
同時期、福岡からカンボジアへ渡った20代から30代の男性約10人が行方不明になっている。
甘い条件で出国した人と偽られて連れて行かれた人が混在し、トクリュウと中国系組織の分業が指摘されている。
タイ軍が公開した国境拠点、「ノルマ未達は臓器」の疑い
タイ軍は2026年9月7日、タイ東北部スリン県チョンジョム地域の施設を報道陣とASEAN停戦監視団に公開した。
カンボジア北部ウッドーミアンチェイ州と接する国境地帯にあり、2025年12月の両軍衝突の際にタイ軍が制圧した。
広さは約81万平方メートルで東京ドーム17個分に相当する。
建物は150棟以上あり、元々はホテルリゾートとして建設されたが、新型コロナウイルス感染拡大期に転用されたとみられる。
タイ軍によると、約1万5000人が特殊詐欺に従事していた。
中国や東南アジア、南アジアなど十数カ国から集められた人々だ。日本人の痕跡も確認された。
押収した書類には「目標額を達成できない場合、構成員を他の方法で利用できる」との一文があり、案内した兵士は臓器売買という文言もあったと明かした。
医院と漢字で看板が掲げられた3階建ての建物には手術器具や手術台が備え付けられており、臓器摘出に使われた可能性があるとタイ軍は説明する。
窓のない独房や監視カメラの痕跡があり、厳重な管理下にあった。
カンボジア軍との戦闘中に捕らえたベトナム人や中国人は全身傷だらけで、指を切断された状態だったとの説明もある。
性感染症の検査や人工中絶手術の痕跡も見つかり、構成員向けの別の搾取も行われていた疑いが指摘されている。
朝日新聞などは拷問や臓器売買といった人権侵害が横行していた可能性を報じた。
独立した第三者による検証はまだ十分ではなく、タイ軍の主張に基づく疑いの段階だ。
福岡から消えた約10人、「旅行」の行き先はカンボジアだった
福岡県警は2024年以降、県内の20代から30代の男性約10人がカンボジア渡航後に行方不明になっていると把握している。学生や無職が中心だ。
20代の息子が2025年12月、母親に「友人と旅行に行ってくる」と告げ、軽装で自宅を出た。
行き先は東アジアの近隣国で2泊3日の予定で、帰国後の予定も入っていた。
出国後、位置情報は予定の国を経てカンボジアを示した。
母親は福岡県警に相談し、「特殊詐欺の犯罪グループに巻き込まれた可能性がある」と説明された。
同行した友人もSNSで知り合った人物から「会社の経費で旅行代を負担する」と誘われており、同じく行方不明だ。
県警には同種の相談が複数寄せられている。
直近約2年間でカンボジアで行方が分からなくなった県内男性は約10人で、うち「テレアポの仕事。月30万円」と誘われて渡航し1年以上帰国していない学生2人も含まれる。
スマホの位置情報が当局の把握する特殊詐欺拠点で確認されたケースもある。
警察庁は2026年6月、カンボジアを訪問した組織犯罪対策部長が現地警察と協議し、「知りうる範囲では数十人単位の行方不明者がいて、その方がカンボジアにいるのではないか」と述べた。
詐欺に関与している人、無理やりさせられている人、無関係の可能性がある人が含まれるとみている。
家族会のアカウントは、あるケースで8ヶ月後に本人から連絡があり、友人も一緒でとりあえず無事だったが居場所や会社名を言えず帰国も難しい状況だったと明らかにしている。
甘い条件に乗ったのか、最初から騙されていたのか
出国のきっかけはSNSで知り合った相手からの誘いが目立つ。
月30万円の電話勧誘バイト、無料の海外旅行、会社経費での渡航といった条件だ。自ら志願した人もいる。
一方で、2泊3日の旅行と家族に説明し、現地に着いてから初めて仕事内容を知らされた例が複数報告されている。
TBSが入手した証言では、ある拠点の30人のうち約20人が騙されて連れてこられ、自ら志願したのは10人だったという。
26歳の女性や夫婦で騙されて連れて来られた人もいた。
福岡の大学生の友人は、出国前に「SNSで知り合った人物から会社の経費で旅行代を出すと言われた」と周囲に話していた。
軽装で出国し、予定を大幅に超えて連絡が途絶えるパターンが共通する。
最初の判断で甘い条件に乗った責任は本人にある。
ただし到着後にパスポートを没収され、自由に外出できなくなる点が、単なる自己責任論では片付けられない理由だ。
家族は「とにかく心配。無事に早く帰ってきてほしい」と繰り返し訴えている。
現地ではパスポートを取られ、簡単には帰れない
拠点の環境について、帰国した人や家族の話が複数ある。
コンクリート造りのビルで窓のカーテンを常に閉じ、監視カメラと鉄格子、門番がいた。
許可がなければ外に出られない。ある男性は約1ヶ月で身内に不幸があったとうそをついて帰国し、警察に保護された。
別の証言では、脱走を試みた人が中国人約30人に確保され、素手や棒で暴行を受け意識を失いかけたという。
8ヶ月後に連絡が取れた福岡のケースでは、本人は元気そうだったが、居場所や会社名を言えず、なんらかの組織の影響下にあることがうかがえた。
母親とのビデオ通話中に中国人らしき男たちが脅しをかける様子が映り、拠点にいることが判明した例もある。
警察庁は現地警察との情報共有を進め、タイに連絡要員を配置して共同捜査を支援する方針だ。
カンボジア当局の摘発で拠点が移動しているとの指摘もあり、救出は簡単ではない。
トクリュウと中国系組織が分業する国際的な構図
日本国内で高額バイトやカンボジア行きを勧誘するリクルーターは、匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)に該当するケースが多い。
職業安定法違反などで逮捕される例が相次いでいる。
「月に100万円稼げる」「仕事で行くのはカンボジア」と知人を勧誘した24歳の男が逮捕された事件もある。
現地でかけ子をしていた日本人29人が拘束されたポイペトの拠点では、指示役が中国人夫婦ら8人ほどだったと愛知県警は説明する。
夫婦はかけ子にノルマを課し、日本語通訳や日本人の案内もしていた。
警視庁の捜査関係者は「海外拠点の案件では、中国マフィアとトクリュウが結託して、日本人の闇バイトを集めているとみられる」と述べる。
拠点には入れ墨の入った日本人の中年男性が数人いて、「ここは逃げようと思わなければ他の組織より安全だ」と凄む場面もあったという。
上位者と思われる中国人が音声翻訳アプリで威圧的に接してきたとの証言もある。
日本側が人材の募集と管理を担い、現地の中国系組織が施設の運営と全体の指揮を担う分業だ。
カンボジア当局の摘発が続く中、組織は国境地帯を移動しながら活動を続けている。



