
副校長が前日に校庭へ置き忘れたクマスプレーを、翌日15歳の男子生徒が見つけて噴射した。男女13人が目やのどの痛みを訴え、11人が病院に搬送。男子生徒は傷害容疑で現行犯逮捕された。
「置き忘れたのは副校長なのに、逮捕されたのは生徒」。この経緯だけを見ると、違和感を覚える人もいるだろう。今回の事故では、危険物を使った責任と、生徒が触れられる状態にした責任を分けて考える必要がある。
副校長が前日に持ち出し、そのまま校庭へ
毎日新聞などによると、9月17日午後、岩手県北上市立江釣子中学校の校庭でクマ撃退スプレーが噴射された。男女13人が目やのどの痛みなどを訴え、11人が病院へ搬送された。いずれも軽傷だった。県警北上署は、同学年の生徒にけがをさせた疑いで男子生徒を傷害容疑で現行犯逮捕し、詳しい経緯を調べている。
使われたスプレーは、生徒が持ち込んだものではない。
北上市教育委員会によると、2025年10月、クマ対策として市内の小中学校へ1本ずつ配備された学校備品だった。江釣子中では普段、職員室で保管していたが、事件前日の16日、副校長が校舎周辺を見回るために持ち出し、校庭南側の鉄棒付近に置き忘れた。翌日、生徒が見つけたとみられている。
なぜ「置き忘れた側」ではなく「使った側」が逮捕されたのか
男子生徒が逮捕されたのは、スプレーがそこにあったことではなく、実際に噴射して同学年の生徒にけがをさせた疑いが持たれているからだ。本人は噴射したことを認める一方、「けがをさせようと思ってやったわけではない」という趣旨の説明をしていると報じられている。
一方で、副校長の置き忘れは別の問題として残る。人に向ければ強い刺激を与えるクマスプレーが、一晩にわたって校庭に残され、生徒が自由に拾える状態になっていたからだ。生徒の行為と学校側の管理は、どちらか一方で相殺されるものではない。
「使った責任」と「置いた責任」は同じではない
今回の事故で分かりにくいのは、責任が一つではないことだ。
男子生徒については、実際にスプレーを噴射した行為が捜査の対象になる。一方、副校長や学校側には、危険性のある備品をどう管理していたのかという問題が残る。副校長が置き忘れなければ事故は起きなかった可能性が高いが、それだけで生徒側の行為がなくなるわけではない。
逆に、生徒が噴射したからといって、「学校備品がなぜ翌日まで校庭に残っていたのか」という管理の問題も消えない。今回の事故は、使った側と管理する側の責任が同時に存在するケースとして見る必要がある。
そもそも、なぜ中学校にクマスプレーがあったのか
北上市では2025年、クマによる建物被害や人身被害を受けて危機対策本部を設置した。市は学校などへのクマ撃退スプレー配備、小中学生の登下校支援、市民への購入費補助などを進めている。学校にスプレーが置かれていたのは、クマから生徒を守るためだった。
都市部では意外に感じるかもしれないが、クマの出没が多い地域では、スプレーが学校備品になるほど対策が日常化している。ただ、人に向ければ危険になる道具を導入するなら、その時点で保管や持ち出しの管理まで必要になる。
国は3週間前に「子どもの手が届く場所に置かない」と注意
消費者庁は8月25日、環境省などとともにクマ撃退スプレーの扱いについて注意喚起を公表している。スプレーにはカプサイシンなどの強い刺激物質が使われ、不適切に保管・使用すると周囲の人にも被害が及ぶ恐れがあるとして、「子どもの手が届く場所に置かない」「必要なとき以外は持ち歩かない」などと呼びかけていた。
今回の事故は、その注意喚起から1カ月もたたない時期に起きた。副校長が意図的に放置したわけではないが、結果として学校備品が一晩校庭に残り、翌日、生徒が拾える状態になった。事故後、北上市は各学校に対してクマ撃退スプレーの管理徹底を通知している。
クマ対策の普及に、学校の管理は追いついていたか
クマスプレーが身近になったのは最近のことだ。環境省が性能に関する推奨要件を公表したのも2026年8月。それまで国内には統一的な規格がなく、噴射距離や噴射時間、安全装置などが異なる製品が流通していた。
クマの出没が増えたことで、以前は登山や山仕事で使われることが多かった道具が、学校や自治体、住宅地まで入り始めている。学校に置くなら、職員室に保管するだけでなく、誰が持ち出したのか、戻したのか、紛失していないかまで確認できる仕組みが必要になる。
「副校長の置き忘れ」で終わらせると、また起きる
今回の事故は、副校長が置き忘れなければ起きなかった可能性が高い。生徒が噴射しなければ、11人が病院へ搬送されることもなかった。どちらも事実だ。
だからこそ、「誰が一番悪いか」を決めるだけでは再発防止につながらない。危険物を使った行為と、危険物を使える状態にした管理。その両方を見る必要がある。
クマから生徒を守るために学校へ入った道具が、生徒を病院へ運ぶ原因になった。今回の事故が示したのは、クマ対策を増やすなら、その道具を安全に管理する仕組みまで同時に整えなければならないということだ。



