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『3ミリの恋』は、なぜ唐津と釜山を舞台にしたのか。17歳の初恋に織り込まれた日韓の歴史

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映画「3ミリの恋」の場面写真(©2026「3ミリの恋」製作委員会)
映画「3ミリの恋」の場面写真(©2026「3ミリの恋」製作委員会)

佐賀県唐津市と韓国・釜山。海を挟んで向かい合う二つの街は、教科書の地図に定規を当てると、わずか3ミリしか離れていない。

11月6日公開の日韓合作映画『3ミリの恋』のタイトルは、主人公の高校生が実際に測ったこの距離に由来する。

地図ではたった3ミリ。しかし二つの街の間には国境があり、言葉や文化が異なり、そして日本と韓国が歩んできた長い歴史が関係している。

本作は、唐津で暮らす17歳の少年と、釜山からやって来た少女の初恋を描いた青春映画だ。二人のぎこちない交流が微笑ましい一方で、物語は次第に、日本と韓国の間にある歴史にも目を向けていく。

監督・脚本は、在日韓国人3世の全辰隆(チョン・ジニュン)。これまで日韓の歴史や文化を背景にした短編を手がけてきた全監督にとって、本作が初の長編商業映画となる。

なぜ唐津と釜山を舞台に選び、17歳の恋を通して日韓の関係を描こうとしたのだろうか。

 

言葉が違うからこそ生まれる交流

映画『3ミリの恋』の場面写真
映画「3ミリの恋」の場面写真(©2026「3ミリの恋」製作委員会)

主人公のタツヒコ(黒川想矢)は、唐津に暮らす高校生。釣りが好きで、卒業後は父の跡を継いで漁師になるつもりでいる。

そんな彼の日常を変えるのが、釜山から来た留学生ユンスル(キム・ジアン)との出会いだ。港でタツヒコが彼女の落とし物を拾ったことをきっかけに二人は知り合い、やがてユンスルは同じ高校に転入して、友人たちとも打ち解けていく。海で遊び、夏祭りに出かけ、仲間と過ごす時間の中で、二人の距離は少しずつ縮まっていく。

黒川とキム・ジアンは、互いに惹かれ合いながらもどこかぎこちない関係を、自然に演じている。

特に印象的なのは、言葉の違いが、必ずしも二人を隔てるものとして描かれていないことだ。母語が異なるからこそ、知らない言葉を教え合い、相手が伝えようとしていることを懸命に汲み取ろうとする。言葉がすべて通じなくても、ふとした表情や仕草から気持ちが伝わっていく様子が上手く描かれている。むしろ言葉の違いが、相手に関心を持ち、会話を重ねるきっかけになっている。

黒川は撮影前、韓国語は簡単な挨拶程度しか知らず、共演に不安もあったという。しかし実際に芝居をする中で、言葉が違っても目や仕草で感情を伝え合えることを実感したと振り返っている。撮影現場で俳優たちが経験した言葉の壁と、劇中の二人の交流。その重なりも本作の魅力だろう。

 

なぜ唐津と釜山だったのか

映画『3ミリの恋』の場面写真
映画「3ミリの恋」の場面写真(©2026「3ミリの恋」製作委員会)

本作が生まれるきっかけは、2022年、全監督が映画祭で唐津を訪れたことだった。

監督は秋田県に生まれ、高校卒業後に韓国へ渡って言葉や文化を学んだのち、映画の道に進んだ。母方の祖母が暮らしていた釜山は、自身にとってもゆかりの深い土地だ。

唐津で歴史や文化に触れるうちに、朝鮮半島との近さを肌で感じたという。それまで暮らした秋田では意識することのなかった、地理的にも文化的にも近い距離感が、唐津と釜山を舞台にした物語の構想へとつながった。

実際、唐津から釜山までは、東京へ向かうよりも近い。それでも海の向こうは、言葉も文化も異なる外国だ。その近さと遠さの両方が、『3ミリの恋』というタイトルには込められている。

では、なぜ主人公は大学生でも大人でもなく、17歳の高校生なのか。

理由の一つは、行こうと思えば韓国へ行ける年齢でありながら、心理的にはまだ遠く感じる世代だからだという。さらに、今の高校生は、日本が朝鮮半島を植民地として統治した時代について、当時を知る人から直接話を聞く機会が少なくなっていることも挙げている。

過去の歴史を、自分とは無関係な出来事ではなく、今の自分につながるものとして受け止めてほしいという願いが込められている。

恋をきっかけに、自分の世界から一歩踏み出す

映画『3ミリの恋』の場面写真
映画「3ミリの恋」の場面写真(©2026「3ミリの恋」製作委員会)

本作は、一人の少年が住み慣れた町の外へ初めて目を向ける、成長の物語でもある。

唐津で生まれ育ったタツヒコは、卒業後も地元で暮らしていくことを漠然と思い描いている。そんな彼にとって、ユンスルとの出会いは、当たり前だった日常を揺さぶる出来事となる。

韓国は地理的には近いが、17歳の高校生が一人で海を渡るとなれば、心理的な距離はずっと大きく感じられるはずだ。言葉もわからず、文化も違う見知らぬ土地へ自分の意思で向かうには、相当な勇気が必要になる。

誰かをもっと知りたいという気持ちが、それまでの自分では考えもしなかった行動へとつながっていく。大人から見れば小さな挑戦でも、17歳の少年にとっては、世界が大きく広がる一歩なのだ

 

日本と韓国、二つの国で変えた撮影方法

映画『3ミリの恋』の場面写真
映画「3ミリの恋」の場面写真(©2026「3ミリの恋」製作委員会)

撮影現場にも、日韓の俳優とスタッフが集まった。タツヒコを演じる黒川想矢は、『怪物』『国宝』などで注目を集めてきた若手俳優。ユンスル役のキム・ジアンは、韓国映画『破墓/パミョ』などに出演している。パク・ジファン、チャン・ヘジンら韓国の俳優陣も加わり、撮影・照明・録音にも韓国人スタッフが参加した。

興味深いのは、監督が二つの国で撮影方法を変えていることだ。唐津では手持ちカメラを中心に自然な空気感を重視し、釜山ではクレーンなどの機材も使って異なる映像表現に挑んでいる。

唐津はタツヒコにとって、生まれ育った日常の場所。一方の釜山は、言葉も文化も異なる未知の場所だ。撮り方の違いは、主人公が感じる距離や戸惑いを、映像そのもので伝える役割を果たしているように感じられる。

知らないことで、誰かを傷つけてしまうこともある

映画『3ミリの恋』の場面写真
映画「3ミリの恋」の場面写真(©2026「3ミリの恋」製作委員会)

一方で、本作は異文化交流の楽しさだけを描いた作品ではない。

ユンスルが唐津を訪れた理由には、一枚の古い写真と、家族の歴史が関係していた。事情を知らないタツヒコは、何気なく口にした言葉で彼女を傷つけてしまう。

タツヒコは、ただ思ったことを口にしただけだった。けれど、その一言はユンスルの心に深く刺さってしまう。言葉の重みは、発した側の意図だけで決まるものではなく、受け取る側の経験や価値観によっても変わる。

私自身、中学の修学旅行で韓国を訪れ、現地の学生と交流した経験がある。教科書で学んだ歴史も、その土地を訪れ、そこに暮らす人と接すると、受け止め方が変わることを実感した。大学時代にアメリカへ留学した際には、日本の歴史や文化について尋ねられ、普段は意識しない自国のことを初めて考えさせられた。異文化との出会いは、相手を理解するだけでなく、自分自身を見つめ直すきっかけにもなるのだと思う。

ただ私は、相手の国の歴史を十分に理解するまで交流を控えるべきだとは思わない。タツヒコも、最初から韓国の歴史に関心があったわけではない。ただユンスルという一人の少女に惹かれ、彼女のことをもっと知りたいと思った気持ちが、彼を知らなかった世界へと向かわせていくのだと思う。

タツヒコにとって、韓国を知るきっかけは教科書ではなく、ユンスルという一人の少女だった。異文化への関心は、案外そんな身近なところから生まれるものなのかもしれない。

『3ミリの恋』は、二人の高校生の初恋を通して、異なる文化を持つ人々が出会い、互いを知ろうとすることの意味を問いかけている。

映画『3ミリの恋』ポスター
映画「3ミリの恋」のポスター(©2026「3ミリの恋」製作委員会)

作品情報

映画『3ミリの恋』
2026年11月6日(金)公開
監督・脚本:全辰隆(チョン・ジニュン)
出演:黒川想矢、キム・ジアン、荒木飛羽、早瀬憩ほか
配給:東映、東映ビデオ
©2026「3ミリの恋」製作委員会

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ライター:

東京都出身。フリーライター。6歳の頃から名刺交換をする環境に育ち、人と対話を通して世界を知る喜びを学んだ。人の歩んできた人生を通して、その人を形づくる背景や思想を探ることをライフワークとしている。

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