
東京・銀座の夜に、新たな大型店が誕生した。11月2日にオープンした銀座BARCELONA萌葱(もえぎ)だ。北海道・すすきので名をはせるバルセロナグループが、銀座8丁目の一等地に2フロアを構えて初進出。元ジャングル銀座の人気キャバ嬢・五代きこ、元ジャングル東京のたまごあゆみらを迎え、華々しい船出となった。
ところが、シャンパンの泡も消えないうちに、何とも物騒な噂が銀座界隈で取り沙汰されている。
「ビルオーナーと揉めているらしい」「クラブしか営業できない物件でキャバクラを開いたことが問題になっている」「最悪の場合、退去もあるのではないか」
真偽不明ながら、そんな話が夜職関係者の情報発信を通じて広まり、11月5日には閉店の可能性を心配する声まで飛び出した。オープンから、わずか3日。いくら夜の商売は浮き沈みが激しいとはいえ、さすがに展開が早すぎる。
店名は新緑を思わせる「萌葱」。ところが、早くも「燃え木」となって、残るのは灰ばかりなのか。もっとも、訴訟や退去要求が実際にあったことを裏付ける資料は確認されていない。では、いったい何が騒動の火種になっているのか。
銀座8丁目の名門ビルに進出、老舗クラブと同居する「萌葱」
銀座を知る人なら、夜の8丁目が特別な場所であることはご存じだろう。
高級クラブの名門グレやサードフロアー、ジャンヌダルクなどが入る通称ポルシェビル(奥村プラッツビル)、ドラマ『黒革の手帖』のロケ地としても知られるウォータータワービル、銀座会館やピアースビル。銀座8丁目には、建物の名前そのものが夜の街のブランドになっている有名ビルが集積している。
萌葱が入居したGINZA8ビルも、そうした銀座の高級クラブ街を構成する一棟だ。2015年竣工、地下1階・地上8階建て。金春通りに位置する比較的新しいビルだが、そのテナントの顔ぶれは銀座らしい。
2階には高級会員制クラブ「Rodpis(ロドピス)」、5階には「bijou(ビジュ)」、6階には唯吹明日香ママが経営する「Blair(ブレア)」が店を構える。4階には会員制ラウンジ「Lounge Lilyth(リリス)」も入る。
かつて地下1階と1階には、大型高級クラブ「夜想曲(ノクターン)」が入居していた。こちらは2025年1月に閉店している。
つまり、銀座の名だたる高級クラブが集まる建物の上層2フロアを、すすきのからやってきた新興勢力が押さえた格好だ。
2025年度のグループ売上高142億円を公表するバルセロナ。波戸崎崇社長が率いる同社にとっても、東京・銀座への進出が重要な挑戦であることは想像に難くない。しかし、銀座では金を積めば何でもできるというわけではない。そこには、長年の商慣習と独特の格式が息づいている。
「クラブしか営業できない」は本当か? 意外なテナント履歴
今回の騒動で、最も気になるのが「クラブ以外の営業が禁止されている」という噂だ。そもそも銀座の高級クラブとキャバクラは、似て非なる商売である。
キャバクラは人気キャスト個人への指名が売上を左右する。一方、伝統的な銀座の高級クラブはママや「係」と呼ばれるホステスを中心に、複数の女性が協力して顧客をもてなす仕組みだ。
銀座8丁目で高級クラブ「Nanae」を経営する唐沢菜々江ママは、2020年のLuLINE Magazineのインタビューで、両者の違いをこう説明している。
「クラブはチームプレーなので」
係の女性が客の好みを把握して席を采配し、接客した女性たちが顧客とのやり取りを報告する。いわば組織ぐるみで顧客との関係を育てるのが銀座流なのだ。
では、萌葱はどうか。
バルセロナグループは公式会社概要で事業内容を「ニュークラブ(キャバクラ)の運営」と明記している。萌葱の料金も60分1セットで、入店時間によって6,000~1万2,000円。指名料は1時間3,000円、延長料金は30分6,000円という、典型的なキャバクラ型だ。
一方、店舗の公式ページには「銀座クラブ BARCELONA 萌葱」との表記もある。
ただし、法律上、客への接待を伴う高級クラブとキャバクラは、基本的に同じ風営法上の1号営業に分類される。銀座8丁目だからキャバクラを営業できないという法律もない。そうなると、問題はビル側との契約内容になる。
しかも、GINZA8ビルの3階には、かつて広東料理の名店「中華たかせ」が入居していた。家庭画報は2017年、高瀬健一シェフが手掛ける完全予約制の高級中華料理店として紹介している。まぁ、ブランド力のあるレストランは違う話といえば違う話だが、建物全体がクラブ以外の営業を認めないというのはどこまで徹底しているのかは判然としない話となっている。
もっとも、各階の賃貸借契約で業種を制限することはあり得る。今回の7・8階だけに特別な条件が付いていた可能性も排除できない。
銀座のママが語っていた「昔なら考えられない」変化
実は、銀座8丁目では数年前から大きな地殻変動が起きている。コロナ禍以降、高級クラブの牙城だった銀座に大型キャバクラグループが相次いで進出した。2025年4月には、六本木で勢力を広げたジャングルグループが「JUNGLE TOKYO GINZA」をオープン。高級クラブの集まる銀座8丁目の有名ビルに大型店舗を構えた。
そして今回、そのジャングルから人気キャストを迎えたバルセロナが、別の高級クラブ集積ビルに進出したわけだ。
こうした変化に、銀座のママたちも無関心ではない。銀座8丁目で「ル・ジャルダン」を経営する望月明美ママは、2024年9月の集英社オンラインの取材で、かつて銀座の有名ビルに店を構えるには厳しい審査があり、資金力だけでは借りられなかったと振り返っている。
ところが最近は、ビルオーナーの交代などを背景に、地方のキャバクラ店が有名ビルに入ってくるようになったという。
望月ママはこの変化について「ひと昔前では考えられなかったことです」と語っていた。銀座のビルには、それぞれ歴史があり、ママたちが守ってきた秩序がある。その一方で、オーナーが変われば経営方針も変わり、時代に合わせてテナントの顔ぶれも変わっていく。
今回の萌葱の騒動は、そんな新旧勢力のせめぎ合いが表面化したものなのか。それとも、単なる情報の錯綜なのか。
少なくとも、銀座のクラブ文化と大手キャバクラグループの経営手法の間には、無視できない違いが存在する。
萌葱ならぬ「燃え木」? 銀座進出の野望を襲った開店早々の怪情報
バルセロナが銀座に投入した顔ぶれは豪華だ。ジャングル銀座で知られた五代きこに、六本木のジャングルから移籍したたまごあゆみ。両者ともバルセロナの公式サイトで紹介されている。
内装にも力を入れ、2フロアを使った大型店を開業。銀座の老舗クラブにはないSNS発信力を生かして、顧客を呼び込もうという意気込みがうかがえる。
それだけに、オープン直後の退去説は何とも水を差す話だ。仮に賃貸借契約上の用途違反があったとしても、直ちに退去が決まるわけではない。契約内容や違反の程度、貸主との信頼関係などによって結論は変わる。
そもそも、今回の騒動については契約違反自体が確認できていない。
華々しい船出から、わずか数日で閉店説まで飛び出すとは、噂の回り方まで銀座は一流ということか。
ただ、真相がどうであれ、今回の一件が浮き彫りにした構図は興味深い。札束とスターキャストを武器に乗り込んできた新興勢力と、長年の信用と商習慣を重んじる銀座の老舗クラブ。その境界線が急速に曖昧になりつつある。
萌葱は銀座に新しい芽を吹かせるのか。それとも、夜の街に立ち上った噂に焼かれ、燃え木となって灰を残すのか。シャンパンの栓を抜いたばかりの銀座の新名所は、思いがけない形で注目を集めている。



