
アリアナ・グランデが、2026年9月1日のツアー終了後に表舞台から離れる。2027年夏に出演予定だった英ミュージカルも降板した。代理人が理由として挙げたのは、公の場に出るたびに続く世間の詮索だった。ステージで何万人を魅了しても、SNSで見られるのは細くなった腕や頬の輪郭。「健康が心配」という言葉で身体を調べられる日々が、世界的スターを人目の届かない場所へ追いやった。
アリアナ・グランデ、ツアー終了後に活動休止へ
照明が降り注ぐステージをヒールで動き回り、息を切らさず歌い続ける「エターナル・サンシャイン・ツアー」は、9月1日にロンドンで最終公演を迎える。アリアナは残る公演を予定通り行ったあと、公の仕事やイベント出演を控え、休養に入るという。代理人は現在の彼女が健康で幸せな状態にあるとしたうえで、公の場へ出るたびに続く詮索から距離を置く必要があると説明した。
姿を見せれば撮影され、数分後には画像がSNSへ流れる。頬や肩が切り取られ、過去の写真と並べられ、食生活や病気まで推測される。歌や演技を届けるために人前へ出ても、作品より身体が話題になる生活が続いていた。
休止の重さは、翌年の大舞台を降板したことからも分かる。アリアナはロンドンで上演される「サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ」で、映画「ウィキッド」シリーズの共演者ジョナサン・ベイリーと再び共演する予定だった。製作陣は彼女の降板と公演続行を発表し、代役は今後決めるとしている。歌手としても俳優としても評価を高めている時期に、注目作を手放してでも休養を選んだ。
新作『petal』のメッセージをのみ込んだ体型論争
活動休止の発表直前、アリアナは新作『petal』を発表した。表題曲のミュージックビデオで演じたのは、オーディションで何をしても否定されるパフォーマーだ。実力が足りないと切り捨てられ、努力すれば必死すぎると笑われ、練習を重ねれば今度はやりすぎだと責められる。求められた通りに振る舞っても、審査する側は別の欠点を探してくる。
ところが公開後のSNSでは、作品が描いた怒りと同時に、アリアナの細い腕や浮き上がった肩、以前と違う頬の輪郭が盛んに取り上げられた。「痩せすぎではないか」「体調は大丈夫なのか」という投稿が広がり、映像を止めて過去の姿と見比べ、根拠のない病名を挙げる人まで現れた。
画面の中でアリアナは、自分を採点し続ける審査員への怒りを爆発させる。その映像を見た人々が、今度は彼女の身体を採点し始めた。何をしても批判される苦しさを描いた作品が、そのまま現実になった。
「健康が心配」で他人の身体を品評する人々
「醜い」と書けば容姿への中傷になるが、「心配」「誰か助けてあげて」「少し太ったほうがいい」と書けば、相手を気遣う言葉に見える。しかし、普段の彼女の姿を知らない人が、一枚の写真から健康状態を決めている点は変わらない。
柔らかな言葉を選んでも、本人の身体を大勢でのぞき込み、体重や病気を推測すれば、それは気遣いではなく品評になる。誰かの臆測が引用され、検索結果に残り、やがて「以前から体調不良が心配されている」という別の記事や投稿に使われる。本人が否定すれば、その発言まで新しい話題にされる。
アリアナは2023年にも、他人の身体について安易に語らないでほしいと訴えていた。当時、世間が「今より健康的だった」と評価した過去の体型について、本人はむしろ人生で最も不健康だった時期だと説明している。抗うつ薬を服用しながら飲酒し、食生活も乱れ、精神的にもつらい状態にあったという。
写真から分かるのは、撮影された瞬間の輪郭だけだ。それでも世間は、本人の説明より数秒の映像から抱いた印象を信じ、痩せれば病気を疑い、太れば自己管理を問う。黙れば臆測が広がり、説明すれば発言の真偽を検証される。逃げ道は最初から用意されていない。
歌声より先に頬と肩を見られたアリアナ・グランデ
アリアナは映画「ウィキッド」シリーズでグリンダを演じ、俳優としても評価を高めた。新作を発表し、体力を求められるツアーでは毎晩ステージを動きながら歌っている。それでも人前に出れば、歌声や演技より先に、腕の細さや頬のこけ方が見られる。作品を届けるために姿を現すたび、その身体が娯楽として消費されてきた。
今回の休止は引退ではなく、復帰時期も決まっていない。「ゆっくり休んでほしい」という声も、戻ってきた彼女を見て「顔色が良くなった」「少しふっくらして安心した」と言えば、同じ品評の繰り返しになる。アリアナが離れるのはステージだけではない。心配という言葉を使えば他人の身体を好きに論じてもいいと思っている人々の視線から離れるのだ。彼女の復帰を待つなら、体型ではなく、次に届ける歌を見ればいい。



