
会計不正は認定されなかった。だが、上場は終わった。京都市に本社を置くレボインターナショナルは7月23日、東京証券取引所のTOKYO PRO Marketから上場廃止となった。2023年10月31日の上場から、わずか2年9カ月だった。
その前日に公表された特別調査委員会の結論は、上場廃止という結果から想像されるものとは少し違っていた。期末直前に計上した2件の特許ライセンス売上について、取引は実在し、会計処理も基準に沿っており、「明らかに会計不正と認定されるような事実・事象は把握されなかった」としたのである。それでも決算は遅れ、監査法人との契約は終了し、会社は自ら市場を去った。
何が問題だったのか。報告書から浮かび上がるのは、架空取引や粉飾決算という単純な事件ではない。急成長が期待されるSAF事業に賭ける企業が、資金繰りの瀬戸際で期末直前の特許売上を計上し、その説明と統制が追いつかなかったという構図である。
廃食用油を集め、トラックと飛行機の燃料につなぐ会社
レボインターナショナルとは、どのような会社なのか。一言でいえば、街の飲食店などから使用済みの天ぷら油を集め、トラック向けのバイオディーゼル燃料や、航空機向けの持続可能な航空燃料「SAF」につなげる資源循環企業である。
活動を始めたのは1995年。1999年に会社を設立し、2001年には廃食用油からつくるバイオディーゼル燃料「C-FUEL」の供給を開始した。京都市のごみ収集車や市バスへの燃料供給にも関わり、現在は全国約4万3000店から廃食用油を回収している。バイオ燃料の製造だけでなく、製造プラントの設計・販売、SAFなど次世代燃料の研究開発も手掛ける。2026年3月末の従業員数は102人だった。
SAFは、廃食用油や植物油、木質バイオマスなどを原料にする航空燃料だ。航空機の電動化や水素化には時間がかかるため、既存の航空機や燃料供給設備を活用できるSAFは、航空業界の脱炭素を進めるうえで有力な選択肢とされている。国土交通省によると、従来のジェット燃料と比べて約60~80%の二酸化炭素排出削減効果が見込まれる。
レボはSAFを単独で製造するだけの会社ではない。むしろ強みは、その手前にある廃食用油の回収網と、長年蓄積したバイオ燃料技術にある。
コスモ石油、日揮ホールディングスと共同で設立したSAFFAIRE SKY ENERGYは、コスモ石油堺製油所内で国産廃食用油を原料とするSAFを年間約3万キロリットル生産する。レボの出資比率は4%だが、国際認証を取得したサプライチェーンのなかで、原料となる廃食用油の調達を担っている。2025年4月からは国内航空会社などへの供給が始まった。つまり、同社のSAF事業は将来構想だけではなく、すでに実際の供給網に組み込まれている。
売上11億円でも赤字、純資産は900万円まで低下
そのレボが、なぜ期末直前の特許売上に頼ることになったのか。特別調査委員会の報告書によると、2026年3月期中間期の売上高は11億4700万円と前年同期比64.9%増えた。一方、愛知工場の稼働に伴う減価償却費や広告宣伝費などが先行し、営業損失は1億4800万円、中間純損失は2億800万円となった。
2025年9月末の純資産はわずか900万円。自己資本比率は0.2%まで低下していた。さらに、円安に加え、廃食用油の仕入れ価格が2025年12月から大きく上昇した。大幅な当期損失が発生すれば、極度額23億7000万円の融資契約に付された財務制限条項に抵触する可能性もあり、会社は「継続企業の前提に関する重要な不確実性」を開示していた。
そこへ登場したのが、特許ライセンスの販売だった。レボは2026年3月30日、炭化水素液体燃料の製造方法に関する特許について、異なる地域で製品を製造・販売できる独占的通常実施権を2社に許諾した。契約金は、製品の販売数量に応じて将来受け取るロイヤルティーではない。あらかじめ決められた固定の一時金だった。契約が解除されたり、特許が失効したりしても返還しない条件で、2社からの入金は3月30日と31日に全額確認された。
レボは、その全額を2026年3月期の売上高として一括計上した。調査報告書は、この売上によって財務制限条項への抵触を回避したと明記している。
株主と関係するX社、設立間もないY社
監査側が慎重になった理由は、契約の時期だけではない。一方の契約相手であるX社は、レボ株式を保有していた。X社の代表者は、別のレボ株主企業の代表取締役も兼ねており、レボとの間には廃食用油に関する取引や事業所の賃貸借、車両の無償貸与など複数の関係があった。
もう一方のY社は設立から日が浅く、契約締結時点では、特許を利用して行う事業が定款上の事業目的に含まれていなかった。Y社は契約後、定款を変更して関連事業を追加した。
期末前日の重要取引、赤字を補う一時金、既存株主との関係、設立後間もない会社。外形だけを見れば、監査法人が取引の実在性や相手方の支払い能力、契約の目的を詳しく調べるのは自然だった。
しかも、公開版の報告書では、契約金額、売上高に占める比率、対象地域、契約期間など、取引の重要部分が黒塗りになっている。読者は取引の仕組みを理解できても、その価格水準を外部から検証することはできない。
特別調査委員会が「会計不正なし」とした理由
それでも特別調査委員会は、2件の契約を架空取引や粉飾とは認定しなかった。理由の一つは、特許ライセンス事業が決算直前に突然つくられた計画ではなかったことだ。
レボは2021年に策定した中期計画で、特許の技術供与による収入を計画していた。2023年の経営戦略会議でも、越川哲也CEOは技術ロイヤルティーを研究開発資金に充てる方針を説明している。2025年9月には別の企業と特許実施許諾契約を結んだ実績もあった。
2026年1月6日に監査法人へ提出した資料には、特許使用許諾権の販売について3社と協議中である旨が記載されていた。3月19日には、経理担当者が今回の特許取引の会計処理を監査法人へ相談していた。
調査委員会は、契約相手の2社がそれぞれ事業計画を作成し、ライセンス料の妥当性を検討していたことも確認した。契約書とは別の覚書や、売上を後から取り消すための口頭合意も見つからなかった。
会計処理についても、一括計上が認められると判断した。契約によってレボが負う主な義務は、特許実施権を与えることだった。契約期間中に継続して技術指導をしたり、特許の性能や価値を高めたりする義務は定められていない。
つまり、相手方が取得したのは、レボが将来にわたって技術を更新し続けるサービスではなく、契約時点で存在する特許を「使用する権利」だった。特許実施権を与えた時点でレボの履行義務は果たされるため、固定の一時金を契約時に売上として認識することは会計基準上妥当だと結論づけた。
意図的な事実の隠蔽や取引相手との共謀も確認されなかった。これが「明らかな会計不正は把握されなかった」という結論の中身である。ただし、報告書は、調査委員会が把握していない事実が後に判明した場合、異なる結論になる可能性があるとの留保も付けている。全面的な「安全宣言」ではなく、あくまで調査範囲内での判断である。
問題の芯は会計基準ではなく、監査との対話だった
では、何が足りなかったのか。特別調査委員会が最も厳しく指摘したのは、会計処理の方法ではなく、監査法人とのコミュニケーションだった。
レボは監査法人に対し、特許ライセンスの販売計画を事前に説明していた。取引発生前に会計処理の相談もしていた。それでも、契約締結前に監査責任者を交え、取引の全体像について正式に協議した形跡までは確認できなかった。
今回の取引は、期末近くに多額の売上を計上し、その結果として財務制限条項への抵触を回避するものだった。報告書は、監査法人が注視するのは「当然」であり、「予測可能」であったと指摘している。取引が成立してから説明するのではなく、契約前の段階で監査責任者を交え、論点を整理しておくべきだったということである。
社内の牽制体制にも課題が残った。取引相手との交渉は越川CEOが担い、契約や会計処理の検討は森谷敬子CFOが中心になった。外部の弁護士や公認会計士には相談していたものの、会社の執行側で取引を実質的に確認していたのは、主に社長とCFOだった。
調査委員会は、今回の取引で会計不正は特定されなかったとしながらも、同様の組織体制であれば会計不正が行われる可能性があると警告した。問題は「正しい仕訳だったか」だけではない。経営トップが主導する重要取引を、誰が独立した立場で検証するのかという、上場会社としての基本的な問いだった。
上場廃止は不正への処分ではなく、自主申請
ここで整理しておく必要がある。レボの上場廃止は、特別調査委員会に会計不正を認定されたためでも、東京証券取引所から処分を受けたためでもない。
同社は調査結果が出る2カ月以上前の5月15日、上場廃止を申請する方針を公表していた。特別調査委員会の設置を発表したのと同じ日である。会社側は、上場維持に伴う監査対応、内部管理体制の維持、情報開示などにかかる費用と人的負担を軽くし、限られた経営資源をSAF関連技術の国際認証取得や海外ライセンス、事業提携に集中させるためだと説明した。「事業縮小や撤退を目的とするものではない」とも強調している。
6月24日の株主総会で上場廃止申請が承認され、会社は同日、東京証券取引所に申請した。東証が公表した上場廃止理由も、会社からの「申請による上場廃止」である。
したがって、「会計不正がなかったのになぜ上場廃止なのか」という疑問への答えは、二つが直接の因果関係にないということになる。
ただ、まったく無関係とも言い切れない。期末取引を巡って監査が長引き、発行者情報の提出が遅れ、後任監査法人の選定も必要になった。会社が上場維持に伴うコストと負担を重く感じる背景には、今回の一連の混乱もあったとみるのが自然だ。
「会計不正なし」でも、取引の経済合理性までは証明していない
この報告書を読んだ人が最も知りたいのは、「結局、この特許には本当にそれだけの価値があったのか」という点だろう。調査報告書が確認したのは、契約が実在し、契約金が支払われ、会計基準上も一括計上できるということだった。
一方、公開版では契約金額や売上高に占める比率、対象地域、契約期間が明らかにされていない。契約相手が作成した事業計画や、将来どれほどの製品を製造・販売できると想定しているのかも分からない。
つまり、会計処理の適否は確認できても、外部の投資家が特許の価格を独自に評価するための材料は十分ではない。
もう一つ重要なのは、今回の2件が販売数量に応じて継続的に入るロイヤルティーではなく、固定の一時金だったことである。
一時金を期末に計上すれば、その期の損益は改善する。だが、翌期に同じ収入が続くとは限らない。ライセンス先が実際に工場を建て、燃料を製造し、商業的に販売できるかどうかは別の問題だ。特許ライセンスを事業の柱にするなら、今後問われるのは、同様の契約を継続的に獲得できるのか、販売量に連動する収入へ発展させられるのか、ライセンス先で事業化が進むのかという再現性である。
調査報告書が証明したのは、2026年3月30日に締結した契約を2026年3月期の売上にできるという過去の会計判断だ。特許事業が持続的な収益源になるという未来まで保証したわけではない。
SAF市場には強い追い風、世界供給はまだ0.8%
もっとも、レボが事業の軸に据えるSAF市場に追い風が吹いていることは間違いない。日本政府は、2030年に国内航空会社が使う航空燃料の10%をSAFへ置き換える目標を掲げている。数量にすれば年間約171万キロリットルに相当する。
制度化も動き始めた。国土交通省と経済産業省は7月23日、SAF導入促進に向けた官民協議会を開いた。航空新聞社によると、資源エネルギー庁はジェット燃料の供給事業者に対し、2030年度からSAFの供給を義務づけ、当初の1%超から2034年度には5%超へ段階的に高める案を示した。まだ制度案の段階だが、SAF需要が企業の自主的な環境対応だけでなく、規制によって生み出される方向が鮮明になっている。
世界では、さらに大きな需給ギャップがある。
国際航空運送協会(IATA)によると、2026年の世界のSAF生産量は約240万トンにとどまり、航空燃料需要全体の0.8%にすぎない。SAFの購入によって航空会社が負担する追加コストは、2026年だけで43億ドルに達する見込みだ。需要はあるが、供給量が少なく、価格が高いという市場である。
国内初の大規模国産SAF事業であるSAFFAIRE SKY ENERGYの年間生産能力は約3万キロリットル。日本の2030年目標である171万キロリットルと比べれば、単純計算で2%にも満たない。
これは同事業の規模が小さいというより、日本全体で埋めなければならない供給不足がいかに大きいかを示している。SAFの生産技術、原料調達、国際認証を持つ企業にとって、市場の拡大余地は大きい。
レボの強みは「特許」だけでなく、油を集める回収網
そのなかで、レボの最も現実的な競争力は、特許の数だけではない。全国約4万3000店から廃食用油を回収するネットワークと、回収した油の品質を管理し、燃料原料として安定的に届ける仕組みである。
SAF工場を建てても、原料が集まらなければ動かない。廃食用油は家庭や飲食店、食品工場などに分散して発生するため、一軒ずつ回収し、異物を除き、品質を確保して運ぶ必要がある。大規模な石油会社やプラント会社とは異なる、地道な物流と現場力が求められる。
実際、東京都が2026年度から2028年度まで実施する廃食用油回収促進事業でも、レボは廃食用油の収集と市民回収のノウハウ提供を担う。同社の愛知工場は、2026年度も国際航空向けのISCC CORSIA認証と、欧州市場向けのISCC EU認証を継続取得した。上場廃止に至ったからといって、SAF関連事業まで止まったわけではない。
ただし、SAF市場の拡大はレボにとって追い風であると同時に、原料調達競争を激しくする逆風にもなる。
廃食用油を求める事業者が増えれば、仕入れ価格は上がる。調査報告書にも、2025年12月以降の廃食用油価格の高騰が利益を圧迫したと記されている。回収量を増やせば自動的に利益が増えるわけではない。回収コストや仕入れ価格を抑えながら、燃料やライセンスの販売価格へ転嫁できるかが重要になる。
資本余力が乏しいレボにとって、巨額の設備投資を自社だけで抱えず、特許を海外企業へ供与する戦略には合理性がある。だが、一時金によるライセンス売上を持続的な収益モデルへ変えられるかどうかは、まだ証明されていない。
次に見るべきは8月31日の発行者情報
レボは2026年3月期の発行者情報を8月31日に公表し、決算承認などを行う定時株主総会の継続会を9月17日に開催する予定としている。そこで確認すべきなのは、特別調査委員会が「不正なし」と判断したという結論だけではない。
特許ライセンス売上を含めた最終的な業績はどうなったのか。財務制限条項を今後も守れるのか。後任監査法人はどのような結論を示すのか。ライセンスを取得した2社は、実際に事業化へ進むのか。そして、同様の契約を翌期以降も獲得できるのか。
レボには、国産SAFという大きな市場の追い風がある。廃食用油の回収網やバイオ燃料技術も、短期間でつくれるものではない。
しかし、成長市場にいることと、利益を安定して生み出せることは同じではない。「会計不正なし」という調査結果は、会社にとって一つの区切りである。ただし、上場廃止によって市場からの日常的な監視が弱まる以上、会社自身がこれまで以上に丁寧な説明を続けなければ、特許やSAF事業への疑問は残り続ける。
3月末の一時金が正しく売上だったかという問いには、調査委員会が答えを出した。これから問われるのは、レボインターナショナルが廃食用油と特許を、何度でも生み出せる利益に変えられるかである。



