「CSRDとは何か?」
「CSRDを適切に理解し、自社のサステナビリティ対応をいかに推進・戦略化すべきか?」
この記事は、そんな悩みにお答えしていきます。
近年の企業の社会的責任における大きな流れとして、CSRDが注目されています。
2023年1月5日に発効したこの規定は、企業による環境、社会、ガバナンス情報の報告を義務付けるもので、企業が果たすべきサステナビリティについて具体的に示すことが求められています。
そのため、CSRDに関する理解がないままだと、市場の信頼を喪失することになり、従業員、顧客、サプライヤーなどのステークホルダーとの関係が悪化する恐れがあります。
そこで、この記事では以下の内容を解説していきます。
・CSRDとは
・CSRDの目標
・日本企業に求められるCSRDへの対応
大企業の経営者・役員はもちろん、中小企業、非上場企業の経営者や、サステナビリティ対応の推進・戦略策定を担当する方々にとって、お役に立てる情報をご提供いたします。
サステナビリティはただの流行や傾向ではなく、企業経営の新たなスタンダードとなりつつあります。その中心にあるCSRDを理解し、適切な戦略を立てることで、持続可能な経営を実現しましょう。
CSRDとは
CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive、企業サステナビリティ報告指令)は、2023年1月5日にEU(欧州連合)内で企業のサステナビリティ情報開示の強化を目的に発効された新しい規制です。
CSRDはEU法制度のうち指令としての位置づけを持ち、加盟国は発効から18か月以内に国内法を制定する義務があります。
CSRDが提案された背景
CSRDの前身であるNFRD(Non-Financial Reporting Directive:非財務報告指令)は2014年に導入され、大企業に対し環境、社会、従業員、人権、汚職、贈収賄などの非財務情報の開示を義務付けていました。
しかし、NFRDの適用範囲と開示基準が十分に明確ではなく、情報開示の質が統一されていない点が問題視されていました。
CSRDが提案された背景には、CSRDの前身であるNFRDを改正し、企業によるサステナビリティ報告の質を強化するという狙いがあります。
CSRDの目標
CSRDの長期的な目標は、EU全体で気候リスクを軽減し、持続可能性を向上させることです。
EUは2050年までに気候中立を目指し、温室効果ガスを実質ゼロに減らす「欧州グリーンディール」に向けて、非財務情報のさらなる開示ルール策定が急務の課題として挙げられていました。
そこで、議論の末に策定されたのがより実効性のあるCSRDです。
CSRDは環境への影響評価が必須であり、12項目ある基準のうち、環境分野では温室効果ガス排出量などの開示項目が気候変動基準として報告されています。
CSRDとNFRDの違い
CSRDはNFRDの基本的な枠組みを踏襲しつつも、いくつかの重要な変更が加えられています。この章では、NFRDがCSRDに変わってどのような点が変更になったのかについて詳しく解説していきます。
適用対象の拡大
CSRDではNFRDに比べて、適用対象が大幅に拡大されました。NFRDでは約11,000のEU企業が対象でしたが、CSRDによりその数は約50,000のEU企業にまで増加すると予想されています。
この変更は、EU内の子会社や支店を持つ非EU企業にも適用されることを意味し、EUの規制市場に上場している大企業だけでなく、中小企業も含めたより広範な企業群が対象となります。
この拡大は、持続可能性に関する報告の範囲を大幅に広げ、より多くの企業に対して環境および社会的影響についての透明性を高める責任を課すことで、EU全体の持続可能な経済発展を促進することを目的としています。
サステナビリティ情報の保証(第三者保証)を義務化
CSRDの導入により、サステナビリティ情報の第三者保証が義務化されました。第三者保証とは開示された情報を独立した第三者が評価する手段であり、この第三者保証を受けることで、
- 正確なデータの把握管理
- ステークホルダーからの信頼性の向上
- ESG関連の外部評価の向上
につながります。
2023年12月現在では「限定的保証」が求められていますが、2028年までには、CSRDの対象となっている企業にとって「合理的保証」が現実的であるかを評価し、現在財務諸表に求められている基準と同等の合理的保証の基準を採用する予定となっています。
EUの新サステナビリティ基準に基づく開示義務化
CSRDでは新たなEUサステナビリティ開示基準(ESRS)に準拠した開示を義務化しています。
この変更は、企業に対して環境、社会、ガバナンス基準に基づく報告要件を設けることを意味しており、各業界や企業に関連する特定の問題に基づいて情報を報告することが求められます。
さらに、持続可能性に関する情報の報告においては、「ダブルマテリアリティ」の原則が採用されています。
この原則は、企業の活動が環境や社会に与える影響と、環境や社会の変化が企業の業績に与える影響の両方を考慮することを求めています。
マネジメントレポートでの開示を義務化
CSRDの導入により、企業がマネジメントレポート内で持続可能性情報を開示することが義務化されました。
この変更は、年次報告において持続可能性に関する情報を統合し、ステークホルダーへのアクセシビリティを向上させることを目的としています。
これにより、企業は自社の戦略、目標、経営陣の役割、持続可能性に関する取り組みなどの詳細な情報を提供することが求められます。
この義務化によって、企業が取り組む環境および社会的な課題に対する透明性が高まり、ステークホルダーが企業の持続可能性へのコミットメントや実践をより深く理解できるようになることが期待されます。
デジタル形式での開示
CSRDではデジタル形式での開示報告が義務付けられました。この変更により、企業は情報を機械可読形式で提供し、欧州単一アクセスポイント(ESAP)を利用可能にすることが求められます。
具体的には、欧州単一電子フォーマット(ESEF)規制に従って情報をデジタルタグ付けすることになります。
これは、EUのデジタルファイナンス戦略の一環であり、ファイナンス部門データのアクセシビリティと再利用を向上させることを目的としています。
デジタル化により、企業の持続可能性に関する情報がより広く、簡単にアクセス可能になり、データの透明性と利用のしやすさが大幅に向上します。
これによって、ステークホルダーは企業の持続可能性に関する情報を効率的に分析し、評価することが可能になります。
日本企業に求められるCSRDへの対応
2023年1月5日にCSRDが正式に施行され、同日に法的効力を持ち始めました。これにより、関連するすべてのEU企業はこの指令に従うことが義務付けられています。
CSRDの対象企業は「大企業」および「零細を除くEU域内上場企業」です。CSRDはEUの規制であるため、欧州に子会社を持つ日本企業は対応が必要です。
EU圏内で一定規模の事業を展開する日本企業に対しては、連結ベースでのサステナビリティ情報の開示が求められる可能性があり、企業グループにも対応が求められることになります。
2025年度〜2028年度までにはCSRDの対象企業は以下のように定められる予定です。
適用会計年度 | 対象企業 | 備考 |
(2024会計年度)2025 | EU上場企業 | NFRDの対象となっている従業員500人以上の企業 |
(2025会計年度)2026 | NFRDの対象ではない大企業
| ・総資産残高が2000万€以上 ・純売上高が4000万€以上 ・従業員が250人以上
の条件のうち、2つ以上を満たす企業が対象
日本企業が持つ欧州系の子会社が大企業にあたる場合、2025年会計からCSRDによる開示が義務になる |
(2026会計年度)2027 | 中小上場企業
| ・総資産残高35万€ ・純売上高70万€ ・従業員数10人 の条件のうち、2つ以上を満たす企業が対象 |
(2027会計年度)2028 | EU域外企業
| ・EU域内の子会社が大規模、上場企業 ・EU域内にある支店の売上高が4000万€以上
のすべての条件を満たし、EU域内の売上高が1億5000万€以上の企業が対象 |
CSRD基準を満たしていて、欧州に子会社を持つ日本企業は、早ければ2025年にも申請が求められ、2028年からは企業規模に応じてEU外の親会社にもCSRDに基づく報告が要求されます。
日本企業はCSRDへの対応として、EU内にある子会社がCSRDの定義する大企業に該当し、2025年からの適用対象となるか、または、EU内に売上高の大きい子会社を有していることにより、 2028年からのEU外でのCSRD対象かどうかを確認する必要があります。
2028年からはEU外適用の場合にも連結ベースでの報告が義務付けられるため、ESRSの動向を見極めながら社内の情報収集・開示体制の整備の継続が求められるでしょう。
CSRDは非常に複雑かつ広範囲にわたり、なおかつ第三者保証も求められていることから、内部統制や体制整備の観点から情報の収集・集計を検討することが重要です。
まとめ
CSRDとは?企業が新たに求められるサステナビリティ対応について紹介しました。
近年、SDGsやサステナブルな事業計画が求められる中、企業の社会的責任における大きな流れを汲む「CSRD」は、すべての企業が果たすべき責任となります。
本記事を参考にCSRDの概要を理解し、投資家や消費者に対して責任ある情報提供を推進いただければ幸いです。
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