
過剰在庫が慢性化する脱脂粉乳に麹発酵で新たな価値を吹き込む企業がある。コンコントは素材のコクを引き立てる新原料を開発し、地域の課題解決と食のイノベーションを同時に推し進めている。
酪農危機の救世主となるか、麹発酵がもたらす乳素材の変革
国内で慢性的な過剰在庫が課題となっている脱脂粉乳。生乳の需給調整に不可欠な存在でありながら、需要の停滞から新たな活用策の模索が続いている。この社会課題に対し、技術革新によって明確な解を提示する試みが始まった。
長野市若里に拠点を移転しオープンしたコンコント菓子店を展開するコンコント株式会社である。同社は、麹の働きによって脱脂粉乳を発酵させる独自素材「KOKUMIミルクペースト」を開発した。
一見すると単なる洋菓子店の新規開店に見えるが、その背景には食品未利用資源の高付加価値化と、酪農・乳業界の構造的課題に一石を投じる確かなビジネスモデルが存在する。
発酵技術による味の増幅、他社と一線を画す素材の引き立て力

従来の麹を使用したスイーツは、甘酒や味噌のように発酵素材そのものの風味や香りを前面に出す商品が主流であった。しかし、同社の取り組みが決定的に異なるのは、麹を「味の主役」ではなく「他の素材を引き立てる黒衣」として位置づけた点にある。
開発されたミルクペーストを生地やクリームにわずかに加えることで、乳製品や卵、チョコレートといった既存素材が持つ本来の濃厚さや奥行き、余韻を劇的に高めることができる。
単なる「体に良い発酵スイーツ」という健康文脈のブランディングにとどまらず、洋菓子としての本質的な美味しさを向上させる機能性素材として機能させている点に、圧倒的な独自性がある。製造方法に関する特許出願や大学との共同研究、官能評価の実施など、科学的エビデンスの構築を進めている点も、他社の追随を許さない強みといえる。
金沢での9年を経て長野へ、素材本来の美味を追求した哲学
この画期的な素材開発の裏には、代表取締役を務める大平弘二氏の長年にわたる現場での葛藤と探求心があった。
石川県金沢市で約9年間、洋菓子店を運営する中で、大平氏は「素材そのものの味を強めながら、濃厚であっても重たくなりすぎない菓子を作りたい」という理想を抱き続けていた。試行錯誤の末に行き着いたのが、需要開拓が急務とされていた脱脂粉乳と、日本の伝統的な発酵技術の融合であった。
「この素材が乳素材の新たな可能性を広げ、将来、酪農・乳業界にとって希望となるよう、研究と販路開拓に取り組んでいきたい」
そう語る大平氏の言葉には、自店舗の経営にとどまらず、一次産業の未来を見据えた強い意志が宿る。本格的な事業展開のため金沢の店舗を閉じ、長野への移転を決断した行動力は、単なる職人気質を超えた起業家精神の表れである。
未利用資源の付加価値化とBtoB展開が示す食ビジネスの道標
コンコントの取り組みは、現代の食品ビジネスにおける重要な示唆を与えている。
第一に、社会課題の解決と商品の魅力を両立させる製品開発のあり方である。社会貢献を掲げるだけでは消費者の購買行動は持続しない。美味しさという圧倒的な顧客価値を提供した上で、その背景に環境や産業への配慮が存在するという構造こそが、持続可能なビジネスの条件となる。
第二に、自社店舗での直売(BtoC)にとどまらず、菓子店や食品メーカー向けの業務用素材(BtoB)への展開を見据えている点だ。一店舗の枠を超え、プラットフォームとして独自素材を供給するモデルを確立できれば、脱脂粉乳の消費拡大インパクトは飛躍的に高まる。
地域の課題を技術で価値に変え、全国、そして産業全体へと波及させていく。同社の挑戦は、サステナブル経営を目指すあらゆる企業にとって、極めて実践的な知見を含んでいる。



