
北中米ワールドカップは準決勝に入り、スペインがフランスを2-0で退けて決勝進出を決め、もう一つの席をイングランドとアルゼンチンが争う。強豪国が一手の重みを競うなか、日本はブラジルに1-2で敗れ、ラウンド32で大会を去った。その熱が残るうちに浮上したのが、森保一監督の後任を大岩剛氏に一本化する人事である。「また日本人監督か」という落胆は理解できるが、大岩氏を森保体制のコピーと決めつけると、この監督が短期決戦で積み上げてきた結果を見落とす。
「世界一」と「継続路線」の間に残る違和感
日本サッカー協会は、2027年アジア杯まで指揮する見通しの森保監督の後任として、U-21日本代表監督の大岩氏を軸に調整し、2027年3月の国際試合からA代表を任せる方向だと報じられた。2028年ロサンゼルス五輪を目指すチームとの兼任も想定されている。森保監督も東京五輪世代とA代表を同時に見ながら久保建英、堂安律、冨安健洋らを主力へ育てたため、協会が同じ仕組みで2030年ワールドカップへの世代交代を進めたい意図は分かりやすい。
それでも反発が収まらないのは、日本代表が世界一を掲げながら、監督人事では変化より連続性を優先したように映るからだ。ブラジル戦で突きつけられたのは、選手の気迫ではなく、相手が圧力を強めた時間帯に守備の位置をどこまで下げ、ボールの出口をどう作り、どの交代で流れを取り戻すかというベンチの仕事だった。そこを検証した末に大岩氏へたどり着いたのか、それとも森保体制を壊さず引き継げる人物から逆算したのか。この順番が見えないため、世界的な監督を招くには費用がかかるという事情まで、協会が無難な着地点を選ぶための言い訳に聞こえてしまう。
日本代表の主力は、所属クラブで異なる国籍の監督から細かな約束事を叩き込まれ、毎週のように欧州の強豪と向き合っている。その選手たちが代表に戻ったとき、個人の経験値を束ねる側に世界基準の設計がなければ、能力の足し算で終わる。外国人なら自動的に強くなるわけではないが、日本人路線を選ぶなら、国籍ではなくブラジル戦で露呈した課題をどう埋めるのかを示さなければ、継続は安心ではなく停滞に見える。
ACL王者を「地味」の一言で消していいのか
ただし、大岩氏に実績がないわけではない。鹿島アントラーズを率いた2018年には、クラブが長年届かなかったACL初優勝を達成し、AFC年間最優秀監督賞を受賞した。水原三星との準決勝第1戦では開始6分までに2点を失いながら、後半に選手と配置を変えてサイドから押し込み、3-2の逆転勝利につなげている。準備した形が崩れたあと、精神論で耐えるのではなく、人を替え、立ち位置を動かし、試合の景色を変えた。大岩氏を「動けない監督」と呼ぶには、この一戦は都合が悪い。
年代別代表でも結果は続いた。2024年のU-23アジア杯を制し、パリ五輪ではオーバーエージ枠を使わずにグループステージを3戦全勝で突破。準々決勝ではスペインに0-3で敗れたものの、ベスト8まで進んだ。さらに2026年のU-23アジア杯では他国より若い編成で連覇を果たし、決勝では中国を4-0で圧倒している。鹿島でアジアを制し、五輪世代でも二度アジアの頂点に立った監督を、協会内の順送り人事だけで説明するのは無理がある。
森保一監督と似ていて、同じではない
森保監督と大岩氏は、理想の戦術へ選手を押し込むより、手元の戦力から勝てる形を探す現実派という点では近い。ただ、森保監督の強みが長期的なチームづくりと選手間の関係構築にあるとすれば、大岩氏は連戦で選手を入れ替え、途中交代を使いながら短期大会を生き残る色が濃い。ワールドカップで日本が何度も止められてきたのは、一度負ければ終わる決勝トーナメントである。派手な戦術家ではなくても、その日の状態から勝ち筋を拾える監督は、日本代表が抱える課題と無関係ではない。
大岩氏が五輪世代を引き続き見る利点も、若手の名前を知っていることだけではない。短い合宿で理解できる役割、国際大会で崩れやすい選手、劣勢でも判断を失わない選手を実戦の中で把握しているため、A代表への昇格を人気や所属クラブの看板だけで決めずに済む。2030年には東京五輪世代の多くが30代へ入る。世代交代を急いで若手へ席を譲るのではなく、現在の主力からポジションを奪える選手を下から送り込めるなら、兼任にも意味は生まれる。
一方で、攻撃の組み立てには不安が残る。大岩氏のチームは守備の均衡を保ち、選手の個性を生かして得点を狙うが、相手の守備を動かす仕組みを繰り返し作り、押し込んだ時間を決定機へ変える部分では物足りなさも見せてきた。欧州の第一線でプレーする選手を集めても、攻撃を個人の判断へ預ければ、強豪国を相手に最後の一線は越えられない。A代表と五輪代表を兼任すれば準備時間も分散するため、攻撃を設計するコーチや分析担当を誰にするかは、大岩氏本人の名前以上に重要になる。
大岩剛氏を「扱いやすい後継者」にしたら終わる
大岩氏への一本化を、世界を知らない日本人監督への後退と切り捨てるのは簡単だ。しかし、ACL優勝、パリ五輪8強、U-23アジア杯連覇という結果は、知名度の低さでは消えない。問題は大岩氏が森保監督より派手かどうかではなく、協会が彼の勝負勘を生かすために体制を作り替えられるかである。
森保監督と同じスタッフ、同じ発想、同じ選考基準を残し、波風を立てない後継者として大岩氏を置くなら、監督交代は看板の掛け替えに終わる。大岩氏が物足りないのではない。結果を残してきた監督を「扱いやすい日本人」に縮め、世界一より組織の居心地を守ろうとする人事なら、それが一番物足りない。



