
カジュアルファッションを扱う人気ブランドWEGO(ウィゴー)が、人気アニメ「僕のヒーローアカデミア」との待望のコラボ商品を、発売の直前になって突如取りやめた。株式会社ウィゴーが公式サイトで告げた理由は「諸事情により」の一言のみ。
説明の乏しさと、中国市場への進出を進める同社を取り巻く状況とが重なり、ファンからは失望と怒りの声が噴き出している。
発売直前の中止発表、理由は「諸事情により」
WEGOと集英社系の人気作「僕のヒーローアカデミア(ヒロアカ)」のコラボは、2026年9月7日に解禁された。緑谷出久、爆豪勝己、麗日お茶子、轟焦凍、蛙吹梅雨、耳郎響香の6人を本企画のために描き下ろしたビジュアルを使い、アパレルやグッズを9月18日から全国のWEGO店舗とオンラインストアで販売する予定だった。原宿本店ではウィンドウ掲出も告知されていた。
ところが発売を目前に控えた9月12日、株式会社ウィゴーは公式サイトで販売中止を発表する。文面は「諸事情により販売を見送らせていただくこととなりました」「ご迷惑をお掛けしますことをお詫び申し上げます」と、事情の中身には一切触れないものだった。
中止の背景に何が——「九一八」と過去の炎上
同社は理由を明かしていない。だが観測筋やファンが注目するのは、中止に至るまでの一連の状況である。
まず発売日の9月18日は、満州事変の発端となった1931年の柳条湖事件(九一八事変)から95年にあたり、中国では反日感情が高まりやすい節目とされる。加えてヒロアカは、2020年に作中キャラクター「志賀丸太」の名が旧日本軍731部隊の人体実験被害者を指す隠語「マルタ」を連想させるとして、中国や韓国で激しい批判を浴びた過去を持つ。ねとらぼなどによれば、当時は集英社と原作者の堀越耕平氏が意図を否定したうえで謝罪し、単行本収録時に名前を変更。中国では大手配信サイトが漫画やアニメを削除する事態にまで発展した。
さらに、代表取締役社長・園田恭輔氏のもとで中国進出を加速するWEGOは、上海・淮海中路に中国本土初となる旗艦店「WEGO HARAJUKU」を9月29日に開業する予定である。日本でのコラボ発売と中国での大型出店が、わずか10日ほどの間に並ぶ日程だった。
ファン反発——「中国批判を優先し、他の客を切り捨てた」
中止の一報を受け、SNSでは批判が急速に広がった。多くを占めたのは、日本のブランドが日本の作品と組んだ企画を、中国での反発を理由に取りやめたのではないか、という不信である。「他国のファンを自分から切り捨てた」「発売を楽しみにしていた客を裏切った」といった声が相次いだ。
コラボを心待ちにしていたのは日本の利用者だけではない。台湾のファンからも「突然の終了に強く失望した」「今後も同じ対応をするなら、もう商品は買わない」と、購入離れをにおわせる投稿が寄せられている。企業姿勢そのものへの落胆は、国境を越えて広がった。
繰り返されるヒロアカと中国の摩擦
ヒロアカをめぐる中国での摩擦は、初めてではない。2026年2月には、テレビアニメ放送10周年を記念した「名探偵コナン」との公式コラボが中国で炎上し、6年前の「志賀丸太」問題が蒸し返された。共同通信などの報道によれば、余波は無関係のコナンにまで及び、中国各地のイベントでコナン関連グッズの販売やコスプレが相次いで禁止された。
娯楽作品が歴史認識とナショナリズムの渦に巻き込まれ、市場から締め出される。日本コンテンツが抱える構造的なリスクが、WEGOの一件で改めて可視化された格好だ。
市場か、ファンか——問われる説明責任
一方で、中国側の反発を単なる過剰反応と切り捨てるべきではない。731部隊をめぐる史実は重く、被害者を指す言葉が加害者の名として使われることへの痛みには、耳を傾けるべき部分がある。企業が海外市場と向き合ううえで、歴史的な機微への配慮が欠かせないのも確かである。
問題は、配慮の中身ではなく、伝え方にある。理由を「諸事情」の一語で覆い、発売を待っていた顧客への説明を欠いたまま幕を引けば、市場を選んでファンを軽んじたと受け取られても仕方がない。ブランドスローガンに「YOUR FAN(あなたのファンになる)」を掲げる企業であればなおさら、沈黙は不信を深める。
政治と市場の板挟みのなかで、日本のブランドはどこまで説明責任を果たせるのか。WEGOの対応と、上海旗艦店の開業を控えた同社の次の一手が問われている。



