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企業が見誤ってはいけない「ステークホルダーと交わすべき約束」

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約束のゆびきりの画像

1.ブランドがステークホルダーに対して提供すべきもの

世界的に見て、ブランディングの歴史は思いのほか長く深い。近代以前から、ワインの産地をラベルに記載するなどのブランディングは存在していた。古代遺跡で発掘された石器などには、職人のものと思われるサインが刻印も見つかっている。

日本でも江戸時代には、屋号というかたちでブランドを確立していた商売人も多い。三越の前身である越後屋は、現代まで続く日本有数のブランドだ。

しかし、この「ブランド」とは何を指すのだろうか。書籍『ブランディング』(中村正道著、日経文庫)にヒントが書かれている。

「ブランドとは、企業が顧客や従業員などのステークホルダーがと交わす「約束」です。企業が存続するために、ステークホルダーに対して何を約束するのか? 言い換えると、どんな約束に対してお金を払ってもらえるのか? です。それこそが、ステークホルダーにとって企業が存在する理由に他なりません。」(『ブランディング』より)

著者の中村氏は、外資系ブランディング専門会社インターブランドで、様々なブランドを成長させ、企業価値向上を図ってきた。中村氏は、企業理念の中にブランドの約束を見出せるとし、例としてスノーピークの企業理念と事業活動を分析。

スノーピークはアウトドア総合ブランドのトップを走る企業で、コーポレートメッセージは「人生に、野遊びを。」 同社が提供する自然との触れ合い体験の実現を通して、消費者の「人間性の回復」を担うことが社会的使命と掲げている。

アウトドアというと山や川、キャンプ場で楽しむものと捉えられがちだが、スノーピークは住宅や職場に野遊びの要素を取り入れる「アーバンアウトドア事業」や「キャンピングオフィス事業」を創出。企業理念(ステークホルダーとの約束)に沿った事業創出によって、新規事業開発や市場価値創造に成功し、消費者からの支持を集めている。

2.日本企業誤解しがちなブランディングの本質

ブランドとはステークホルダーとの約束だという考えに、いまひとつピンと来ない人も少なくないだろう。というのも、日本ではブランドに対して誤解が発生しがちだからだ。日本企業が陥りやすい誤解のひとつが、「企業名=ブランド」というイメージである。

「ブランディングにおいては、原則として企業名とブランドは、明確に分けて考えるべきものです。なぜなら「ブランドの体系」とは、企業の現状を「正確に」表すことではなく、企業がステークホルダーに「どう見られたいか」を戦略的に設定した受け皿となる器(ブランドのインフラ)であり、これによってステークホルダーに意図した知覚を形成することが可能になるからです。」(『ブランディング』より)

企業名、いわゆる社名は商号とも呼ばれ、人間個人でいう氏名に当たる。会社設立の際には登記簿に記載される項目であり、登記上の制限が定められているのが特徴だ。社名の由来は企業によって様々だが、創立者の氏名や理念が影響していることもある。そうした社名がブランドイメージを想起させる企業も少なくない。トヨタ自動車はその代表格だろう。

しかし、企業が創出する価値すべてが社名にフィットするとは限らない。創出したモノやサービスをどんな消費者に届けたいのか、生産や開発プロセスにどんなストーリーがあるのかなど、ブランドを通して伝えたいことは社名では表現しきれないことも多い。

さらに、ブランディングを担うのは企業の広報部門だと限定するのもまた、日本企業が陥りがちな誤解であるという。たしかに部門ごとに仕事を分ける分業スタイルは効率性が高い。しかしブランディングは、基本的には全社で取り組むべき戦略だ。

前述したようにブランドをステークホルダーと交わす約束と捉えるならば、消費者やクライアントなど幅広いステークホルダーに対して、自分たちがどんな約束を果たすべきか理解しておかなくてはならない。

たとえば消費者と直接コミュニケーションをする販売員、自社の商材の魅力をクライアントに伝える営業もまた、ブランディングの構成員の一人だ。

書籍『ブランディング』でも、「「全体最適」の観点で、ブランド体系を整備・マネジメントすることによって、企業はブランドのアイデンティティを明確にし、顧客の知覚を自社の望む方向に導くことができます。そのためには、戦略的に、意図した活動の受け皿をどこに設定するか、全社レベルで、明確な意志を持つことがきわめて重要となります。」と指摘している。

社内の齟齬を防ぐためにも、あらゆるシーンを想定したブランドガイドラインの作成は効果的だろう。インテリアブランドの「Francfranc(フランフラン)」は、ブランドデザインガイドラインを作成し、インターネット上で公開している。ブランド誕生のエピソードや自社の哲学、ロゴのスタイルガイドを掲載し、社内外に向けてブランドが持つメッセージを発信している例である。

3.顧客の本音から築き上げるブランディングが強い理由

インターネットが発展した現代におけるブランディングでは、オンライン上での顧客コミュニケーションも重要となる。

「最近では、オンライン上のコミュニティ・プラットフォームを活用し、顧客同士の対話、顧客と従業員の対話を通じた新たな顧客インサイトの発見や、顧客との深く長い関係づくりを基軸においた取り組みが主流になり始めています。」(『ブランディング』より)

同書では、人間を動かす隠れた心理である「インサイト」が、ブランドの中核概念を導き出す鍵となるとし、顧客の潜在的・本能的な声「ヒューマントゥルース」に耳を傾ける必要があると解説。

従来の顧客のニーズを探る方法といえば、アンケートやインタビューなどが代表的だ。ただし、アンケートは企業があらかじめ設定した設問に答える形式が多く、抽出できるニーズが限定されやすい。自由回答のアンケートもあるが、任意回答の形式が少なくないだろう。

インタビューにも課題がある。対面形式であるがゆえに、回答者が緊張したり本音を隠してしまうおそれがある。

オンラインコミュニティの匿名性、時間や場所を問わずに気軽に意見を投稿できる利便性は、顧客が本音を発信しやすい環境づくりに寄与しているだろう。

これからの時代のブランディングは、いかにしてステークホルダーの内側のニーズを掬いあげるかが重要となる。企業がサスティナブルに事業活動を行っていくためにも、ステークホルダーと交わすべき約束を見誤ってはいけない。オンラインコミュニティの発達など、時代やIT技術の発展を活用しながら、互いの結びつきを強めていくことが期待される。

<書籍情報>

『ブランディング』(中村正道著、日経文庫)

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