
三重県志摩市の渡鹿野島へ、借金を抱えた女性を「5人ほど売り飛ばしましたよ」。NEWSポストセブンが2026年8月15日に掲載した闇金元幹部の証言が、再び広がっている。
ただし、2026年に新たな告白が得られたわけではない。記事はノンフィクションライター・高木瑞穂氏が2017年に刊行した『売春島 「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』からの抜粋で、同じ証言は2020年にも文春オンラインで掲載されていた。
時を経てなおバズる「5人ほど売り飛ばした」のインパクト
NEWSポストセブンは全5回の連載として同書の内容を紹介し、8月15日公開の第2回で、巨大闇金グループの元幹部だった西条司(仮名)の証言を取り上げた。文春オンラインも2020年9月、「5人ほど売り飛ばしましたよ」を見出しに掲げ、同書から同じくだりを転載している。
公開日は6年離れているが、証言者も内容も同一で、出来事自体は1990年代後半のもの。二つの媒体が別々に裏付けた証言ではなく、一冊のルポが再度紹介されたものだ。
「ト五」の借金10万円が、女性の「売値」50万円に
高木氏の取材に対し、西条は1990年代後半、10日で5割の利息を取る「ト五」の闇金グループで幹部を務め、月2000万円の給与を得ていたと語っている。名簿業者から風俗店で働く女性の債務者・滞納者リストを買い、ダイレクトメールを送り、ほかでは借りられない人へ融資していたという。
返済が止まると、会長から紹介された女衒に女性を引き渡した。西条は自身が約5人を売り、周囲では約20人が島へ送られたと説明。10万円を貸した27歳の女性は50万円、元金50万円を返せなかった22歳の女性は90万円で女衒に買い取られたと語った。債権回収ではなく、債務者本人を換金する取引だった。
これらの人数や金額は、西条の証言として報じられたもので、捜査機関の発表や裁判記録で確認された数字ではない。「臓器売買に比べれば売春島に売られるなんて甘い方」との発言も同様だ。西条自身が臓器を「売ったことはない」と断ったうえで語った内容であり、実在が確認された取引として扱うことはできない。
渡鹿野島は家族旅行を掲げる観光地へ
渡鹿野島は的矢湾に浮かぶ有人離島で、かつて置屋が集まり、売春を目的に女性が送り込まれた場所として知られた。一方、現在の公式観光サイトはハート形の島を「恋人の聖地」と紹介し、温泉や海水浴、家族旅行、ペットとの宿泊を案内している。年間3万人以上が訪れるとし、人口は2020年12月末時点で約169人と記載している。
2021年には島の宿泊施設「風待ちの湯 福寿荘」が、渡鹿野島で初めて修学旅行生を受け入れた。今回再掲された証言は1990年代後半の人身取引に関するものであり、現在の渡鹿野島で同じ取引が続いていることを示す報道ではない。
ヤミ金融相談の87.3%が非対面 島へ運ぶ手口からネットへ
渡鹿野島のエピソードは過去のものだが、闇金は現在も消えていない。警察庁が2026年3月に公表した2025年の統計では、ヤミ金融事犯の検挙は550件だった。内訳は無登録・高金利事犯49件、口座譲渡などのヤミ金融関連事犯501件。相談は3501件に達し、20代と30代で41.6%を占めた。
相談の87.3%はインターネットを含む非対面の手口だった。警察庁は、携帯電話のショートメッセージで融資を勧誘し、約1万3000人に法定利息の約2.7倍から189倍で貸し付け、元利金約3億円を受け取った事件も紹介している。
女性を捕まえて女衒へ引き渡すという西条の証言から約30年が過ぎ、違法融資の入口は名簿と郵送のダイレクトメールから、スマートフォン上の勧誘へ移った。8月15日に広がった「5人ほど売り飛ばした」という言葉は新証言ではない。一方、2025年にも3501件の相談と550件の検挙が記録されており、闇金による債務者の搾取は過去だけの話ではない。



