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国立科学博物館が存続のためのクラウドファンディングを開始 博物館とSDGsの関係とは

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国立科学博物館 恐竜の化石
国立科学博物館 地球館の展示(撮影:安藤)

博物館や科学館といったミュージアムとSDGsの関係について、国立科学博物館のクラウドファンディングを起点に紹介する。

2023年8月7日、国立科学博物館(以下、科博)は資金不足により標本の収集・管理の維持が難しいなどとして1億円を目標額としたクラウドファンディングを開始した。コロナ禍による入館者減や、光熱費の高騰、ウクライナ戦争による物価高騰など、立て続けに立ちはだかる問題に加え、国からの支出増額も見込めないことから資金繰りが厳しいという。

異例のクラウドファンディングの背景

入館者数がコロナ禍前程度まで持ち直したその矢先、光熱費高騰やウクライナ戦争による物価高騰に見舞われた。その一方で、収入のうち約8割を占める国からの運営費交付金は微減となっているという。

特に、1年を通して温度や湿度を一定に保つ必要がある収蔵庫は節電が難しく、財政を圧迫している。今年度の光熱費は3億8000万円ほどと、令和3年度の約2倍にも及ぶ見込みだ。それにより研究を続けることや標本の収集や管理などが危機的な状況にあり、国立の博物館としては異例のクラウドファンディングに乗り出したのである。

緊急メンテナンスを要するほどに集まる注目

7日の朝から始まったクラウドファンディングだが、同日の15時には目標額の半分となる5,000万円が集まり、開始からわずか9時間半後の17時20分に1億円を達成した。開始後しばらくはクラウドファンディングを実施しているWEBサイトのREADYFORにアクセスが集中してサイトにつながりづらくなり、緊急メンテナンスを実施したほどだった。

クラウドファンディング自体は11月5日までの実施予定だが、開始当日にして目標額に到達してしまった。支援者は1万人近くにのぼり、日本中の人々の応援したい気持ちが目に見える形となった。この一件で科博は資金面だけでなく、運営する人側も大きく元気づけられることだろう。なお、寄付は引き続き募っている。

博物館や科学館の存在はどこでSDGsに寄与するのか

過去を保存し続けてきた博物館や科学館の存在自体は、一見するとSDGsと直結しないようにも見える。実のところ、彼らはどのようにSDGsに貢献できるのだろうか。

2019年に開催されたICOM(国際博物館会議)京都大会で「博物館による持続可能な未来の共創」というセッションが行われた。そこでSustainable Museums代表のサラ・サットンはミュージアム(博物館や美術館)のミッションを「慈善施設であり、公益財。地球を救い、世界を癒す」ことだとした。そして「ミュージアムはそのなかに、様々な能力、クリエイティビティ、力を持っている。これは世界がもっとも必要としている変化を起こすためのもの」だと訴えている。

また、2017年にまとめられたSDGsの達成に向けた科学館行動指針である「東京プロトコール」の中には、「科学・技術・工学・数学(STEM)は、SDGsの課題の解決に不可欠であり、地域や文化を超えて例外なく必要とされている」「SDGsが取り組もうとする課題に対して、世界中のコミュニティのあらゆる個人が行動を起こさなければならない」とある。

これらを踏まえて考えるに、博物館や科学館の存在は世界の課題を解決するための共創の一員として必要なのである。これまでの文明や技術、変化を記録し続けているミュージアムや科学館にはイノベーションのヒントが散りばめられている。また、科博だけでも年間に数百万人が訪れる。全国の博物館や科学館を含めれば相当な人が訪れているだろう。それだけの人が足を運ぶ場所とあらば、SDGsのための活動の起点の一つにもなりうるだろう。

さまざまな問題が複雑に絡み合う世界中の課題に対応するためには、私たちも手を取り合って複合的に策を打たなければならない。ミュージアムや科学館の表面的な役割にとらわれていては、そうすることは叶わないだろう。変化が求められるいま、まさに人類や文化、地球の変化が記録されてきたミュージアムだからこそその視点は欠かせない。また、世界全体での変容が求められるのと同時に、私たちの文明や価値観も問われている。その観点からも重要な役割を持っているといえるだろう。

2022年に科博で行われていた企画展「WHO ARE WE」の展示の1つによれば、博物館は「無目的・無制限・無計画」の3つの「無」の上で成り立っているという。そのうちの「無目的」を取り上げると、「標本の使い道の可能性は無限大、集めればいつか何かの役に立つはず。」とある。膨大な量を抱えるデータベースはクラウド上にいくらでもあるが、科博ほどの”時間”を抱えているデータベースは唯一無二だろう。科博以外のミュージアムや科学館も含めれば、膨大な文明、暮らし、自然、歴史、人、技術などのデータがそこにある。そこからヒントを見つけること、そして共創による価値を生み出すことが求められている。

[参考]
国立科学博物館が資金不足でクラファン開始 収蔵品の維持困難、目標1億円 – 産経ニュース
国立科学博物館 資金が危機的 1億円クラウドファンディングへ | NHK
ミュージアムは持続可能な社会にどう貢献すべきなのか? ICOMでセッション開催
博物館は持続可能性を社会にもたらすか? | ICOM日本委員会
科学館はSDGsなど国際課題で積極的役割を 世界科学館サミットで「東京プロトコール」を確認 | Science Portal
国立科学博物館のクラファン1億円達成 わずか9時間半で | 毎日新聞

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ライター:

フリーライター。昔から感想文や小論文を書くのが好きで、今なお「書くこと」はどれだけしても苦にならない。人と話すのが好きなことから、取材記事の執筆が主軸となっている。新潟県で田んぼに囲まれて育った原体験から、田舎や地方への興味があり、目標は「全国各地で書く仕事をする」こと。

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