
特許は単に技術を独占する手段ではない。ライセンス契約によりサプライチェーンをグループ化したり、一部の競合相手と手を組み他の競合からの参入障壁を作ったり、標準規格を作るツールにしたりするなど、経営戦略の要である。RYUKA国際特許事務所では、発明者とのディスカッションを通じてアイデアを引き出し、権利化の先を見据えた特許出願を支援してきた。エンジニアから弁理士へ転身し、約30年にわたり企業の知的財産に向き合う所長の龍華 明裕氏に、企業の成長につながる特許のあり方や人材育成、そしてAI時代に求められる知財の役割について話を伺った。
企業の成長戦略の一環としての、事業の可能性を広げる特許出願支援
東京都新宿区を拠点とするRYUKA国際特許事務所は、大手企業からベンチャー企業まで、エレクトロニクスから化学まで、幅広いクライアントに特許業務を提供している。
所長の龍華 明裕氏が力を入れているのは、伺った発明を書類にまとめるだけでなく、発明者とのティスカッションを通じてアイデアを引き出し、企業の成長戦略の一環として特許出願する取り組みだ。近年は、AIを活用して競合他社の出願状況や特許のバランス、市場の成長予測などを把握し、企業と同じ目線に立って知財戦略を提案するサービスにも力を入れている。
「発明者が文章として提出するアイデアは、頭の中にある構想の一部にすぎないのです。次期製品の構想や、将来の市場変化への対応など、まだ言葉になっていないアイデアが、発明者の頭の中にはたくさん眠っています。専門家がディスカッションによってそれを引き出し、発明をさらに発展させながら、強い権利として目に見える形にしていく。このディスカッションのノウハウを体系化し、関係者間で共有できるように整理したものが、私たちが『特許ビジュアライゼーション』と呼んでいるものです」(龍華氏)
もう一つ、龍華氏が重視しているのが、競合他社による迂回への備えだ。魅力的な発明であっても、出願の過程によっては、他社に形を変えて使われてしまう可能性がある。だからこそ、出願前の議論の段階から、その先を見据えた備えが欠かせない。
「開発者は、一番良い製品を目指すので、特許出願時にも一番良い方法を説明するのですが、そのまま出願すると、競合他社が別のアプローチで同じ効果を出しながら特許を逃れることがあります。それでは、単に競合に技術のヒントを与えたことにもなります。だからこそ、他社がどうやってこの特許を迂回するかを議論を通じて丁寧に想定し、先回りしてその迂回ルートも権利化しておくことを大切にしています。議論を重ねる中で、実はプロセスの一部を省いても近い効果が得られることが分かり、広くて強い発明が発見されることもあります」(龍華氏)

出願のタイミングについても、龍華氏は独自の考えを持つ。どれほど広く強い権利をイメージできても、出願が遅れてしまえば、その考えを形にすることはできない。
「他社の迂回方法や変形パターンをまとめて権利化しようとしても、それらがすでに世の中に知られてしいれば、後から出願して自分たちの権利にすることはできません。競合他社がまだその技術に気づいてない早い時期に出願を行うことが、広くて強い特許を取得するための鉄則です」(龍華氏)
実際に、インターネットが世の中にあまり知られていなかった20世紀に、あるベンチャー企業と、インターネットにおける広告提供の発明について議論を重ね、さまざまな応用や変形パターンまで含めて権利化した。その特許は後に国内外の業界内で大きな存在感を持つようになり、米国特許訴訟でも使われ、訴訟中に原告が被告を吸収合併することになったという。
弁理士を志すきっかけとなったのは、開発現場に届いた一通のレター
龍華氏は、大手メーカーで次世代デジタル通信ファクシミリの研究開発に携わったのち、弁理士となり、日本と米国の特許事務所での実務を経て、自ら特許事務所を設立した。
「私はもともと大手メーカーでファクシミリを開発していました。3年かけて開発を進め、製品化まであと2ヶ月というところまで来た時に、突然、開発の中止を余儀なくされたのです。それは米国の半導体企業から届いた一通のレターがきっかけでした。使用予定だったCPUが特許を侵害すると通知され、ハードウエアとプログラムの変更に1年かかりました。特許がこれほど大きな力を持つものだと知った衝撃的な経験でした」(龍華氏)
一方で、開発者として発明を提案する中で、龍華氏が感じたのは、特許の専門家と対話する機会の少なさだった。提案した発明がそのまま出願され、どのような権利にすべきか議論する場がなかったという。
多くの企業が多額の費用を投じ、数多くの特許を出願している。しかし、その一つひとつには十分な検討が行われていない。その気付きから、より開発者に近い立場で知的財産に向き合いたいと考えるようになったことが、龍華氏が弁理士を志すきっかけとなった。
「重要な特許を守る環境が現場に整っていないことから、社会的ニーズを感じました。弁理士として開発者とディスカッションを重ねて価値ある特許をつくる。それができれば、世の中に大きく貢献できると思いました」(龍華氏)
弁理士資格取得後は、日本の特許事務所で経験を積み、自身が在籍していた企業の案件に携わる機会も得た。さらに、特許活用が進んでいたアメリカへ渡り、現地の特許事務所にてライセンスや企業間の権利の使い方、そして訴訟の場で通用する強い特許の取得方法を学んだという。
「特許権者にとっては、反論されても揺るがない強い特許をどう取得するかが重要です。それを学ぶことが、アメリカへ渡った一番の目的でした」(龍華氏)
1998年の事務所設立から現在までのおよそ30年間にわたり、大手企業からベンチャー企業まで、またエレクトロニクスから化学分野まで、幅広い企業の知的財産を支援してきた。

クライアントの特許の活用方法も変化しているという。他社を市場から排除するための手段としてだけでなく、ライセンスによって収益を得たり、複数の企業がそれぞれの特許を組み合わせ、業界の規格を形成したりと、その用途は広がっている。
例えば、海外の競合企業に対抗するため、国内の複数企業が特許をクロスライセンスして企業間の共通規格を構築するケースもある。すると規格に沿った製品をつくるためには複数社の特許が必要になる。承認団体を通じて規格への適合を示し、規格名のブランディングを図ると、新規参入の壁が高まる。このような戦略的な活用法は様々な業界に広がっており、今後さらに高度化していくとみられる。
特許を取り巻く環境や企業ニーズの変化を捉えながら、RYUKA国際特許事務所もまた、特許出願に関する業務プロセスを変化させてきた。
信頼関係を土台に、自ら考えられる人を育てたい
――龍華様がお客様に伴走される中で最もやりがいを感じる瞬間を教えてください。
龍華:発明者が変革していく姿を見るのが一番嬉しいです。ディスカッションを通じて成長をするのには、4〜6年という長い時間がかかるのです。お付き合いを重ねていくうちに、彼らが自ら「この方法だと他社に特許を迂回されてしまうから、変形パターンも押さえておこう」と、アイデアを出すようになる。その手応えは何にも代えがたいものです。
ただ、そこに至るまでには、まずお客様との間に信頼関係が築かれていく段階があります。「次に何か発明したら、またRYUKAとディスカッションしたい」と思っていただき、発明が生まれた段階で真っ先にコンタクトをいただけるようになる。お客様からそう思っていただけた瞬間も嬉しく感じます。

――所員の方々のマネジメントにおいても、自主性を重視されているのですか?
龍華:時代とともに、キャリアへの価値観も変化しています。そのため、現在の事務所では役割を2つの方向に分けています。一つは、キャリアアップへの志向が強く、努力を惜しまない層。もう一つは、その人達を支えるサポート層です。それぞれの希望や適性に合わせたキャリアを築いてもらう。そのようなお互いの価値観を尊重する仕組みこそが、組織の安定につながっています。
所員一人ひとりが目指す姿に合わせて仕事や役割を考えるというスタンスの原点は、大学時代に経営した学習塾かもしれません。当時も、生徒たちが自分で考えながら成長していく姿を見ることに、大きな喜びを感じました。今もそれは変わりません。キャリアアップだけが正解ではなく、それぞれが自分の目指した姿に向かって進んでいく。一人ひとりの成長を見られることは嬉しいことです。
AI時代に求められる、企業の未来を支える知財のあり方とは
――今やAIが台頭し、多くのビジネスプロセスが自動化されつつあります。知財の世界におけるAIの影響をお聞かせください。
龍華:AIの登場によって、殆どの情報ギャップが消滅しました。従来、企業の知財部しか把握していなかったライバル企業の出願状況、特許ポートフォリオの構成バランス、市場の成長予測といったデータを、特許事務所も把握できるようになったのです。
これにより特許事務所は、より高度なサービスを提供し得るようになりました。大きな変革です。企業の知財部の方から「AI時代にどう生き残るべきか」という相談を受けることもありますが、情報を右から左へ流す、あるいはリサーチをして伝えるという中間的な役割はAIに代替されるでしょう。
――では、これからの知財部には何が求められるのでしょうか。
龍華:「その企業専門のコンサルタント」へと役割を変革できます。
いくらAIが進化しても、「知財部の将来の役割をビジュアライズし、周囲の人を巻き込んで現実化することは、AIにはできません。」社内の状況を最もよく知る知財部だからこそできる、実現可能なビジョンを作り、関係者と話し、信頼を築き、そしてビジョンを実現する、コンサルテーションに特化するチャンスが提供されていると思います。
私たちは、そのような知財部の方々が社内コンサルタントとして活躍できるよう、パートナーとして並走し、戦略的な知財アドバイスを提供していきたいと考えています。

――最後に、事業を通じて社会に届けたいメッセージをお願いします。
龍華:特許を活かすためには、出願前から、特許の活かし方をイメージできる必要があります。具体的なイメージがあって初めて、出願の対象や出願国が定まり、現実をイメージに近づけていくことができます。すると特許出願を、将来のイメージを達成するための投資活動と位置づけることができ、将来イメージから、特許予算を逆算することができます。そのような知財活動を広げていくことを、私たちは目指しています。
◎企業情報
会社名:RYUKA国際特許事務所
所在地:東京都新宿区西新宿1-6-1 新宿エルタワー22階
設立:1998年
代表:龍華 明裕
URL:https://www.ryuka.com/jp/
◎インタビュイー
RYUKA国際特許事務所
所長 弁理士・米国弁護士
龍華 明裕
東北大学 工学部 卒業後、東京大学 工学系修士 修了。キヤノン株式会社にてG4ファクシミリ(デジタル通信FAX)を開発し、ISDN通信回路、アナログ回路、画像処理、スキャナコントローラ、プリンタコントローラなどに携わる。国内特許事務所に勤務後、米国の法律事務所Cushman Darby & Cushman (現Pillsbury Winthrop)に3年間勤務し、米国パテントキャリアアドバイザー(Limited Recognition)として米国出願を扱う。1998年にRYUKA国際特許事務所を立ち上げる。



