
地域や施設に眠る歴史や伝統、地元に語り継がれる物語をオリジナルストーリーにし、訪れた人自身が「主人公」として没入する参加型物語体験「エンタビ®」。プレイングは、地域住民や役者志望の人々も地元のキャストとして迎えながら、観光客と地域をつなぐ体験をつくっている。300以上の添乗経験と劇団経営で見てきた課題から生まれた、その仕組みと目指す未来を追う。
観光客が「主人公」になる、見るだけではない物語体験
観光地を訪れ、展示を見たり、街を歩いたりする。その体験を、物語の中に入り込むものへ変えるのが、プレイング株式会社の「エンタビ®」だ。地域や施設に眠る歴史や伝統、地元に語り継がれる物語をオリジナルストーリー化し、観光客自身が「主人公」として没入する参加型物語体験を提供している。
背景にあるのは、代表者・山本知史氏が28年の劇団経営で演出家として培った体験設計力と、19年の旅行業界で積んだキャリアだ。この二つを掛け合わせ、既存の「見るだけ」の観光を、物語に入り込む体験へ変える。地元の魅力を五感で体験してもらい、その土地を訪れた観光客をファン化することを目指している。
「エンタビ®」は、国営平城宮いざない館をはじめ、全国の観光施設・自治体・指定管理会社で導入されている。参加した観光客からは、「その土地を初めて自分ごととして感じられた」という声も寄せられた。歴史や文化を説明として受け取るだけでなく、自分自身が物語の主人公として参加することが、サービスの仕組みとして据えられている。
プレイングの事業には、イマーシブシアター制作やイベント企画プロデュース、コンサルティング事業のほか、イベント及び交流会・セミナー等の企画開催・運営、PR広報並びにHP.SNS運用コンサルティング、第二種旅行業(パインツーリスト)もある。その中で「エンタビ®」は、演出家としての体験設計と旅行業界での経験を掛け合わせた事業として展開されている。
300以上の添乗経験と劇団経営で見てきた、二つの課題
「エンタビ®」の出発点には、山本氏が二つの現場で目にしてきた課題がある。旅行業界では300以上の添乗経験を重ねる中で、著しい人材不足に苦しむ地方の観光施設や商店街を数多く見てきた。一方、劇団では、若手が役者を志望しても仕事にならない現実に向き合ってきたという。
そこでプレイングが考えたのが、地域住民や全国の役者志望の人々に、地元のキャストとして出演してもらう仕組みだ。地元の人が魅力あるキャラクターとして舞台に立ち、訪れる人を物語の中へ迎える。会社は、その経験が人材の「地元で暮らす理由」をつくり、演者同志の新たなコミュニティを醸造することにつながると考えている。
単に人手を確保するだけではなく、地元の人々自身が主役になれる仕組みにすること。プレイングは、それが担い手不足の解消と地元のにぎわいを同時に生み出すと確信し、2024年5月1日に会社を設立した。地元ならではの物語を使い、地元の人々と一緒に魅力ある場所へ育てていくことを、自社の原点としている。
この考え方では、地域は物語の題材になるだけではない。そこに暮らす人々がキャストとして参加し、全国の役者志望の人々も出演する。物語体験の中に、地域の人や演者がキャストとして加わる仕組みになっている。
地域の歴史も企業理念も、「物語の中に入る」体験へ
「エンタビ®」で扱うのは、観光地の歴史や伝統だけではない。企業向けには「エンカイ」として、理念をオリジナルストーリー化し、社員が没入できる物語体験を通じたチームビルディングやブランディングも提供している。
観光客にとっては、その土地の魅力を自分ごととして感じる入口をつくる。企業では、理念をオリジナルストーリーにし、社員がその物語に没入する体験を提供する。対象は異なるが、いずれも伝えたい内容をオリジナルストーリー化し、参加者がその中へ入る体験として届けている。
プレイングが読者へのメッセージで示しているのも、現場の人々と一緒につくる姿勢だ。「その土地や企業の想いをオリジナルストーリー化し、訪れる方が『主人公』になれる体験を、現場の皆さんとご一緒に創っていきたい」としている。地域や企業が持つ想いを起点にしながら、その場に関わる人々と体験をつくっていく考えだ。
子どもが歴史を追い、商店街では約300名が参加

実際の開催では、参加者や地域から具体的な反応が寄せられている。堺市立さかい利晶の杜で「エンタビ®」を実施した際、参加した家族からは「子どもが歴史の授業より真剣に物語を追いかけていた」という声があった。物語を追うという体験に、子どもが真剣に向き合っていたことを伝えるエピソードだ。
名古屋市の柳原通商店街での開催には約300名が参加し、満足度80%以上という結果になった。商店街の人々からは「普段素通りされる通りに人が立ち止まってくれた」との声が寄せられ、結果として過去最高益となった店もあったという。
兵庫県立兵庫津ミュージアムの担当者からは、「展示では出せない物語の熱を実感した、観光客と施設を繋げる他にはないソフト」という言葉も寄せられた。このケースでは、次年度以降の継続導入につながっている。
家族、商店街、観光施設。それぞれ立場は異なるが、プレイングはこうした一つひとつの声を、地域の想いを物語として届け続ける原動力としている。参加者の反応だけでなく、実施する地域や施設からの声も、事業を続ける理由として挙げている。
「観光地に行けば物語体験ができる」状態を目指して
プレイングが5年後、10年後に目指しているのは、「観光地に行けば物語体験ができる」ことが当たり前になっている状態だ。全国の観光施設・自治体・企業に導入してもらい、地域固有の歴史や文化を物語として体験できる仕組みを広げていきたいとしている。
その先に描くのは、観光を「一過性の消費」から「地域への愛着が生まれる体験」へ変えていくことだ。将来的には日本各地で「エンタビ®」を同時開催し、この国をいつまでも持続可能な豊かな観光大国「日本丸ごとテーマパーク」とすることを目指している。
プレイングは、身近な観光地にも「まだ語られていない物語がきっとあります」と呼びかける。その土地や企業の想いをオリジナルストーリーにし、訪れる人が「主人公」になれる体験を現場の人々とともにつくる。興味を持った人には「ぜひ一度エンタビ®を体感しに来てください。そして、一緒にエンタビ®を創りませんか?」と呼びかけ、最後に「さぁさ、皆様、ご一緒に!」と結んでいる。



