提供:ミダス財団
子どもの教育支援や、障がいがある人への就労支援などの仕事を経て、2026年3月に公益財団法人ミダス財団(以下、ミダス財団)に参画した森崎昇さん。子どもたちが多様な体験を享受できる社会の実現を目指す「子どもの体験コンソーシアム」の事務局として、勉強会の企画、運営などに取り組んでいます。これまでのキャリアと、子どもの体験事業にかける思いについて聞きました。
人との出会いと体験が、未来を変える
森崎
大学卒業後、2006年から約10年間、総合人材サービス会社で営業やチームのマネジメント業務に就きました。マネジメント力をつけようと働きながら大学院に通ったときに、社会課題を解決するソーシャルビジネスに出会い、興味を持ったことが教育支援のNPO法人に入るきっかけになりました。
大学院では、リクルートから東京の公立中に民間人校長として就いたことで知られる、藤原和博先生の授業に刺激を受けました。そうしたこともあり、2016年から3年間、自治体と連携し、教員人材を小中学校に送り出すNPO法人で、教員の採用マネージャーを務めました。
自治体によって、教員免許が必要なところ、そうでないところがありましたが、福岡県や埼玉県など各地の小中学校に2年間の期間限定で、教員を送り出しました。子どもたちも、赴任した先生にとっても、良い変化があるのを目の当たりにしました。
その後、株式会社LITALICOで、精神障がいや発達障がいがある人たちの就労支援を担当しました。どんな現場でしたか。
森崎
支援計画を立て、就労までに必要なトレーニングを行うのですが、私は特に出会いや体験を重視しました。企業の方に就労移行支援事業所に来てもらい、仕事やご自身のキャリアについて説明してもらいました。障がいのある方たちに、さまざまな選択肢があることを知ってもらいたかったからです。企業に出向いて就業体験するなど、誰かと出会ったり、体験したりすることが、その人の未来を変えていきます。
人との出会いや体験は、大人にとっても大切なキーワードなのですね。
森崎
はい、そう思います。出会いや体験をきっかけに、本人が「この会社に入りたい」「この人みたいになりたい」とポジティブに思うようになります。LITALICOでは「心に火をつける」という表現をよく使うのですが、私も好きな言葉です。
そうした中で、ミダス財団に参画したきっかけはなんでしょうか。
森崎
次のキャリアを模索する中で、ミダス財団が掲げる「世界中の人々が、人生の選択を自ら決定できる社会を目指す」というビジョンに共感しました。自ら取り組む、挑戦し続けるという行動指針も、これまで取り組んできたことと共通していました。
ミダス財団では「子どもの体験コンソーシアム」の事務局を担当しています。
森崎
「子どもの体験コンソーシアム」は、2025年度から始まった新規事業です。全ての子どもたちが多様な体験を享受できる社会の実現を目指し、子ども支援や体験活動を提供するNPO法人、研究者など、子どもの体験に関わるさまざまなステークホルダーが集まる場を提供しています。ミダス財団に参画し、初の大きな仕事が2026年6月の勉強会の企画・運営でした。
エビデンスと実践をつなぐ勉強会
森崎
2026年3月に開催した1回目の勉強会は、子どもの「体験保障」について、研究と実践の場から考えました。2回目となる今回は、参加しているNPO法人など団体の方が、日々の活動や企画のなかで役立つような内容にしたいと思いました。
そこで、テーマに体験の要素や、体験を形づくるものは何かということを据えました。体験というとキャンプや読書、家のお手伝いといった“コンテンツ”が注目されがちです。ですが、まず体験を形づくるもの、子どもの変化を支える要因を考えていこうと。このような勉強会はあまりないように思います。
企画の段階から、今回の勉強会で講義をしていただいた、神戸親和大学教育学部准教授の樋口拓さん、放課後NPOアフタースクール代表理事の平岩国泰さんに相談に乗って頂きました。
森崎
子どもの体験に関わる会員団体・個人から約60人の方に参加していただきました。樋口さんの講義と、平岩さんの実践紹介を通じて、子どもに変化が生まれる条件を考えました。
当日浮かび上がったのは、体験の量や非日常性だけでは測れない、子どもの変化を支える条件です。興味を引き出すこと、安心して選べる場をつくること、そして体験を振り返り、次の行動へつなげることの重要性が、エビデンスと実践の双方から示されました。
提供:ミダス財団
樋口さんは、兵庫県での自然体験プログラムの実践研究をもとに、子どもの心理的変容がどう生まれるのかを紹介しました。また、変化がどのような順序で生まれたのかも読み解き、「興味の喚起」を起点に、愛着や目標意図、認知、行動意図へと連なっていく変容のプロセスを説明しました。
平岩さんは、現場での経験を基に、子どもの変化を生む環境や、関わりのあり方を紹介しました。家庭事情などで、友達とうまく関われなかった子が、スタッフが寄り添って話を聴き続けることで、自分の気持ちを話せるようになり、イベントの係に立候補するまでになった話は印象的でした。
提供:ミダス財団
この変化は、特別なプログラムによって生まれたものではありません。安心して自分の気持ちを話せる大人がいること。自分の意思を表してもよいと思える関係性があること。そうした土台があって初めて、子どもは新しい体験に向かうことができます。
後半のグループディスカッションでは、単発イベントのなかで連続性をどうつくるか、日常の体験の豊かさをどう伝えるかといった論点が共有されました。
団体同士をつなぎ、新たな価値を生み出したい
参加者からは、次のステップにつなぐ工夫、家庭に持ち帰れる活動の設計、子ども同士の会話から学びを読み取る方法など、現場に根差した意見もありました。勉強会から何を感じましたか。
森崎
私自身、エビデンスと実践をつなぐ今回の勉強会は、すべての子どもにより良い体験の機会を届けるための視点を改めて考える場になりました。参加していただいた方へのアンケートからは、子どもの体験を形づくるものについて、理論的、実践的に往還しながら、学ぶ機会になったという声がありました。 参加した団体の皆さんが実践に繋げていけるように支援していきたいです。
今後、コンソーシアムで取り組みたいことについてお話ください。
森崎
まずは、勉強会やシンポジウム、調査研究といった事業を滞りなく推進します。会員の団体の方、そしてその先にいる子どもや若者に良い影響を創出し続けたいです。
いま、コンソーシアムにはNPOの方が多いですが、学校や自治体など子どもと関わるステークホルダーを増やしたいです。団体間の連携や協働もつくりたいですね。事務局から情報を発信するだけではなく、各団体の声に耳を傾けながら、それぞれの強みをつなぎ合わせ、新たな価値を生み出していきたいと思っています。