
「夕霧薫」の名で活動し、80法人で122物件、総資産約200億円ともいわれた不動産投資家・野口薫被告に、懲役3年の実刑判決が言い渡された。
楽待新聞によると、東京地裁は2026年7月13日、野口被告が代表を務める法人7社に計3200万円の罰金、本人に懲役3年の判決を言い渡した。野口被告は金地金取引と不動産の工事請負契約をめぐり無罪を主張してきたが、裁判所はいずれも退けた。
消費税約7300万円を不正還付、約9000万円も受け取ろうとしたか
野口被告は、代表を務める法人で金地金の架空売買を行い、課税売上を過大に計上した虚偽の確定申告によって、消費税約7300万円の還付を受けたほか、約9000万円を受け取ろうとしたとして起訴されていた。
2025年6月の初公判で、野口被告は起訴内容を否認。弁護側も、金地金取引には実態があり、確定申告や契約書の作成にも不正はなかったとして無罪を主張した。
裁判では、金地金取引が実在したのか、不動産の工事請負契約が税制改正前に成立していたのかという2点をめぐり、検察側と弁護側の主張が対立した。
東京地裁「金地金取引の存在は認められない」
検察側は、金地金も代金も実際には移動しておらず、取引は帳簿上の記録にすぎなかったと主張した。
これに対し野口被告は、取引先との間で金地金の現物をやり取りし、代金も支払ったと反論。電話やメッセージを使って取引条件や金額を決めていたと説明した。
東京地裁は、野口被告が従業員に作成させた金地金売買の書面について、実際の取引に基づかない架空のものと認定した。取引の実態があったとする野口被告の説明も、不自然で合理性を欠くとして退けた。
契約書を切り貼り、税制改正前の日付に変更
もう一つの争点となったのが、新築マンションの工事請負契約が2020年3月31日までに成立していたかどうかだった。
2020年度の税制改正により、居住用賃貸建物を取得した際の消費税還付は制限された。ただし、同年3月31日までに契約が成立していれば、従来の制度が適用される経過措置が設けられていた。
野口被告は、対象となった物件について期限までに不動産会社との基本的な合意が成立しており、口頭でも契約は成立すると主張した。
一方、検察側は、実際の契約成立は2020年4月以降で、野口被告が日付を遡らせた契約書を確定申告に使用したと指摘した。
証人尋問では、取引に関わった不動産会社の営業担当者が、消費税還付を成立させるために契約書を切り貼りして作成したと証言した。担当者は、当時から違法性を認識していたと述べ、自身の独断で行ったと説明している。
東京地裁は、この証言が多数の客観的な資料と符合すると評価。契約書の日付は虚偽であり、実際の契約は2020年4月以降に成立したと認定した。
前科なし、還付金返還済みでも執行猶予は付かず
検察側は、野口被告に懲役3年6カ月、法人7社に計3600万円の罰金を求刑していた。
東京地裁は、野口被告に懲役3年、法人7社に計3200万円の罰金を言い渡した。不正に受け取った約7300万円と、受け取ろうとした約9000万円を極めて高額と評価。自らの利益のために他者を巻き込んだことや、公判での証言に合理性がなく、反省も認められないことを刑を決める際の事情に挙げた。
野口被告に前科がなく、約7300万円の還付金をすでに返還していた点も考慮されたが、裁判所は実刑が相当と判断し、執行猶予を付けなかった。
「夕霧薫」の本業はキヤノン社員と週刊文春が報道
野口被告は、会社員として働く一方、「夕霧薫」の名前で不動産投資セミナーに登壇していた。楽待新聞は、野口被告が80法人を通じて122物件を展開し、総資産は約200億円ともいわれたと伝えている。
週刊文春は2025年3月、野口被告の勤務先が大手精密機器メーカーのキヤノンだったと報じた。野口被告は勤務先を「上場企業」とだけ説明し、本業の社名は公表していなかったという。
同誌によると、野口被告は堀江貴文氏と一緒にセミナー講師を務めたこともあり、不動産投資家の間で知られた存在だった。
キヤノンは同誌の取材に「お答えを差し控える」と回答した。この報道は逮捕当時の在籍状況を伝えたもので、判決時点でも在籍しているかは明らかになっていない。
野口薫被告側が控訴するかは明らかにならず
野口被告は初公判から一貫して無罪を主張してきた。金地金取引には実態があり、工事請負契約も税制改正前に成立していたとの立場を崩していない。
楽待新聞は7月13日の判決記事で、野口被告側が控訴するかは明らかになっていないと伝えている。一審判決は現時点で確定していない。



