ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

日付のない念書が暴いた上場前夜の3000万円 BlueMeme不正会計問題

コラム&ニュース コラム
リンクをコピー
BLUEMEME
BlueMeme社のHPより

IPO審査の土壇場で計上された原価ゼロの売上。それは最初から「全額返す」約束付きだった。社長の個人実印が押された一枚の紙は、6年間、経営管理部長の個人フォルダに眠っていた。

※本稿は、株式会社BlueMeme(東証グロース・4069)が2026年9月8日に公表した特別調査委員会「調査報告書(公表版)」および同日付適時開示に基づく。登場人物の表記(Z氏、D氏等)は公表版の匿名化に従った。業績への影響額は監査手続継続中の暫定値である。

 

「割と、この取引はマジメにヤバいよ。」

2025年11月18日、夜10時44分。ローコード開発を手がける上場企業BlueMemeの社長だったB氏のもとに、幹部のE氏から一通のチャットが届く。派遣技術者の外注費削減を検討していた最中のことだった。

「a2社の残債についてBさんにお伝えできていなかったので――2020年3月にa2社から以下の契約で3350万円を借入れています。a2社から技術者を仕入れる際に、仕入値を少し上乗せして返済しています」

添付されていたのは、2020年3月30日付のソフトウェアライセンス契約書と、「返済」の管理表。このままのペースなら完済は2028年2月になる想定だという。

売ったはずのソフトの代金を、外注単価に上乗せして少しずつ「返済」している――。B氏は問い返す。「3000万円でBMからa2社にソフト売ったと言う契約書と、それは実質債務で、a2社に3000万円に総額になるまで発注を続けていると?」。E氏の答えは「はい。そうです」。

B氏のチャットが、この事件の本質を一言で言い当てている。

「割と、この取引はマジメにヤバいよ。」

その5年半前に何があったのか。特別調査委員会の報告書は、上場を目前にしたベンチャー企業の内側を、チャットとメールの生々しい記録で再現していく。

 

「脱・SIer」を掲げたローコードの旗手

BlueMemeとはどんな会社か。2006年設立、東京・神田錦町に本社を置く従業員159名(連結)のIT企業だ。手がけるのは「ローコード開発」エンジニアが書いた設計書をもとにプログラマーが一行ずつコードを書いていく従来型のシステム開発から、プログラミング作業のほとんどを自動化してしまう手法である。

日本企業のシステム開発は長らく、システムインテグレーター(SIer)に大人数のエンジニアごと”丸投げ”するのが主流だった。BlueMemeはこの構造への挑戦を掲げ、ローコード技術と、変化を反復的に取り込みながら開発を進める「アジャイル手法」を組み合わせることで、少人数・短期間でのシステム開発と企業の開発内製化を売りにしてきた。2012年には海外のローコード開発基盤を扱うe社と日本初の販売代理店契約を締結。受託開発やエンジニア教育などの「プロフェッショナルサービス」と、開発ツールの「ソフトウェアライセンス販売」の二本柱で事業を展開する、いわばこの分野の国内草分けである。

そのビジネスモデルの一つが、本件の伏線となる。パートナー企業から相場より安い委託費で経験の浅い技術者を受け入れ、ローコード技術を教育したうえで、より高い単価の受託開発に投入する――a1社との技術者派遣の取引も、2017年にこの枠組みで始まったものだった。

人物関係も整理しておこう。Z氏は2010年5月から代表取締役社長を務めた、事実上の”顔”である。2025年6月に取締役会長へ退き、後任社長に就いたのがB氏。だがB氏も2026年2月13日に退任しており、報告書は当時、両氏の間で経営権を巡る対立が激化していたと記している。冒頭のチャットは、この社長交代の狭間で交わされたものだ。5年前の取引を、新社長は知らされていなかった。

 

「売上不足額1.5億円の対策」

BlueMemeは創業当初から株式上場を目標に掲げ、遅くとも2015年には上場準備を開始していた。だが道のりは険しい。2019年6月上場目標は主幹事証券会社の審査を通る見込みが立たず頓挫。同年8月には、上場準備を担うCFOのI氏が社内に報告している。

「結論からすると、9月申請は難しいと言われました」「4~7月の月次決算が全て未達成」「修正予算の利益は絶対達成できるよう保守的に」

同年11月、I氏が経営陣に送ったチャットの議題は、こうだった。

「今日の証券会社打ち合わせの後話したい事。(1)売上不足額1.5億円の対策」

予算は2019年9月と2020年3月の二度にわたり下方修正された。それでもなお、報告書によれば、ある取引の売上3000万円がなければ、再修正後の予算すら達成できない状況にあった。

その取引の相手が、2017年から技術者派遣で付き合いのあったa1社である。2020年1月、Z社長がa1社向けに作成した提案資料には、率直すぎる一文が並んでいた。「現在、2020年6月のIPOを目的で審査を実施中」「今期に新規事業の立ち上げができた場合、東証マザーズへの上場申請を進めることができる」。

この資料をI氏が証券会社への説明に使いたいと求めた際の、Z氏の返信が残っている。

「IPOするために利益をください、って書いてあるよ。だいじょうぶ?」

 

押印直前に「逆算」された価格表

問題の取引は、BlueMemeが自社開発した「共通部品一式」の使用権をa1社に許諾し、3000万円を受け取るというもの。開発費は既に販管費で処理済みのため、売上原価はゼロ。計上すれば、ほぼそのまま利益になる。

だが報告書が認定した事実は、契約の体裁を次々と崩していく。契約書末尾の「2020年3月30日」は実際の押印日と異なるバックデート。別紙の部品一覧表は顧客向け資料ですらなく、社内整理用に作られたカタログだった。各部品の単価に至っては、押印直前の2020年4月10日、総額3000万円を前提に開発工数から案分して”逆算”されたものだ。D氏は社内チャットにこう書いている。

「作成にかかった工数をもらって私の方でその比率で価格設定しました。ロジックは問題ないとZさんにも確認してもらっています」

そして決定的な一枚が現れる。「共通部品一式の取引に関する念書」。取引成立を条件に、Z氏が業務委託費単価の「増額分」等として総額3350万円をa1社側に支払うことを約束する内容だった。宛名はa1社社長、署名はZ氏の個人名。押印は登記に使う個人の実印で、D氏が同実印の使用を見たのはこの一度きりだという。日付欄は――空欄のままだった。

公平を期せば、この念書はBlueMeme側が発案したものではない。a1社側が用意してZ氏に署名を求めた文書であり、受け取ったa1社のH氏も「会社としての正式な文書にはしたくなかった」として個人で保管していた。委員会も「取引先からの求めに応じた側面はある」と留保する。それでも、と報告書は続ける。念書の差入れとその隠蔽の目的は、やはり売上と利益の嵩上げによる通期予算の達成と黒字化にあったとみるべきである、と。

3000万円の売上は、最初から全額返す約束とセットだった。委員会の結論は明快である。本件は実態として「共通部品一式を無償で使用許諾する取引」であり、2020年3月期の売上3000万円は過大計上、と。

 

黒字は、この取引で「作られて」いた

効果は劇的だった。2020年4月の取締役会資料は誇らしげに報告する。「a1社サービス30百万円、b社データベース買切27.6百万円を計上したことが大きく寄与し、予算に対し+12.4百万円」――売上高、営業利益、経常利益ともに予算超過の見通し、と。

このとき並んで計上された「b社」への27.6百万円も、今回の調査で不正認定された。こちらは実際のライセンス利用開始(2020年4月以降)とは異なる日付の受領書を営業担当者が取引先から入手した売上の前倒し計上で、委員会は「積極的に財務諸表の利用者を欺く意思や目的があったとは言い難い」としつつも、意図的な受領書の偽造による不正な財務報告と結論づけている。

今回の暫定値による修正で、決算の正体が数字に表れる。

修正の暫定影響額(2020年3月期・連結)

  • 売上高:1,800百万円 → 1,743百万円(△57百万円)
  • 営業利益:31百万円 → △2百万円(黒字→赤字転落)
  • 純資産:358百万円 → 324百万円(△9.5%) ※税金費用を考慮しない暫定値。監査手続により変動の可能性あり
 

IPO直前期の黒字は、赤字だったのだ。BlueMemeは翌2021年6月29日、東証マザーズに上場を果たしている。

一方の「返済」は着実に進んだ。2020年6月以降、a1社系の技術者の外注単価は増額され、双方が管理表で「回収」「返済」の残高を突き合わせた。単価と無関係な作業の対価まで、無償で返済分に充当されていたという。

念書はどこにあったのか。売上証憑を一括保存する社内システム「Blue SAT」には登録されず、他の役職員がアクセスできないD氏の個人フォルダに、管理表とともに保管されていた。2020年10月、当時の監査法人EY新日本がZ氏らと面談した際も、念書の存在は一切説明されなかった。

「絶対に勝たなければなりません」 迷走した4カ月

 

発覚後の会社の対応も、報告書は容赦なく描く。

B氏は2025年11月20日、常勤監査役A氏に疑義を報告した。だが監査役会は、B氏とZ氏の経営権を巡る対立が激化していたことなどを理由に、B氏退任後に確認するとの方針を取り、約3カ月間、調査を開始しなかった。監査法人にも共有せず、2026年2月にあおい監査法人の側から報告を受けて、ようやく動き出す。

外部弁護士らによる当初調査が始まっても、Z氏もD氏も念書の存在を語らなかった。この間、監査役間で交わされたメールが報告書に引用されている。

「厄介なのは監査法人の思い込みです」「絶対に勝たなければなりません。こんな馬鹿げた話で、Zをローコード業界から退場させる訳にはいかないのです」

念書が発覚したのは2026年4月7日。あおい監査法人が過去のメールの一文――「先般私の方からお渡しした書類に、Z社長のご署名はいただけましたでしょうか」――に着目し、書類の確認を求めたことが突破口となった。D氏は個人フォルダから念書を取り出した。

それでも当初調査は5月、「Z氏による『不正』会計であると断じることまではできない」と報告。監査役会はこれを「妥当で適切」と評価した。流れを変えたのは前任監査人EY新日本の再調査要請である。6月11日、外部専門家のみで構成される特別調査委員会が設置され、デジタルフォレンジックとのべ8時間超のZ氏ヒアリングを経て、9月4日、結論が示された。

証憑の隠蔽による意図的な虚偽表示。監査基準報告書240の「不正」および「不正な財務報告」に該当する経営者不正――。

 

「会計知識の不足」では済まされない

Z氏は委員会に対し、念書に会計上の問題があるとの認識はなく、D氏が「問題ない」と言ったから署名したと繰り返した。委員会の評価は厳しい。会計リテラシー不足という次元の問題ではなく、「事実に反する言い逃れや責任転嫁の供述に終始しており、上場会社の経営者としての誠実性についてはやはり大きな問題がある」。まさに経営トップがその立場を利用して内部統制を無効化した事案、と断じた。

もっとも報告書は、Z氏が過度な業績ノルマで部下を追い込んだ形跡はなく、不正な財務報告への関与はこの1件のみとも付記している。歪んでいたのは組織全体ではなく、上場という悲願を前にした一点だった――そう読める記述だ。

会社は9月30日までに過年度の有価証券報告書等の訂正報告書を提出し、2026年3月期の有報提出と決算発表を行う予定。再発防止策は「確定次第速やかに公表」するという。

日付のなかった念書に、日付が入ることは最後までなかった。だがその一枚が、上場前夜に作られた黒字の正体と、発覚後もなお「勝つこと」を目指した組織の姿を、6年越しに白日の下にさらした。

 

Tags

ライター:

ライターアイコン

寒天 かんたろう

> このライターの記事一覧

ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

関連記事

タグ

To Top