
スーパーに並ぶ魚と、漁師が浜で受け取る値段には、大きな開きがある。この価格差を生かし、港での直売という新しい流通をつくろうとする試みが動き出す。
株式会社潮風ホールディングスは、漁業者が自ら価格を決めて魚を出品し、消費者がアプリで予約・決済して港で受け取る直売サービス「海のマーケット」を公開した。宮崎県串間市で、今夏、実証テストを行った。
17年で4割減った漁業就業者
背景にあるのは、漁業の担い手の減少だ。日本の漁業就業者は、2003年から2020年までの17年間で43%減少している。漁師が減ることは、沿岸の魚がとれなくなるだけでなく、港町そのものの衰退につながる。
海のマーケットは、漁師から手渡しで魚を買える直売システムで、漁業者の所得向上と、内外からの港への来訪を図る。7月24日には宮崎県串間市内で地元漁業者を対象とした説明会を開かれ、串間市役所、地元漁協、漁業者と連携して実証テストに臨んだ。
アプリで予約、港で受け取る
仕組みはシンプルだ。漁業者は魚の種類、数量、価格、受け渡し場所、受け渡し時間などをアプリに登録する。消費者は出品された魚を選び、アプリから予約・決済を行い、指定された時間に港で受け取る。
発送や梱包を行わず、港で直接手渡すことで、物流にかかる費用と時間を抑える。漁業者は自ら価格を設定でき、消費者はとれたての鮮度の高い魚を漁業者から直接購入できる。ネット通販のように送るのではなく、あくまで港での受け取りにこだわる点が特徴だ。
水揚げの2割の直売で所得49%増
同社の試算では、個人経営の漁船漁業者が水揚げの20%を浜値(市場卸価格)の2倍で直接販売した場合、年間所得は226.7万円から337.9万円となり、49%向上する。直売する魚を水揚げの一部に設定することで、市場への出荷と並行して利用できる。
浜値と市価には約4倍の価格差があるとされる。漁業者が浜値の2倍で売っても、消費者は市価の約半額で買える計算だ。売り手と買い手の双方に利のある関係を、この価格差を生かして築こうとしている。決済では、購入者が商品代金に5%のシステム利用料を加えて支払い、売上の80%が漁業者へ、4%が連携する漁協へ支払われる。漁協にも地域での販売に応じた収入が生まれる仕組みだ。
「未利用魚」の活用にも道
この仕組みは、これまで市場に乗らなかった魚の活用にも道を開く。通常、魚の流通では安定供給や見た目、馴染み深さが重視される。その一方で、ヒラソウダのように、とれたてを食べれば最高でも身質の変化が早いことから市場では買ってもらえず、大量に処分されている魚がある。
海のマーケットは、港町でしか知られず、おいしくても流通に乗らなかった「未利用魚」を扱える。消費者には発見の楽しみが、漁業者には新たな収益の柱が生まれる。規格から外れることが、むしろ魅力になり得るという発想だ。
全国展開へクラウドファンディング
串間市での実証では、実際の漁に合わせた予約、出品、決済、港での受け渡しを検証し、全国の漁港で利用できるアプリへ改善する。その結果をもとに、宮崎県内をはじめ、全国の自治体、漁協、漁業者との連携を進める方針だ。
アプリの改良や実証テスト、全国展開の基盤づくりに充てる資金は、クラウドファンディングサイトのREADYFORで募った。「新しい流通の形で、日本の漁村を守りたい」と題したプロジェクトで、漁業者と消費者を港で直接つなぐ試みが、衰退する漁村の一つの手がかりになるかが注目される。



