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株式会社バリューメディカル

https://www.valuemedical.co.jp/

〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂2丁目16番4号 野村不動産渋谷道玄坂ビル2階

03-6679-5957

「一人で頑張ることは、自立ではない」看護師を支えることが、医療を守る。バリューメディカルが病院に持ち込んだ視点

サステナブルな取り組み SDGsの取り組み
ステークホルダーVOICE 経営インタビュー
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MRTグループ 株式会社バリューメディカル 代表取締役 出塚 太郎氏
MRTグループ 株式会社バリューメディカル 代表取締役 出塚 太郎氏

患者満足度という言葉が病院に持ち込まれて、およそ30年になる。医療にもサービス業の視点を、という国の方針が背景にあった。だが、満足度を測られる患者の背後で、それを支える職員が見られることはなかった。人も時間も足りない現場に課題だけが下り、疲弊した職員のもとで、医療の質は静かに削られていく。

MRTグループ株式会社バリューメディカルの代表取締役・出塚太郎氏が問うのは、見るべき順序である。同社が2017年から続けてきた職員満足度調査は、そのなかで一つの事実を映し出した。看護師の点数だけが、際立って低いのだ。

 

「分かりにくいこと」を、分かりやすく

出塚氏のキャリアは、リクルートから始まっている。専門的で分かりにくいものを、必要としている人に届く形へ変える。それが事業の核にある会社だった。就職の情報がその典型である。学生にとって新卒での就職は一生に一度の出来事だが、採用する側は毎年それを繰り返している。知識の量には、埋めがたい差がある。その差を埋めるために、情報は編集され、届けられる。

同じ目で医療を見たとき、そこには手つかずの空白があった。

MRTグループ 株式会社バリューメディカル 代表取締役 出塚 太郎氏

出塚 太郎 代表取締役(以下、出塚)
「医療の情報はあまりにも専門性が高いし、専門家と、実際に病院にかかる患者さんとの間にある情報格差が激しい領域です。国はインフォームドコンセント※1ということで、患者自身で治療のことを勉強して、自分で判断しなさいと言ってきたけれど、それはちょっと無理だよねという状態がずっと現実としてあった。やっぱり、医療の専門家から患者さんにきちっと分かりやすく伝えていくことがすごく重要だと考えたんです」

患者自身で判断せよと制度は求める。しかし判断の材料は、医療の専門家の側にしかない。バリューメディカルは、この落差を事業として引き受けるところから始まった。

当初の形式は書籍だった。全国の大病院と組み、病気の概要から検査、診断、治療の流れまでを一冊にまとめる。ただし、医師が書いた原稿はそのままでは読めない。専門用語の塊だからである。低侵襲(ていしんしゅう)の治療、と医師は書く。体に負担が少ない、という意味である。そうした語を、ひとつずつ日常の言葉へ置き換えていく。読む人の側に立って、すべてを翻訳する。

蓄積したコンテンツは、その後Webへ移された。2023年に公開した病気と治療の検索サイト「メディカルブレイン」である。症状から病気を探り、治療を知り、診療科へたどり着く。掲載する疾患の解説はおよそ400にのぼる。

この仕事は、病院の内側へ入っていく作業でもあった。書籍をつくるには、病院長と直接向き合わなければならない。全国を回り、病院経営の責任者と話し続けるうちに、出塚氏の耳には、ある話題が繰り返し入ってくるようになった。職員が辞めていく、という話である。

※1:インフォームドコンセント 〔納得診療,説明と同意〕(informed consent):治療法などについて,医師から十分な説明を受けた上で,患者が正しく理解し納得して,同意すること(出典:国立国語研究所 「病院の言葉」を分かりやすくする提案)

 

患者は見られていた。職員は見られていなかった

医療にサービス業の感覚を取り入れよ。国がそうした方針を打ち出したのは、およそ30年前のことである。これを受けて全国の病院が取り組み始めたのが、患者満足度調査だった。

方向として誤りではない。だが、その視線には決定的な偏りがあった。測られるのは患者の満足だけで、それを支える職員のことは、誰も見ていなかったのである。

人手が足りず、時間もない。その現場に、患者満足度を上げよという課題だけが下りてくる。医療が社会にとって重要であるという大義は、あらゆる負荷を引き受ける理由として使われた。看護という仕事を選ぶ人の中には、家族が病を得たときに看護師に助けられた経験を持っている人も多くいる。ホスピタリティが高く、人に尽くそうとする。その献身に寄りかかることで、医療現場は成り立ってきた。一般企業が早くから職場環境の改善に取り組んできた30年間、病院はその領域を空白のまま放置せざるを得ない過酷な状況が続いていた。

疲弊は、医療現場の内側にとどまらなかった。安全に関わる事象が各地で表面化し、医療の質の低下は患者の側にまで及び始める。さらに近年は、医師や看護師をはじめとする医療従事者が集まらないことで病棟を閉じざるをえない病院が出てきた。病棟が閉まれば、病院の収入が立たない。職員の人事の問題として片づけられていたものが、経営の問題へと姿を変えたのである。

ここに至って、病院はようやく動かざるをえなくなった。ただし、出塚氏の見立てでは、多くの病院はまだ問題の本質を掴みきれていない。

出塚
「実際は採用の問題というよりも、入った人が辞めてしまっているという問題がいちばん大きいわけです。なぜそんなことが起きているのかということを、きちっと原因を追求して解決していく。それをやってこなかったというのが、今の状況です」

順序を入れ替える必要がある、と出塚氏は考えた。患者満足度が上がれば紹介も再来院も増え、医療収入が増える。その分を職員へ還元する。従来はそう説明されてきた。しかし現実には、循環が回り出す前に職員が辞めていく。ならば、先に職員の満足度を上げるほかない。職場への信頼が高まれば定着率が上がり、医療を支える力そのものが厚くなる。高い水準の医療が提供され、結果として患者の満足も上がっていく。

見るべき順序は、逆だったのではないか。

バリューメディカルが職員満足度調査を始めたのは2017年である。そして2020年、同社は医療人材紹介を主軸とするMRTグループに参画した。MRTグループを形成するMRT株式会社は東京大学附属病院の医師の互助組織に端を発し、大学病院から関連病院への医師紹介支援から拡大、医師・看護師をはじめとする医療従事者を医療機関や自治体、企業などの要請に応じ、常勤・非常勤とさまざまなかたちでのマッチングを行ってきた。MRTグループは現在、医師・看護師をはじめとする医療従事者20.5万人※2の会員基盤を擁し、医療人材紹介はもとより、医療従事者会員への情報提供や医療経営支援、地域医療支援など医療に関わる各組織に向けた多角的なサービス展開を推進している。

人を紹介する事業と、人が辞めない職場をつくる事業。両者が同じグループに並んだことの意味は、この記事の終盤で明らかになる。

※2:2025年12月31日時点

 

看護師の点数だけが、際立って低かった

調査の対象は、おおむね100床を超える規模の病院である。設問は100項目におよび、医師も、そのほかの医療従事者も、事務職も、すべての職種が回答する。

結果は、一つの職種に集中して現れた。看護師の点数だけが、他と比べて明らかに低いのである。医師にも技師にも事務職にも、それぞれの負荷と課題があり、少ない人数で業務を回している点も共通している。それでも、数字の落ち込み方には、はっきりとした差があった。職種によって、置かれた環境の設計そのものが異なっているのである。

では、看護師の環境には何があるのか。出塚氏は複数の病院にヒアリングを重ね、その構造を掘り下げていった。

まず、人数である。職員が1,000人いる病院なら、およそ500人が看護師にあたる。組織の半分を占める最大の職種でありながら、そのマネジメントには十分な時間や資源を割くことが難しい状況が続いてきた。病棟には師長が1人置かれ、その下に30人ほどの看護師がつく。

MRTグループ 株式会社バリューメディカル 代表取締役 出塚 太郎氏

出塚
「リクルートの人事教育では、1人のマネージャーが見られるのは6人、多くて10人と言われていました。30人は完全に無理な人数です。師長の部下に主任や副主任が2~3人いますが、現場で動くプレイヤーです。それではマネジメントは絶対にできない。結局、プレイヤーになってしまいます」

一般企業であれば成立しない設計が、病院では常態になっている。組織を見るための時間は、はじめから十分に確保されていない。

かつては、この無理を職場の同質性がある程度まで吸収していた。看護師をめざす動機は近く、価値観も共有されていることが前提とされていたからである。しかし現在、この仕事を選ぶ理由は一つではない。それは他の職業と何ら変わらない、当たり前の変化である。

出塚
「見ている方向がいろいろな人たちがたくさんいるのを、30人を1人で束ねるような状態では、もうなくなっているんです」

問われているのは働く側の意識ではなく、束ねる側の設計である。

そこに、勤務そのものの過酷さが重なる。日勤と夜勤を交代で担う職種は、他にほとんど例がない。体調は崩れやすく、現場は常に慌ただしい。余裕のなさは、人と人の間にそのまま表れる。後輩が質問しても、忙しいから今は答えられないと返される。前にも説明したはずだと突き放される。ある病院では、「前に言った」という言葉を職場から追放しようという標語が掲げられていた。標語にしなければならないほど、その言葉は日常に染みついていたということである。

職員満足度の数字が低いのは、看護師個人の問題ではない。低くならざるを得ない設計になっている組織が、そこにあった。

 

自由記述が映した、病院に共通する課題

調査はWebのアンケート形式で行われる。設問はおよそ100項目におよび、選択式の設問に加えて、自由記述の欄が設けられている。数字は傾向を示すが、なぜその数字になったのかまでは語らない。答えは、職員が自らの言葉で書き込んだ記述の中にある。

集まった自由記述をAIで整理し、内容と重要度によって分類していくと、病院ごとの個別性を超えて、いくつかの共通した課題が浮かび上がってくる。

出塚
「自由記述をAIに入れて、重要度なども含めてまとめていくと、だいたいこうした項目になるんです。まずやっぱり人の不足の問題。次はハラスメント。それから給与、人事評価、コミュニケーション、管理職のマネジメント。多くの病院に、共通してあります」

最後の項目は、一般企業でも見慣れた光景である。看護技術に長けていることと、30人の部下を束ねられることは、まったく別の能力である。

実際の報告書に並ぶ記述は、生々しい。医師と看護師の間で意思の疎通が取れない。組織体制が古い。上司の当たりが強い。人に対する不満が、繰り返し書き込まれる。長い時間をかけて蓄積し、書き込まれる機会を待っていた声である。そして病院は、それを長く放置してきた。

問題は、ここから先にある。調査の結果は、経営層と、看護部門の責任者を含む主要なメンバーに直接フィードバックされる。そこで読み上げられるのは、ほかならぬ自分たちに向けられた評価である。

出塚
「つらいわけですよ、本当の話をするので。自分のことを言われているわけですから。でも、そこを受け止められるかどうかが分かれ目です。受け止めた病院は、そこからきちんと手を打っていかれます」

自分の通信簿を、他人の口から読み上げられる。目を背けたくなるのが自然だろう。そこに、病院の姿勢が現れる。

そしてバリューメディカルの仕事は、報告書を渡した時点では終わらない。調査を行い、その結果に基づいて研修を組み立て、一定の期間を置いてもう一度調査をする。調査は、現状を突きつけるための道具ではない。変えるための出発点である。

 

上司が変わらなければ、職場は変わらない

調査で課題が見えたところで、次に何をするか。バリューメディカルの答えの一つは研修である。ただし、その中身は一般的な研修と大きく異なる。

まず、eラーニングは使わない。知識を配信するだけでは行動は変わらないという指摘は、すでに数多くの論文が示している。ハラスメントの定義を画面上で学んだところで、翌日から職場のハラスメントが減るわけではない。それは、受講する側が最もよく知っている。

同社の研修は、自分の職場の数字を見るところから始まる。愛知県の中部ろうさい病院で行われた取り組みが、その一例である。同院が抱えていたのは、入職から3年で辞めていく看護師が多いという課題だった。2020年頃から若手の離職防止に取り組んできたが、数年を経て分析してみると、思わぬ構図が見えてきた。新人を守ろう、守ろうとするあまり、指導する側が言うべきことを十分に言えなくなっていたのである。守ることが、かえって双方を追い詰めていた。

2024年11月、同院は看護師長と師長補佐、あわせて30名ほどを対象に、心理的安全性を高める研修を実施する。心理的安全性は、話しやすさ、助け合い、挑戦の奨励、業務改善の歓迎という4つの視点で測られる。バリューメディカルは事前のアンケートでこれを測定し、病院全体の平均点と、自分の病棟の点数を、それぞれの師長にフィードバックした。

中部ろうさい病院での研修の様子
中部ろうさい病院での研修の様子

自分の病棟が、なぜその数字になったのか。師長は師長補佐とともにその事実を突き合わせ、原因を分析し、対策を自分たちの手で立てる。複数の病棟がグループになり、互いの結果を持ち寄って議論し、行動プランを練り直す。そして最も重要なのが、その先である。立てたプランを職場に持ち帰り、現場のメンバーと話し合う。半年ほど実践したのち、もう一度、同じ調査を行う。

出塚
「結局、講義を受けても何も変わらないんです。そもそもコミュニケーションの問題なので。職場に持ち帰って、職場のメンバーと話をするということが、やっぱりすごく重要なんです」

この研修で、ある師長の認識が変わった。部署を変えるには、メンバーである看護師が変わらなければならない。そう考えていた。しかし個人ワークを通じて自分の傾向を見つめるうちに、相手の変化を求めるのではなく、上司である自分が変わることが必要だと気づいたという。

師長が立てた行動目標は、一人ひとりと話す時間を増やすことだった。この日のこの時間に5分だけ時間をもらいたい、と声をかけ、あらかじめ時間を決めておく。話す内容は雑談に近いこともある。それでも、この前の患者さんとの関わりが良かった、あの対応を選んだ理由はあるのか、と具体的な出来事を意識して個別に伝えるようにした。

半年後の再調査で、数字は動いた。心理的安全性は総合で0.52ポイント、新しいことへの挑戦は0.86ポイント上昇している。そして職場では、今日はありがとう、今日のあれは良かった、という声が交わされるようになった。数字より先に、会話が変わっていた。

出塚
「最終的にやっぱりそこがいちばん重要で、上司が結局は変えていくということがあった。すごく意識が変わって、半年後には師長さんの点数が良くなっていたんです」

変わるべきなのは現場のメンバーではなかった。束ねる側が変わったとき、職場は動き出した。

同じ設計は、ハラスメントの領域でも機能する。新潟県の魚沼市立小出病院では、2024年の秋、全職員を対象としたハラスメント研修が行われた。効いたのは、議論の時間である。ケアワーカーも、医療クラークも、放射線技師も、臨床検査技師も、同じテーブルで考える。看護師の現場ではこんなことが起こりうるのか。互いの立場を初めて知る職員がいた。

小出病院で行われた研修会の様子
小出病院で行われた研修会の様子

変化は、思わぬところに現れた。患者やその家族から厳しい叱責を受けたとき、看護部ではこれまで、個人がただ我慢し、心身をすり減らしていた。それが研修をきっかけに、これはカスタマーハラスメントではないか、と周囲に相談できる空気が生まれる。声は師長に届き、大きな問題になる前に事態は収まった。長年整備されていなかった対応フローも、これを機に作られ、院内へ周知されている。

知識を配るだけでは、職場は変わらない。全員が同じ言葉を持ち、それを口に出せるようになったとき、初めて何かが動き出す。

 

外部だから、話せる

調査があり、研修がある。それでも、こぼれ落ちるものがある。数字にも自由記述にも表れないまま、一人で抱え込んでいる職員がいる。とりわけ新人は、自分が何に苦しんでいるのかを言葉にすることさえ難しい。

愛知県の名古屋徳洲会総合病院は、そこに手を打った病院である。同院の看護部長が気にかけていたのは、普段の働きぶりからはまったく予期できない心身の不調による休職が続いていたことだった。あの子が、と驚くようなケースがいくつも起きていた。

院内には相談の窓口があったが、担い手を失って廃止された。代わりに設けたWebフォームは、ほとんど使われなかった。理由は明白である。秘密が守られないのではないか。所属する部署に報告が行ってしまうのではないか。職員の側に、その不安があった。

出塚
「病院なので、職場にカウンセラー的な仕事ができる心理士がいたりするんですけど、内部の人たちがそうやって聞くと、あまり行かないんですよ。人事考課に反映してしまうんじゃないか、自分の評価に影響するんじゃないかと。病院によっては、話した翌日に自分の師長が知っていたという話まで実際にあります」

2023年12月、同院はバリューメディカルの個人面談プログラムを導入する。対象は新人看護師の全員。およそ45名が、1人30分ずつ、外部の臨床心理士と向き合った。全員である、という点に意味がある。心配されて勧められたのではなく、全員が一律に受けるものだと理解してもらったほうが、警戒心なく気持ちを話せる。同院の副看護部長は、そう考えたという。

面談室では、こういう場面が起こる。席に着いた瞬間に、泣き出す新人がいる。何があったのかと尋ねると、分からないことを先輩に聞いたところ、忙しいから自分でやってと返された。それ以来、萎縮して何も聞けなくなったのだという。同期は仕事を覚えていくのに、自分だけが成長していない。悩みは悪循環に入り、深まっていく。こうしたことが現場で起きていると把握できていない病院は、決して少なくない。

報告は、個人が特定できない形にまとめられ、看護部へ共有される。そこから浮かび上がったのは、指導する側の課題でもあった。指導者ごとに内容にばらつきがあり、看護部の方針が現場に届いていない。指導する側もまた、疲れとジレンマを抱えている。同院は翌年から、新人指導を担当する職員への研修を新たに設けた。

新人の離職率は、初年度が0%。次年度も5%以下に抑えられ、以降、毎年継続されている。一人ひとりに時間を取ることが、これほど効く。

この考え方こそが、バリューメディカルのウェルビーイング事業の核にある。一般企業でいうEAP3は、不調をきたした人をどう回復させ、職場へ戻すかという段階に重点が置かれてきた。その支援はもちろん必要である。ただ、それだけでは、追い詰められていく人を見過ごしてしまう。

出塚
「早め早めに兆候をきちっと見て、フォローアップしていくことがすごく重要なんです。だから私たちは、「0次予防」という言い方をしています」

不調を治すことと、不調に至らせないこと。その両方が要る。同社は面談や相談の窓口を通じて、いま苦しんでいる人を受け止める。そのうえで、苦しむ前の段階に手を伸ばそうとしている。

そして、話せる場が成り立つには、条件がある。調査結果は第三者機関が管理し、病院の中の人間が個人を特定することはできない。人事評価には一切使わない。誰が相談に来たかも、病院には伝わらない。バリューメディカルは、それを必ず明示する。

安心して話せなければ、本音は出てこない。本音が出てこなければ、何も変わらない。外部であること。第三者であること。それは、この仕事の前提条件である。

*3:EAPは、「Employee Assistance Program」の略であり、「従業員支援プログラム」と訳されています。事業場外資源によるケアの一つの手段として位置付けられるメンタルヘルス支援サービスで、カウンセリング等を提供しています。(出典:厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳)

 

頼れる人を、少しずつ増やす

職場環境への投資は、コストなのか。出塚氏は、逆だと言う。看護師を1人採用するには、新卒でおよそ94万円、中途でおよそ104万円がかかる。教育のコストも積み上がり、給与を含めれば3年でおよそ1,500万円の投資になる。その人材が辞めれば、投じたものはすべて失われる。そして空いた穴を埋めるために、病院はまた採用へ資金を投じる。

出塚
「病院は、この領域にお金を使ったことがないんですよ。ここは本当に一般の企業と比べると、大きい割に中小企業のような感じです。どこもみんな、本当にお金をかけていない。どちらかというと、ここにこそすごくお金がかかる構造なんですけどね」

だが、外の環境が変わり始めている。求人サイトを開けば、企業の評価が点数で表示される時代である。口コミが並び、職場の雰囲気が数値になって可視化される。医療の世界も、例外ではなくなった。かつて大学病院の最大の訴求点は、多様な患者が来るから多様な技術を学べる、という一点だった。しかし、入職してからつらい思いをしながら働き続けたいと望む人は、どこにもいない。

バリューメディカルの調査を受けている病院から、その結果を求人広告に載せたいという申し出が届くようになった。この病院はこうした調査を実施し、これだけの点数を得ている。そう掲げたいというのである。働く人が安心して働ける環境をつくるために、きちんと投資している。そのこと自体が、選ばれる理由になる時代が来ている。

現在、同社が調査を手がける病院は40。研修や相談まで踏み込んでいる病院は30弱である。まだ、入り口に立ったばかりだ。

今後の重点として出塚氏が挙げるのが、中途採用者のオンボーディングである。新卒であれば、入職時の導入研修で同期という横のつながりが生まれる。だが人手不足が深刻化するなか、病院は中途採用に頼らざるをえない。中途採用者はばらばらの時期に1人ずつ入ってくるため、集合研修を組む機会がない。上下の関係は職場でできても、部署を越えた人間関係は生まれにくい。結果として、中途採用者のほうが新卒よりも離職率が高いという構図が生まれている。

ここに、MRTグループとの接続が現れる。人を紹介する事業と、人が辞めない職場をつくる事業。この2つが同じグループにあることの意味は、紹介して終わりにしない、という一点にある。送り出すだけでなく、その人が働き続けられる場所をつくる。定着までを含めて担うという考え方である。

最後に、いま病院で苦しんでいる人へ向けたメッセージを求めた。看護師の仕事には、ある意味で自立が求められる。しかし、その自立という言葉が、しばしば取り違えられている。一人で必死に頑張ること。それは自立ではなく、孤立である。かといって、頼れる相手が一人しかいなければ、今度は依存になる。その人の意見に左右され、自分を見失う。

MRTグループ 株式会社バリューメディカル 代表取締役 出塚 太郎氏

出塚
「相談できる多くの人を持っているということが、自立の前提条件なんです。一人でやったら孤立でしかなくて、全然ダメなんですよね。だから少しずつ、頼れる人を作っていく。まずはそれを、自分の周りでやっていたほうがいい」

医療は、社会にとって欠かせないものである。しかし、その医療を支えているのは、生身の人間にほかならない。支える人が孤立したまま削られていけば、いつか支えられる側にまで届く。

看護師を支えることは、医療を守ることである。バリューメディカルが病院に持ち込んだのは、その当たり前を、当たり前として扱うという視点だった。

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ライター:

Sacco編集・ライター。企業に直接出向く取材が中心。扱う記事はサステナビリティ、ウェルビーイング関係が多め。

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