「シュミテクト」や「カムテクト」などのオーラルケア製品、「コンタック」「ボルタレン」などのOTC医薬品でおなじみのHaleon(ヘイリオン)は、2024年9月に社名変更を行ったばかりの新しい会社だ。前身は、世界最大級の製薬企業であるGSKのコンシューマー・ヘルスケア事業。
日本では知覚過敏や歯周病予防、義歯ケア製品といったオーラルヘルスケアから、風邪薬や胃腸薬などのOTC医薬品まで、人々の健康に寄り添う製品を幅広く提供している。
社会課題解決への貢献は企業の責務
近年、企業にとって、経済的価値を追求するだけでなく、環境問題や社会問題の解決に貢献していくことが、持続可能な社会の実現に向けてますます重要性を増している。企業は、その経営活動を通じて、社会全体の well-being(より良い状態)に貢献していくことが求められているのだ。
Haleonのパーパスは、「Deliver better everyday health with humanity.(もっと健康に、ずっと寄りそって)」。人々の健康を願い、人に寄り添う企業として、製品やサービスの提供だけでなく、社員一人ひとりが社会貢献活動を積極的に行う企業風土の醸成にも力を入れている。
本稿では、Haleon ジャパンの社員ボランティア活動に焦点を当て、その活動内容や社員への意識の変化、企業価値向上への影響について具体的に解説していく。
Haleonの社員ボランティア制度の概要:グローバル潮流と日本独自の進化
Haleonジャパンでは、グローバルでの制度にのっとり年間8時間までの就業時間中のボランティア活動を推奨している。これは、世界的なサステナビリティへの意識の高まりを受け、グローバル全体で社員の社会貢献活動を推進し、その活動を可視化していくことを目的とした取り組みの一環だ。
当初、日本法人は、従業員サーベイのスコアをグローバルと比較して、社員エンゲージメント、特に社会貢献活動への意欲が低いという課題を抱えていた。
実際に最初のボランティア参加者は、「当時社員260名に対し、最初のビーチクリーニング活動への参加者はわずか10名程度でした」と、当時を振り返り、North Asia Corporate Affairs Headを務める市丸亜矢子さんは語る。
そこでHaleon ジャパンでは、社員一人ひとりが社会貢献活動へ積極的に参加することを奨励し、多様な活動を通じて社会との繋がりを深め、社会課題への理解を深めることを目的とした、社員ボランティア制度を導入した。
「大切なのは、やらされ感ではなく、社員一人ひとりが『自分ごと』として捉え、自発的に活動に取り組むこと。そのためにも、社員の自主性を尊重し、自ら活動内容を企画・提案できるような柔軟性の高い制度設計を心がけました」と市丸さんは語る。
その結果は徐々に形になっていった。
2023年7月、グローバルHaleon の設立から1周年を迎えた。当初は、社内でお祝いのパーティーを開くことも検討されたが、「社会に還元する形で感謝の気持ちを伝えたい」というグローバル全体の動きを日本でも実現するきっかけにしたという。
それが、社員が主体となってボランティア活動を実施することだった。その後、活動への参加者は徐々に増加。現在では社員総数の70%を超える社員が、様々なボランティア活動に参加しているとのこと。
社員ボランティア活動の内容と社員への影響
ここでは実際に実施されている社員ボランティア活動の中から、4つの活動を取り上げ、それぞれの活動内容や参加した社員のコメントを紹介する。
【事例1】ビーチクリーニング活動:地球規模の課題に、自分ゴトとして向き合う
コマーシャルエクセレンスショッパーマーケティングマネージャーとして勤務する小嶋草太さんは、ボランティア活動が始動した当初から参加している一人だ。彼が最初に携わったのは、神奈川県内の海岸で行われたビーチクリーニング活動だった。
「ニュースなどで海洋プラスチックごみの問題を知ってはいましたが、実際に自分の目で見て、手で拾ってみると、その深刻さを改めて実感しました。海岸に打ち上げられたプラスチックごみの量は想像以上でした。自分たちの事業活動が、環境問題に繋がっているという現実を突きつけられた思いでした」と語る小嶋さん。
この経験を通して、小嶋さんは、企業が環境問題に対して責任を果たしていくことの重要性を改めて認識したという。
「単に製品を開発・販売するだけでなく、その製品が環境にどのような影響を与えるのか、ライフサイクル全体を考慮した上で、環境負荷の低減に積極的に取り組んでいく必要があると感じています」
また、社内での行動変容についても言及する。
「ビーチクリーニング活動に参加したことをきっかけに、社内でも、ゴミの分別やリサイクルにこれまで以上に意識的に取り組むようになりました。私だけでなく、他の社員も同様の変化を見せており、ボランティア活動への参加が、環境問題に対する意識改革を促していると感じています」。
【事例2】ドナルド・マクドナルド・ハウスでのボランティア活動:社会貢献に対する意識のハードルを下げる
営業統括本部東日本第一営業部キーアカウントマネージャーとして活躍する渡部達也さんは、これまでボランティア活動に携わった経験がなかったという。
渡部さん
「東日本大震災の発生時、何か自分にできることはないかと考えましたが、当時の私は、目の前の仕事で精一杯で、実際に行動に移すことはできませんでした。その後、社員ボランティア制度が始まり、参加を検討する中で、ドナルド・マクドナルド・ハウスでの活動に興味を持ちました。
前職の上司のお子さんが入院した際に、ご家族がドナルド・マクドナルド・ハウスを利用したという話を聞いたことがあり、他人事とは思えなかったのです」
渡部さんが参加したのは、子供の治療に付き添うご家族のための滞在施設を運営する 「ドナルド・マクドナルド・ハウス」の清掃活動だ。
「ボランティア活動に対して、どこかハードルの高さを感じていました。しかし、実際に参加してみると、特別な知識やスキルは必要なく、誰でもできる簡単な作業ばかり。窓拭きやベッドメイキング、掃除機がけなどを通して、施設の利用者の方々が少しでも快適に過ごせるようにと願いながら作業しました」
参加前は、ボランティア活動に対して、どこか気負いがあったという渡部さん。しかし、実際に参加してみると、そのハードルの低さに驚いたという。「難しいことではなく、ほんの少しの行動でも、誰かの役に立つことができる。ボランティア活動に対する意識が変わりました」と、渡部さんは語る。
さらに、渡部さんは、この経験を通して顧客とのコミュニケーションにも変化が生まれたと語る。
「以前は、商品の販促提案の活動が中心でしたが、ボランティア活動の話をすることで、お客様との距離が縮まり、より深い関係性を築けるようになったと感じています。企業として社会貢献活動に取り組む姿勢を示すことが、顧客からの信頼獲得に繋がり、ひいては、Haleonブランドの向上にも繋がると実感しています」。
【事例3】海外へ届ける車椅子清掃活動:多様な視点を取り入れることの大切さを学ぶ
Project Manager, R&D Wider Asiaとして勤務する中川広海さんは、ウガンダでのJICA青年海外協力隊の経験を持つ。開発途上国での活動を通して、社会課題を「自分ごと」として捉え、積極的に行動することの大切さを学んだという。
Haleon ジャパンに入社後、中川さんは、ビーチクリーニング活動、ことばの道案内活動に加え、海外へ届ける車椅子清掃活動にも参加した。
「海外へ届ける車椅子の清掃活動では、車椅子を分解して、部品を一つひとつ丁寧に清掃しました。初めて知ったことばかりで、車椅子の構造や、利用者の気持ちについて深く考える貴重な機会となりました。これまで、どこか他人事のように感じていた社会課題が、この体験を通して、一気に『自分ごと』になりました」と中川さんは語る。
彼はさらに続ける。
「私が担当している製品開発におけるプロジェクトの仕事では、お客様のニーズを的確に捉え、製品開発に反映していくことが重要になります。ボランティア活動で得た経験は、お客様の潜在的なニーズを掘り起こし、より良い製品を開発していく上での貴重なヒントを与えてくれると感じています」
「ボランティアは業務時間中に業務と全く違う環境に無理矢理連れてってくれる、良い舞台装置です。海外へ届ける車椅子のプロジェクトでいえば、一度解体して部品を洗ったのですが、その過程で車椅子のつくりを知ったり、日本の保健・医療制度の中で車椅子はどういうふうに補助されているのか、その実態をNPOの方とお話していくうちに知ることができました。子どもがサイズアウトした先で車椅子をどうのりかえていくのかなどもはじめて知りました。
自分たちの商品でもお客様は年を重ねていくので、それにどうやって対応していくのかという新しい視座やアイデアをボランティアから得られて、自社のプロジェクトでの視点でも活用できそうです」
車椅子の清掃活動について、南陽園にHaleonをどう見ているのかを別途聞いた記事はこちらから