
にじさんじ所属VTuberの夢月ロアが、VTuber「鳴神裁」を相手に起こしていた損害賠償請求訴訟は、2026年5月18日付で東京地裁の裁判上の和解が成立した。運営会社のANYCOLORと代理人の小沢一仁弁護士が8月13日に公表し、鳴神も事実と異なる内容を配信したと認めて謝罪した。
和解では、夢月が元所属VTuberの金魚坂めいろに対していじめや不当な嫌がらせをした事実は存在せず、金魚坂との契約解除も夢月とは無関係だったことを確認した。訴状での請求額は約2240万円。夢月側は金銭請求の判断を判決で得ることより、鳴神の配信に至った経緯を和解手続きで確認することを選んだ。
鳴神裁が配信した3本の動画 金魚坂めいろの契約解除と結びつける
騒動は2020年、夢月と同じにじさんじに所属していた金魚坂めいろの口調をめぐるやりとりから広がった。ANYCOLORの前身「いちから」は同年10月21日、金魚坂について、秘密情報の第三者への漏洩と秘密保持義務違反があったとして契約解除を発表した。
東京地裁の訴訟記録を閲覧した弁護士ドットコムニュースによると、鳴神が2020年10月から11月に公開した3本の動画が訴訟の対象となった。「パクリじゃなかった?にじさんじ運営と夢月ロアが金魚坂めいろを辞めさせた真実」と題する動画や、夢月のキャラクターに「秘技!新人潰し!」との文字を重ねた動画も含まれていた。
訴状で夢月側は、動画が夢月を金魚坂へのいじめによって引退に追い込もうとした人物と受け取らせる内容であり、公開後に非難や中傷が増えたと主張した。夢月は2020年10月21日を最後に配信活動を止め、その後も本格的な活動を再開していない。
約2240万円を求め2024年11月に提訴 発信者特定まで長期化
夢月側はまず、匿名で配信していた人物を特定する手続きを進めた。2022年3月、アクセスプロバイダーに対する発信者情報開示請求訴訟で、東京地裁は名誉権の侵害を認め、発信者情報の開示を命じた。
鳴神の説明では、2023年2月ごろから同年11月ごろまで刑事事件として捜査を受け、結果は不起訴だった。これとは別に、夢月は2024年11月、名誉権、名誉感情、営業権を侵害されたとして、慰謝料や逸失利益など約2240万円を求める民事訴訟を起こした。
鳴神側は、夢月の演者が一般の視聴者に特定できるのかという「同定可能性」を争ったほか、金魚坂本人らから説明や証拠の提供を受け、動画内容を真実と信じる相当の理由があったと主張した。訴訟は第16回弁論準備手続まで続き、2026年5月18日に和解が成立した。
和解条項が否定した「いじめ」 情報源には一部VTuberと匿名提供者
今回の決着は判決ではなく、原告と被告が合意した裁判上の和解である。和解条項には、鳴神が他のライバーから提供された情報に基づいて事実に反する動画を配信し、夢月に多大な迷惑をかけたことを謝罪するとの内容が盛り込まれた。
双方は、夢月が金魚坂を含む所属・元所属VTuberに対し、単独またはANYCOLORや第三者と共同していじめをした事実は存在しないと確認した。夢月の配信休止やイベント不参加、SNSでの発信も、金魚坂に精神的な圧力をかける目的ではなかった。夢月が金魚坂本人に訛りの模倣を指摘したり修正を要求したりした証拠はなく、ANYCOLORが両者の直接連絡を禁じた事実もないとされた。
ANYCOLORによると、いじめの「証拠」として広まった画像や情報は、第三者から提供された虚偽情報などに基づくものだった。訴訟記録では、鳴神の情報源として、金魚坂本人の証言、金魚坂に情報を伝えた一部VTuberとの会話、社内情報として虚偽の事実を持ち込んだ一部VTuberとの会話、匿名の情報提供者が挙げられている。
和解条項は双方に、確認内容と反する発信をしないことや互いに誹謗中傷しないことを定め、違反時には1回につき10万円を支払う内容も盛り込んだ。鳴神は8月13日、自身のXで、得た情報に事実と異なる部分があったと認め、視聴者に虚偽の情報を伝えたことを謝罪した。
「私の時間はとまったまま」150ページ超の書面 活動再開日は未発表
訴訟記録には、夢月本人が書き、代理人が校正していない複数の書面が残されていた。夢月は2019年1月にデビューし、2020年6月にはYouTubeチャンネル登録者数が30万人に達したが、動画公開後に中傷や殺害予告を受け、仕事のキャンセルもあったと訴えている。訴状によると、心的外傷後ストレス障害、うつ病、社会不安障害と診断された。
2024年11月の陳述書には「私の時間はとまったままです」と記した。鳴神の動画を書き起こし、内容ごとに事実と異なる点を記した書面は150ページを超えた。2025年7月の陳述書では、当時も毎日約100件の中傷を書き込まれていたと訴えている。
夢月は和解公表後にXを更新し、やっていない事実について不存在を証明できず、多くの時間を失ったと説明した。そのうえで、背後でどのような情報のやりとりがあったのかを把握し、自身に起きたことを伝えるために和解を選んだと明かした。
小沢弁護士も、金銭請求に関する判断より配信までの経緯を確認する方が名誉回復に適すると夢月と判断したと説明している。夢月は現在もにじさんじに所属しているが、8月15日時点で活動再開日や今後の活動方針は発表されていない。



