
北中米ワールドカップで7得点を挙げ、ノルウェーをベスト8へ押し上げたアーリング・ハーランド。ブラジル守備陣を破壊した195センチの怪物が、日本ではゴール以上に別の場面で愛されている。南野拓実を見つけた瞬間、笑顔を浮かべて小走りになり、そのまま肩を抱いた再会シーンだ。魔人ブウに似ているとの声まで笑って受け入れる。圧倒的に強いのに、隙だらけ。その落差が、ハーランドを遠い世界のスターから応援したくなる25歳へ変えた。
南野拓実を見つけた瞬間、ハーランドの顔が崩れた
ハーランドの凄さは、195センチの身体を生かした強さや高さだけではなく、相手DFを背負ったまま前を向き、長い脚で一気に裏へ抜け、わずかな隙から強烈なシュートを叩き込むところにある。北中米ワールドカップでもその破壊力は変わらず、28年ぶりに本大会へ戻ったノルウェーを牽引し、ブラジル戦では2得点。準々決勝を前に7ゴールを積み上げ、初めて立ったワールドカップで大会の主役になった。
そんな男が日本で急速に愛され始めたきっかけは、昨年10月の欧州チャンピオンズリーグで撮影された十数秒の映像だった。マンチェスター・シティとモナコが対戦し、ハーフタイムを終えた選手たちがピッチへ戻るなか、ハーランドは少し離れた場所に南野を見つける。次の瞬間、歩く速度を上げ、笑いながら一直線に近づき、そのまま肩を抱いて言葉を交わした。離れたあとも振り返り、まだ話し足りないような表情を見せている。
試合中の形式的な挨拶ではない。南野の姿が目に入った途端、身体が勝手に動いたような近づき方だった。SNSに「彼女に会いに行くみたい」「大好きな飼い主を見つけた大型犬」「ゴールしたときよりうれしそう」という声が並んだのも無理はない。ブラジルのDFを吹き飛ばし、無表情のままネットを揺らす怪物が、南野の前ではうれしさを隠せない。ピッチ上の怖さを知っているからこそ、頬を緩めて駆け寄る姿が強烈に残った。
世界最強になる前のハーランドを知る南野拓実
南野とハーランドがザルツブルクで同じユニホームを着たのは2019年で、共闘した期間は長くない。当時の南野はすでにチームの中心として欧州で経験を積み、ハーランドはノルウェーから加わった19歳の若手だった。同年9月の欧州チャンピオンズリーグ、ヘンク戦で2人は前線を組み、ハーランドは大会初出場でハットトリックを達成した。南野のアシストから決めたゴールは、のちに欧州で記録を塗り替えていくストライカーにとって、チャンピオンズリーグでの最初の一撃だった。
当時のザルツブルクにはファン・ヒチャンやドミニク・ソボスライもおり、現在では各国の有力クラブで知られる選手たちが、若さと勢いのまま前へ出る攻撃を繰り返していた。欧州王者リバプールとの試合では敵地で3得点を奪い、南野は鮮烈なゴールを決める。その数カ月後、南野はリバプールへ、ハーランドはドルトムントへ移籍し、世界へ飛び出す直前の攻撃ユニットは解散した。
モナコのピッチで再会したハーランドが、南野を見つけた途端に顔を崩したのは、ザルツブルク時代が単なる通過点ではなかったからだろう。世界的スターになる前、まだ19歳だった自分にパスを送り、ゴールを一緒に喜んだ先輩が目の前にいる。マンチェスター・シティの絶対的エースとなり、各国のDFから警戒される存在になっても、その時間は消えていない。南野の前に現れたのは世界最強のストライカーではなく、ザルツブルクで夢中になってゴールを追っていた青年だった。
「魔人ブウ似」を笑って認める世界的スター
ハーランドの人気を押し上げているのは、強さの裏から次々と出てくる愛嬌である。ワールドカップでは、漫画「ドラゴンボール」の人気キャラクター、魔人ブウに似ているという比較画像が拡散された。髪形や笑顔を並べられた本人は不快感を示さず、「否定はしない」と反応し、自らその笑いに加わった。世界的スターが外見をいじられれば、無視しても不思議ではない。それを受け流すどころか、少し楽しんでいるように見えるから、「魔人ハーランド」「人間ではないことがばれた」と反応はさらに広がった。ゴールを量産する怪物が、冗談には妙に素直で、昔の仲間を見つければ笑顔を抑えられない。強さを誇示する必要がないほど強いからこそ、飾らない振る舞いがそのまま魅力になる。
ザルツブルク時代には、当時の監督がハーランドの人間性を高く評価し、練習でも試合でもチームのために力を尽くし、自分勝手な姿を見たことがないと語っていた。PKを仲間に譲ろうとすることもあり、監督がキッカーを指定しなければならなかったという。得点数が評価に直結するストライカーが、自分の数字よりチームメイトを優先する。その性格を知れば、南野へ迷わず駆け寄った姿も意外ではない。
ハーランドの笑顔が映した南野拓実の存在感
この映像が日本で何度も拡散されるのは、ハーランドがかわいいからだけではない。世界最強のストライカーが、南野を見つけるなり自分から近づいた。その姿が、南野が欧州で築いてきた関係の深さまで浮かび上がらせた。
海外でプレーする日本人選手は、先発したか、何分出場したか、何得点したかという数字で切られやすい。しかし、毎日の練習で同じボールを追い、ロッカールームで言葉を交わし、勝敗を分ける場面で互いを信じた時間は、成績表には残らない。数年ぶりの再会でハーランドが見せた無防備な笑顔は、南野がザルツブルクでどのような存在だったのかを、説明より雄弁に伝えていた。
ブラジル戦の2得点は、ハーランドがどれほど恐ろしい選手かを世界に見せた。一方、南野へ駆け寄った十数秒は、その怪物がなぜ愛されるのかを日本に教えた。魔人ブウに似ていると笑われても一緒に笑い、昔の仲間を見つければ試合中でも頬が緩む。完璧に取り繕わないから、強さの奥にいる青年が見える。
7つのゴールがハーランドを大会の主役にしたのは間違いない。それでも日本のファンの胸に残ったのは、南野拓実を見つけた瞬間、うれしさを隠せず小走りになった姿だった。怪物の人気を決定づけたのは、相手をねじ伏せたゴールではなく、旧友の前で崩れた、あの笑顔である。



