
スーパーに行けば、また値上げ。しょうゆ、マヨネーズ、冷凍食品、乳製品。9月も、いつもの食卓に並ぶ食品が次々と高くなる。
帝国データバンクによると、2026年9月に値上げされる飲食料品は4923品目。前年同月の1467品目と比べて約3倍に増え、今年に入って1カ月当たりでは最多となった。
「また食品が高くなるのか」。そう感じるニュースだが、その一方で、まったく逆の動きをしている食品がある。コメだ。しかも店頭では、前年に収穫された古米より、2026年産の新米の方が安いという異例の「価格逆転」まで起きている。
食品は4923品目も値上げするのに、なぜ新米は安くなるのか。同じ「物価高」の中で起きる逆転現象を追うと、スーパーの値札の裏にある、二つの異なる価格の仕組みが見えてくる。
9月の食品値上げは4923品目、前年の約3倍
帝国データバンクが主要食品メーカー195社を対象に調査したところ、9月に値上げされる飲食料品は4923品目にのぼった。平均値上げ率は11%で、前年9月の1467品目と比べると約3倍の規模だ。単月で4000品目を超えるのは2025年4月以来1年5カ月ぶりとなる。
値上げされる食品で最も多いのは「調味料」の1959品目。しょうゆやマヨネーズ、ドレッシング、食酢などが並ぶ。続いて、冷凍食品やチルド食品を含む「加工食品」が1848品目、「酒類・飲料」が466品目、「乳製品」が278品目、「菓子」が272品目となった。高級品ではなく、毎日の食事で使う食品が中心だからこそ、家計への負担も実感しやすい。
中東情勢がなぜマヨネーズの値段に関係するのか
値上げの最大の理由は原材料費の上昇だ。帝国データバンクによると、値上げ要因として「原材料高」を挙げた割合は90.7%。さらに、電気代や燃料代などの「エネルギー」は65.1%に達した。そして今回、目立っているのが中東情勢の影響で、値上げ要因として挙げた割合は27.8%、およそ3割弱にのぼる。
「中東で起きていることが、なぜ日本のマヨネーズや冷凍食品の値段に関係するのか」。そのカギになるのが原油だ。原油価格が上がれば、工場のエネルギーだけでなく、包装フィルムやトレー、ペットボトル、輸送に使う燃料にも影響する。そこに円安や人件費、物流費の上昇まで重なる。2026年の食品値上げは、1〜11月の判明分だけですでに1万9083品目。10月にも3033品目の値上げが予定されている。
ところが新米は逆方向、古米より安い店も
ここまで読むと、「結局、食品は全部高くなる」と思うかもしれない。ところが、コメ売り場では逆の現象が起きている。全国のスーパーで販売されるコメの平均価格は下落傾向にあり、さらに2026年産の新米が、前年産の古米より安く売られる店も出てきた。
テレビ朝日によると、都内のスーパーでは新潟県産コシヒカリの2025年産米が5キロ3580円だったのに対し、千葉県産あきたこまちの2026年産新米は2780円。品種は違うものの、新米の方が800円安い。山形県鶴岡市の産直施設でも、2026年産「ひとめぼれ」が5キロ2646円なのに対し、2025年産「コシヒカリ」は3348円と、新米の方が702円安く販売されている。
なぜ去年のコメより新米の方が安いのか
本来、新米は古米より高く売られるのが一般的だ。それが逆転した背景には、前年のコメ高騰がある。2025年産米は「令和の米騒動」による品薄の中で高値で取引されたため、卸や小売店が高い価格で仕入れた在庫が残っている。仕入れ価格が高ければ、簡単には店頭価格を下げられない。
一方、2026年産の新米は状況が違う。コメの在庫増加や増産見通しを背景に、JAなどが農家からコメを集める際に支払う「概算金」が各地で大幅に下落している。テレビ朝日によると、新潟県産コシヒカリの概算金は前年より38%低い水準となっている。高値で仕入れた前年産米の横に、より安い価格で仕入れられた新米が並ぶことで、「古米より新米が安い」というねじれが生まれている。
備蓄米の大量放出もコメ価格を押し下げた
コメ価格が下がった背景には、政府による備蓄米の大量放出もある。2025年の米不足を受けて政府が備蓄米を市場に放出したことで供給量が増え、価格を押し下げる要因となった。全国スーパーのコメ平均価格も下落し、前年同期より大きく安くなっている。
さらに2026年は作柄も良好とされ、民間在庫も前年より増えている。政府は逆に、放出で減った備蓄を回復するため、2025年産米21万トンを買い戻す方針を決めた。足りなかったコメを放出したあと、今度は市場に余裕が出てきたことで、備蓄を戻す動きに変わっている。
ローソン、セブン、ファミマもおにぎり値下げへ
コメ価格の変化は、コンビニの商品にも表れている。ローソンは9月29日から、手巻おにぎりなど20品を10〜11円値下げする。「シーチキンマヨネーズ」は181円から171円に、「熟成炙り紅鮭」は221円から211円になる。
セブン-イレブンやファミリーマートも、おにぎりの一部商品の値下げに動く。調味料や冷凍食品が次々と高くなる同じ9月に、主食であるコメやおにぎりは安くなる。食品売り場では、値上げと値下げが同時に進んでいる。
食品は上がり、コメは下がる 価格を動かす力が違う
では、なぜ食品4923品目が値上げされる一方で、新米の価格は下がるのか。大きな違いは、価格を動かしている原因にある。調味料や加工食品は、原材料や原油、包装資材、為替など海外情勢の影響を受けやすい。
一方、国産米は「どれだけ作られたか」「どれだけ在庫があるか」「どれだけ売れるか」という国内の需要と供給の影響を強く受ける。前年は不足で価格が上がり、今度は在庫増と増産で価格が下がる。さらにその間に高値で仕入れた古米が残ったことで、新米の方が安いという逆転まで生まれた。
「物価高」の一言では見えない9月の食卓
9月、4923品目もの食品が値上げされる。ニュースだけを見れば、「また物価高か」で終わるかもしれない。だが、その隣のコメ売り場では、今年収穫されたばかりの新米が前年産米より安く並ぶという、これまでとは逆の光景も広がり始めている。
「物価高」と一言でまとめてしまいがちだが、実際には食品ごとに値段が動く理由は違う。マヨネーズや冷凍食品は原油や円安の影響を受ける一方、コメは国内の在庫や生産量によって価格が変わる。9月の売り場では、その違いが「値上げ」と「値下げ」という形ではっきり表れている。



