものなどを参考にすることが望ましいです。例えば、「CO2排出量」「女性管理職比率」「コンプライアンス違反件数」などが定量的な指標です。定性的な事例には、具体的で分かりやすくエピソード性のあるものを選ぶことが望ましいです。例えば、「地域社会への貢献活動」「新製品開発」「社員教育」などが定性的な事例です。

外部保証や第三者評価

統合報告では、企業が報告した内容が正確で信頼性が高いことを示すために、外部保証や第三者評価を受けることが重要です。外部保証とは、統合報告の内容やプロセスに対して、専門的な知見を持つ外部の機関や個人が、その妥当性や信頼性を検証し、その結果を報告書に記載することです。会計事務所や認証機関などが外部保証を行うことがあります。外部保証を受けることで、ステークホルダーに対して報告書の信頼性を高めることができます。

第三者評価とは、統合報告の内容や品質に対して、外部の機関や個人が、その評価基準や方法を明らかにした上で、その評価結果を報告書に記載することです。評価機関や専門家などが第三者評価を行うことがあります。第三者評価を受けることで、ステークホルダーに対して報告書の優位性や改善点を示すことができます。

統合報告がもたらす企業価値の向上と持続可能な成長

統合報告がもたらす企業価値の向上には、次のようなメリットがあります。

投資家からの評価の向上

前述のとおり投資家は、企業の財務的な実績だけでなく、非財務的な情報も重視するようになっています。 特に、ESGやSDGsに関する情報は、企業の競争力や持続可能性を判断する重要な要素となっています。統合報告を行うことで、企業は自社のESGやSDGsへの取り組みを投資家に示すことができます。これにより、投資家からの評価を向上させることができるでしょう。

例えば、KPMGジャパンが2022年4月に公表した「日本の企業報告に関する調査2021」では、統合報告書を発行している企業はTOPIX Core30構成銘柄全体よりも株式時価総額・ROE・ROA・PER・PBR等の指標で高い水準を示していることがわかっています。

出典:日本の企業報告に関する調査2021 – KPMGジャパン

統合報告がもたらす持続可能な成長には、次のようなメリットがあります。

経営戦略の見直しと改善

統合報告を行うためには、企業は自社の価値創造プロセスや成果を分析し、整理し、評価する必要があります。これにより企業は自社の強みや弱み、機会や脅威、リスクや課題などを明確に把握することができます。また、企業は自社のビジョンや戦略、目標やKPIなどを明確に設定し、実行し、モニタリングする必要があります。企業は、自社の経営戦略を見直しと改善することができます。

イノベーションの促進と新たな価値の創出

統合報告を行うことで、企業は自社の事業活動や価値創造に対する社会的な影響や責任を認識することができます。社会のサステナビリティ(持続可能な社会に対する要請への対応)と企業のサステナビリティ(企業が長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力(稼ぐ力)の維持・強化)を同期化させることができるでしょう。これは、「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」と呼ばれる経営・事業変革のプロセスです。SXを実現することで企業はイノベーションを促進し、新たな価値を創出することができます。

企業報告・統合報告は、単なる情報開示の手段ではなく、経営管理や価値協創のツールです。 報告を通じて自社の価値創造プロセスや成果を効果的に伝えることで、ステークホルダーとの信頼関係を構築し、投資家からの評価を向上させることができます。また、報告を通じて自社の経営戦略を見直しと改善し、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを同期化させることで、イノベーションを促進し、新たな価値を創出することができるでしょう。

出典:伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート) – 経済産業省

次回のコラムでは、「価値創造に必要な6つの資本」について解説します。

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ライター:

1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。 プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。 2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。 現在は、複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや企業価値向上、海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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