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マイナ保険証、導入目前 慎重姿勢目立つが不正使用防止で社会保障適正化のメリット

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マイナンバーカード
PhotoACより

2024年12月2日、健康保険証がマイナンバーカードと一体化する「マイナ保険証」の本格導入が迫る中、立憲民主党は現行保険証の廃止時期延期を求める法案を提出するなど慎重姿勢を示している。

医療現場からも、トラブル発生への懸念や、情報弱者への対応不足を指摘する声が上がっている。全国保険医団体連合会(保団連)などは、現行保険証の廃止撤回を求める要請書を厚生労働省とデジタル庁に提出した。マイナ保険証を巡る問題は、先の衆議院選挙でも争点の一つとなった。

こうした慎重論がある一方で、政府はマイナ保険証の普及促進に躍起だ。医療機関にはマイナ保険証利用促進のためのマニュアルやポスターが配布されている。政府はマイナ保険証導入によって、保険証の不正使用を抑制し、膨れ上がっている社会保障費の適正化を図りたい考えだ。ひいては医療DX推進に向けた大きな転換点と位置付けている。

導入の意義:不正使用防止、医療費削減、そしてPHRへ

マイナ保険証導入の最大の目的は、厳格な本人確認による不正使用の抑止だ。従来の紙の保険証では、他人の保険証を不正に使用した医療費受診や生活保護が複数の病院を回り、医療扶助における向精神薬の重複処方を受け、処方薬を転売することなどが問題となっていた。2022年には、日本医師会の長島公之常務理事による、大阪市西成区で生活保護受給者による向精神薬の不正転売事案発生の事案が報告されている。2021年9月以降の10か月間で病院を約380回受診して、向精神薬を含む薬剤計約5万3千錠を窓口負担なしで入手した人がいることなどが開示されている。

マイナ保険証では顔認証やICチップによる認証システムが導入され、不正使用を未然に防ぐとともに、医療費の適正な使用を確保し、国民皆保険制度の持続可能性を高める。

不正使用の根絶は、医療費の削減に直結し、社会保障費の適正化にも一定の貢献が期待できる。高齢化が進む中で、医療費の増加は社会保障制度全体の持続可能性を脅かす大きな要因となっており、マイナ保険証による不正使用防止はこの問題解決への重要な一歩となる。限られた財源を有効に活用し、持続可能な医療保険制度を維持していく上で、マイナ保険証は重要な役割を担う。

さらに、マイナ保険証は将来的なPHR(パーソナルヘルスレコード)導入の基盤となる。PHRは個人の健康・医療情報を電子的に記録・管理するシステムで、マイナ保険証によって個人の医療情報が一元管理されるようになれば、医療機関間での情報共有がスムーズになり、診断の迅速化、医療ミス防止、適切な治療選択などが期待される。

将来的には、個人が自身の健康データを管理し、予防医療や個別化医療に役立てることも可能になる。これは、個人の健康増進だけでなく、医療の質向上、ひいては国民全体の健康寿命延伸に貢献すると期待されている。

一方で、マイナンバーを巡ってはシステム構築の受託会社などの随意契約の形が問題にもなってきた。

巨額の税金投入と随意契約の多さ:J-LISと大手企業の蜜月

そもそも、マイナンバーカードの中核システムの設計・開発は、NTTコミュニケーションズ、日立製作所、NEC、NTTデータ、富士通の5社が共同で2014年に受注した。このシステムは、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が運用する住民基本台帳ネットワークと連携し、マイナンバー制度の根幹を支えてきた。

J-LISは、住民基本台帳ネットワークを運用していた総務省の外郭団体などを改編し、地方自治体が共同で運営する法人として2014年4月に設立された団体。マイナンバーカードの発行や関連システムの運用などマイナンバー事業に関わる実務を国や自治体に代わって担い、事業費の多くは国や自治体からの公金で賄われている。

しかし、J-LISが発注したマイナンバー関連事業の74%(金額ベースでは約616億円)が、競争を経ずに受注先を選ぶ随意契約だったことが2021年の報道により、問題視されている。一者入札を含めると、全体の81%の業者選定で競争が働いていなかった。国の事業は会計法で競争入札が原則であり、J-LISにも同様の規定があるにもかかわらず、随意契約の多さは際立っている。

2014~2020年度上半期までのマイナンバー関連事業は207件、総額1300億円を超え、国のデジタル事業全体と比べても随契の多さが際立っている。

随意契約の受注先はNTTコミュニケーションズやNECなどの大手企業が中心だ。一者入札は15件で契約額は計約404億円。随意契約分と合わせると、契約金額ベースでも73%に上った。競争が働いていないと契約金額も高くなりがちで、予定価格に対する落札額の割合を示す落札率は、随契が平均92%、一者入札が75%だったのに対し、二者以上の競争入札は60%だったことが伝えられている。2019年度の国発注のデジタル事業では随契は38%にすぎず、一者入札を合わせた割合は76%だったことからも、J-LISの随意契約の多さが際立っている。マイナンバー制度には過去9年間で累計約8800億円の国費が支出されているが、その使途の透明性確保は重要な課題だ。

J-LISの管理部担当部長は「機構でも競争入札が原則で随意契約は例外。随意契約の割合が高いままでいいとは思っていない。なるべく案件を切り分けて発注することで企業の参入を促すなど、競争性が発揮されるような発注に取り組んでいく」と2021年の東京新聞の報道で話していた。

システムトラブル、情報セキュリティ、国民の理解… 課題への対応は?

マイナ保険証導入には、いくつかの課題も指摘されている。過去のシステムトラブル、情報セキュリティへの懸念、国民の理解不足などが挙げられる。特に個人情報の漏洩については、国民の不安も大きい。しかし、マイナ保険証は国民の健康・医療に資する政策であり、リスクだけでなくベネフィットにも目を向ける必要がある。

システムトラブルについては、政府は再発防止策を講じ、システムの安定稼働に努めている。情報セキュリティに関しては、厳格な情報管理体制を構築し、個人情報の保護を徹底している。

国民の理解不足に対しては、政府や医療機関が積極的に周知活動を行い、マイナ保険証のメリットや利用方法を丁寧に説明していく必要がある。特に、情報弱者と呼ばれる高齢者やデジタル機器に不慣れな人々への支援は不可欠だ。専門家も、丁寧な説明とサポートの必要性を訴えている。

マイナ保険証、そして将来的なPHR普及の鍵となるのは、個人が「自分の健康・医療データを自らコントロールし、自分のために役立てる」という認識だ。健康診断の記録や診療データなど、これまで蓄積されていても活用されてこなかった健康・医療データは数多くある。データを蓄積していても、使わなければ意味がない。

PHRが普及すれば、個人の生涯にわたる健康・医療のデータを個人の判断でシェアできるようになる。これは、健康・医療データを活用し、健康増進、医療の質向上に繋げる第一歩となる。

「蓄積されたビッグデータを社会のために使うかどうか」という議論は、PHRの価値が広く理解され、データ活用によるメリットが実感されてからでも遅くはない。まずは、リスクとベネフィットのバランスをとりながら、データが活用される医療・ヘルスケアの実現を目指すべきだ。

健康・医療情報の当事者である個々人も、リスクだけでなくベネフィットにも目を向け、「健康・医療データを自らシェアしたい範囲にシェアすること」の価値を冷静に考えるべきだ。

円滑な移行とPHR実現に向けて

現行保険証は12月2日以降、新規発行が停止されるが、有効期限内であれば引き続き使用可能だ。また、マイナンバーカードを持っていない、あるいはマイナ保険証の利用登録をしていない人のために、「資格確認書」が交付される。

政府は、円滑な移行のために、資格確認書の申請方法やマイナ保険証の利用方法に関する情報を広く提供し、国民の不安解消に努めている。医療機関においても、マイナ保険証に対応した受付体制の整備が進められている。

PHR実現に向けては、データ標準化、セキュリティ対策、国民への啓発活動など、多くの取り組みが必要となる。政府は、関係機関と連携し、PHR導入に向けたロードマップを着実に実行していく方針だ。

医療イノベーションの未来へ

マイナ保険証は、医療DX推進の重要な一歩であり、国民の健康増進、社会保障費の適正化に大きく貢献するものだ。PHR実現という未来を見据え、医療イノベーションを加速させるためにも、国民一人ひとりの理解と協力が不可欠となる。

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ライター:

株式会社Sacco 代表取締役。一般社団法人100年経営研究機構参与。一般社団法人SHOEHORN理事。週刊誌・月刊誌のライターを経て2015年Saccoを起業。社会的養護の自立を応援するヒーロー『くつべらマン』の2代目。 連載: 日経MJ『老舗リブランディング』、週刊エコノミスト 『SDGs最前線』、日本経済新聞電子版『長寿企業の研究』

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