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株式会社ティーアンドエス

https://tands-luggage.jp/

〒343-0816 埼玉県越谷市弥生町1-12

048-969-8688

使う人が、つくる人になる。スーツケースメーカーT&Sが広げる「ものづくりの輪」

ステークホルダーVOICE 経営インタビュー
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株式会社T&S 斉 真希 社長
株式会社T&S 斉 真希 社長

市販のスーツケースに「もっとこうだったら使いやすいのに」という思いを抱き、自分の用途に合わせて手を加えていく。さらには、改造と呼べるほど作り込む人たちもいる。

そんな熱量を持つコスプレイヤーや推し活ファン、カメラマンを開発の輪に招き入れ、ユーザーと一緒に製品を生み出している会社がある。スーツケースをはじめとする旅用品を手がける、株式会社ティーアンドエス(T&S、埼玉県越谷市)だ。

2002年の創業以来、「旅をもっと身近に。」を掲げてブランド「Legend Walker(レジェンドウォーカー)」を育ててきた同社は、近年、専門性の高いユーザーと共創する「Legend Walker LAB(レジェンドウォーカーラボ)」の取り組みで独自の存在感を放っている。こうした取り組みを貫く哲学とは何か。代表取締役社長の斉真希氏に話を伺った。

 
T&S 本社2階 ショールーム
今回、インタビュー取材をさせていただいたスペース。周囲一面にスーツケースが並ぶ光景は圧巻であった

「使う人」が「つくる人」になる場所

スーツケースの基本性能は、すでにかなりの水準に達している。軽さやキャスターの滑らかさといった一般的な機能は、長い歴史の中で各社が磨き上げ、ある程度はコモディティ化した。では、その先に何を求めるのか。斉社長は、ここからは「より多くの人の知恵が必要」だと考えている。専門性の高いニッチな領域では、なおさらだ。

株式会社T&S 斉 真希 社長

斉社長
「私たちは日々スーツケースに触れているので、あまりに慣れてしまうと、新たな視点がなくなってしまう。コスプレイヤーさんや、カメラを扱う方々のように、専門性があるところは専門の方の意見を聞かないと、私たちもどうすればいいかわからない。だからこそ、自分の周りじゃない人たちに聞いてみることを、ずっと大事にしたいんです。当たり前にならないように」

そうして生まれたのが、ユーザーと共に製品を作り上げる、Legend Walker LABだ。

たとえば推し活向けのキャリーケースは、社員のアイデアから始まった。製品のカラーバリエーションをどう決めるか、Xで「推し色を教えてください」とアンケートを募ったところ、返信の数は収拾がつかないほど集まったという。同じ青でも、水色か、濃いブルーか、ターコイズブルーか。すべて製品化することは難しいため、ユーザーからの声を集計し、上位の8色を選んだのは経営側の判断だった。結果として、このアンケートはそのまま市場のデータにもなり、売れ筋の見極めにもつながったのだという。

コスプレイヤーとの共同開発も、その一つだ。2024年4月に発売したクローゼットキャリー「LAYER」は、5名の現役コスプレイヤーと共に作り上げた製品である。会議では経験に基づくアイデアを出し合い、できあがったサンプルを実際に使いながら改良を重ねた。

さらに最近では、個人で活動するカメラマン向けのキャリーも手がけている。こちらはYouTubeで発信するカメラマンからの「このようなカメラキャリーを作ってもらうことはできないか」というOEMの問い合わせが出発点だった。個人では量産が難しいため、「私たちの企画として一緒にやりませんか」と声をかけ、その仲間や、同社が映像制作で世話になっている人たちにも意見を聞きながら形にしていった。

新商品のカメラマン用キャリー「FRAME -ONE」
新商品のカメラマン用キャリー「FRAME -ONE」

こうした熱量の高いユーザーは、どのように見つけるのか。鍵を握るのは、商品部の大谷氏のリサーチ力だ。「『スーツケース』『キャリーケース』といったキーワードで投稿している人を、日常的にエゴサーチしています」と大谷氏は話す。コスプレイヤーはスーツケースを日常的に使うため関連した投稿が多く、中には自分の手で大胆に作り変えている人もいる。そうした発信者に直接声をかけていくのだ。もともと強い問題意識を持つ人たちだからこそ、開発に加わったあとも、自分の不便を解消したいという思いが、同じ悩みを抱える多くの人のためにという気持ちへとつながっていく。遠方からわざわざ足を運ぶ協力者も、少なくないという。

 

「言われたこと」から、そのまま作らない

ユーザーの声を聞く。しかし、その声をそのまま製品にするわけではない。斉社長が重視するのは、ユーザーが本当に求めているものを、自分たちの言葉で捉え直すことだ。

推し活向けの開発では、「推し活とは何か」を根本から考えさせられたという。自宅で推しの誕生日会を開く人、より多くの人に推しを知ってほしい人、実際に会いに行ってやり取りそのものを楽しむ人。ひと括りにはできないほど幅広い。

転機になったのは、ある社員が推し活で遠方へ行ったときのエピソードだった。自宅の近くでは推しの顔が入ったグッズを見せるのが少し恥ずかしいが、会場に近づくと、今度は見せたくなる。人によって対象への愛の表し方が違うだけでなく、個人の中でも、時と場所によって愛情の表現の仕方が変わっていく。斉社長はそこにヒントを見いだし、隠すことも見せることもできる、パネルの差し替え式キャリーにたどり着いた。中が見えるクリアパネルと見えないパネルを自由に入れ替えられ、下部のジッパーで、ジャケットのように着せ替えできる。

ここに、声を鵜呑みにしない姿勢がはっきりと表れている。

推し活キャリー「OSHINO」
推し活キャリー「OSHINO」

「『推しの姿が描かれている缶バッジをもっと見せたい』という声を聞いて、ただバッグを作るのでは終わってしまう。そうではなくて、なぜ見せたいのか、どういったときに見せたいのか、見せたらどんなベネフィットがあるのか。そこまで解釈して製品にするのが、私たちの役割だと思っています」

もっとも、すべてが順調に進むわけではない。難しさは、ユーザーのこだわりをどこまで取り入れるかという、終わりのない調整にある。機能を一つ足せば、その分だけ重量が増し、コストも上がる。最終的にいくらまでの金額なら受け入れてもらえるのか、そのバランスを常に見極めなければならない。

コスプレイヤー向けの開発では、あえて引き算を選んだ。当初は細かな収納ポケットや仕切りを作り込もうとしていたが、コスプレイヤーは手先が器用で、必要なものは身近な店の品などを使って自分で用意してしまう。そこで方針を変え、内部はアレンジしやすい空間として残し、使い方は各ユーザーに委ねた。外側にはDカン式の台座を設け、傘などの長いものは利用者が自分で取り付けられるようにした。余白を残したことで、かえって多様な使い方が可能になり、コストも抑えられたという。何でも詰め込んで特化させることが、必ずしも使い手のためになるとは限らないということの証左がここにある。

 

すべては「お互い」の精神から始まる

ユーザーと共に作るものづくりは、なぜ自然に成り立つのか。その答えは、同社が企業精神として掲げる「お互い」という言葉にある。お客様を見て製品を作るのは、どの会社も口にすることだ。だがT&Sは、お客様の側だけでなく、その後ろにいる作り手の側にも立つ。生産者なしに事業は成り立たない、という考えからだ。一度きりの取引ではなく、開発から納品、その後の改良まで、工場やパーツメーカーと長く一緒に作り続ける。

スーツケース一台には、キャスターや伸縮する手持ち部分(キャリーバー)、ハンドル、内装など、多くの部品が組み合わされる。主要な部品だけでも複数のメーカーと向き合い、組み立て工場とも連携する。その中で同社は、いわばプロジェクトマネージャーのような立ち位置を担う。象徴的だったのが、ペットモビリティブランド「PETiCO(ペチコ)」のキャスター刷新である。組み立て工場に「もっと滑らかに」と伝えるだけでは、思うようなキャスターは生まれない。そこで同社は、キャスターメーカーと直接組み、より大きなキャスターの内部にバネを入れ、サスペンション機構で振動を抑える設計に取り組んだ。公共交通機関で使うとき、これまで小さなキャスターでは越えにくかった点字ブロックを、楽に越えられるようにするためだ。

ただ、その狙いは言葉で伝えるだけでは伝わらない。斉社長は自分の愛犬の写真を見せながら、海外に拠点を持つ工場の社長に日本の交通事情を一つひとつ説明したという。

株式会社T&S 斉 真希 社長

「日本では、みんな電車に乗って移動するんだよ。点字ブロックを越えるのって、実は大変なんだよ、と。そこを本当に分かってもらわないと、なぜわざわざ新しいキャスターの金型を作らなきゃいけないのか、その必要性が理解してもらえない。そうすると、先方もモチベーションが湧かないんです。だから、そこは丁寧にコミュニケーションするようにしています」

工場を飛び越えてパーツメーカーと直接交渉するのは、業界では珍しい。それでも手間を惜しまないのは、関わる全員のモチベーションを引き出すことこそ、メーカーの役割だと考えているからである。

このプロジェクトには、心温まる後日談がある。斉社長は製品の完成後、新しい金型を用意してまで制作に協力をしてくれたキャスターメーカーを訪ね、猫を飼っているという工場の社長の娘さんへ、PETiCOを一台贈った。娘さんは大いに喜び、「パパが作ったキャスターはすごい」と口にしたという。自分たちがこだわった部品が、誰かの幸せにつながっている。それが、作り手にとって何よりのやりがいになる。「お互い」という理念は、こうした関係の積み重ねの中に息づいている。

 

「これは私がつくった」と言える喜びを

斉社長は、自身の仕事に強い誇りを感じているという。背景にあるのは、時代に対する一つの見方だ。世の中はますますソフトの世界へと向かい、何かをアップデートすればよいという発想が強まっている。その一方で、ハードに直接関わる機会は、一般の人にはほとんどない。

「物を作りたいから作れる、というのは、本当にある意味で特権だと思うんです。その体験を、Legend Walker LABの商品を通して、もっと多くの人と分かち合えたら。自分でハードを作れる楽しさを、色々な人と分かち合えるのは、すごく幸せなことだなと思います」

社内の開発メンバーにも、同じ喜びがある。街なかで自分のデザインしたスーツケースを見かけ、「あれは私が作った」と思える瞬間だ。その感覚を、Legend Walker LABはユーザーにも開いていく。共同開発に加わったコスプレイヤーが、「あのフックは私の発想でつけた」と言えるようになる。そう言える人が増えれば、物を通して人がエンパワーされ、やがて自分の手で何かを作ってみようという、次の創造性の源にもなるのではないか。一つひとつは小さな事例でも、ものづくりが人に力を与えていく。

その土台にあるのが、現場の声を大切にする組織づくりだ。

「OSHINO」
「OSHINO」は一部のパーツが着脱可能となっている。これで推しが増えても安心?

「ボトムアップで出てきた意見は、否定しないようにしています。現場から出てくる意見が、100パーセント間違っていることって、あまりないと思っていて。市場が追いついていなかったり、とてもいいアイデアだけどT&Sでやるものではなかったり、今の時期ではなかったり。少し見方を変えれば、活かせることが多い。現場の意見を大切に扱うほど、より多くの意見が出てくるようになると感じています」

もちろん、声を集めて終わりではない。何を、いつ、どのように形にするかを見極めるのは経営の役割であり、最終的な判断はそこにある。斉社長は組織づくりを段階で捉えており、第一段階は心理的安全性を高めて意見が出やすい状態をつくること、次の段階は出てきたアイデアの質を高めることだと考えている。これからは数ではなく、質をどう磨くかが課題になる。実際、推し活向けの企画は社員の発案から大きく育ち、コスプレイヤーとの開発も、斉社長に「コスプレイヤーとは何か」を教えるところから始まった。教えてくれた社員には感謝していると、率直に語る。

 

好奇心と旅が育てるもの

こうしたものづくりの根底に流れているのは、斉社長自身の旺盛な好奇心だ。

「自分が知らない世界に対して、どこまで深掘る意志があるか。仕事だからやらなきゃいけない、というのは誰にでもあると思います。でも私は、本気で推し活をしている人の心理を知りたいし、コスプレイヤーの世界が実際どうなっていて、何が大変なのかを知りたいんです。それを知ると、商売につながるだけではなくて、その人たちの活動をもっと快適にできる。色々な人の世界に良い影響を与えたいという気持ちから、好奇心がさらに湧いてくるんです」

OSHINO コスプレイヤー
実際に開発に携わってもらった5名のコスプレイヤー

その源泉をたどると、旅の経験に行き着く。技術が進み、合理的な判断が当たり前になった現代では、「AだからB」というロジックは誰にでも、そしてAIにも導くことができる。逆に、自分でなければ出せない答えは、不合理なことや、理屈では割り切れない、感じることの中にある。旅は、その不確実性を高めてくれるという。普段は通用していた合理が、違う土地ではあっさり通用しなくなるからだ。

斉社長は、メキシコを旅したときのことを例に挙げる。リゾートを出て乗ったタクシーで、料金をめぐる思いがけないやり取りに見舞われた。決して心地よい経験ではなかったが、振り返れば「自分はちゃんと生きている」と実感できる時間だったという。旅を重ねるうちに、想定どおりに進まなくても、異なる文化の中で予想外の出来事が起きても、「こういう人もいる」「こういうときもある」と受け止められるようになった。後になって「あれは面白かった」と思い返せる。その積み重ねが、好奇心へとつながっている。

 

誰もが「レジェンド」を描ける

旅に、成功も失敗もない。どこそこへ行くほうが良い、といった価値の優劣もない。あるのは、その人にとっての「豊かさ」だけだ。より豊かな旅とは、経験の幅がどれだけ広がったか、予想外の出来事にどれだけ出会えたか、ということなのだろう。

このことを、斉社長はユーザーの言葉から教えられた。Legend Walkerのサイトには「ストーリー」というコラムを紹介するページがあり、ユーザーの「印象深かった旅」について、声を集めている。ハネムーンでローマを訪れた人に「一番印象に残ったのは」と尋ねると、返ってきたのは名所の名前ではなかった。ウェディングドレスの撮影で、現地のフォトグラファーと英語で一生懸命に意思を通わせようとする夫の姿が、一番印象的だったという。言葉の壁のない日本では見られない夫の表情が、夫婦の新しい思い出として残っていく。旅のストーリーは、最初に期待していなかったところにこそ宿る、といえるのかもしれない。

ここに、ブランド名に込めた意味がつながってくる。

株式会社T&S 斉 真希 社長

「事業を承継した当初はLegend Walkerを、うちの商品がすごくて伝説になる、という意味だと思っていたんです。でも、色々な人の話を聞いていると、みんなレジェンドを作っているなと思って。あのローマのご夫婦のエピソードも、二人にとっての伝説です。人が自分のレジェンドを描いていく、その過程をサポートするのが私たちの役割なのだと気づいてから、ますますこの仕事が好きになりました。誰もが自分のレジェンドを作れるのだということを、旅や商品を通して体感していただきたいです」

その視線は、これからのものづくりへも向かう。同社が見据えるのは、モビリティの可能性を広げていくことだ。一般的な旅をブランドの軸としつつ、ペットのように少し視点を動かした先の存在にも、どんな移動の形があるのかを探っていく。2025年に発売したキッズ向けのキャリー「コロとも」は、その一例だ。子どもは小さいころから自分のスーツケースに憧れるが、大人用は大きく扱いにくいため、途中で諦めてしまう。それなら、子どもが持ちたくなるキャリーを作ればいい。新しい使い手のための商品は、まだまだいくらでも考えられるという。

実は、同社は長年にわたり、業界の最先端をいく技術を温めてきた。Bluetoothに接続できるものや、本体にデジタルスケールを搭載したスーツケースもすでに手元にある。ただ、市場がまだ受け入れる段階にないと考え、あえて世に出してこなかった。技術が先行しすぎると、消費者に価値を理解してもらうための時間とコストが膨らむ。同社の規模では、一気に市場を啓発するのは難しい。だからこそ、市場の中心に立ち、「これがあったら買う」という声が出た瞬間にすぐ拾い、製品へ反映する。そのフットワークの軽さこそ、これからの強みになると斉社長は見る。OEMの取り組みが進み、面白い製品が世に出るようになった今、ようやく長く待ち望んだ技術を使うときが来た。

その機動力をさらに高めるのが、2026年に新たにグループへ迎えたバッグメーカーの存在だ。これまで同社は樹脂を用いたハードな製品を得意とし、「車輪のついているもの」を中心に見てきた。今後は、車輪のないソフトな製品の企画やデザイン、製造も担えるようになる。国内のメーカーで本社からほど近く、少量生産や短納期にも対応できるため、Legend Walker LABの活動にも弾みがつく。スーツケースが遠出や大きなイベントで使われるのに対し、バッグはもっと身近に、毎日使うものだ。これにより、さらに日常に近い旅も支えられるようになる。それは、レジェンドは特別な誰かのものではなく、誰の日々にも宿るという同社の考え方とも、自然に重なっている。

T&S スーツケース

誰もが、自分だけのレジェンドを描ける。そのことを旅や製品を通して伝えながら、T&Sはこれからも、人々の移動と旅の形を広げていくだろう。

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ライター:

Sacco編集・ライター。企業に直接出向く取材が中心。扱う記事はサステナビリティ、エンタメ関係が多め。

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