
東京・麻布十番の夏祭りで振る舞われた一杯の蟹ラーメンが、YouTube発の飲食店を揺るがしている。8月26日の時点では男女6人だった体調不良の申告が、28日までに76人へと急拡大した。「闘う料理人」を名乗り“ミシュランの星”を公言してきたこめお(本名・沼倉大将)の屋台をめぐり、港区保健所が集団食中毒の可能性も視野に調査を進める中、実業家の堀江貴文氏が旧知の因縁を交えて苦言を投じ、騒動は食の安全と発信者ビジネスの信頼という、もう一段大きな問いに広がりつつある。
6人から76人へ、2日間で膨らんだ申告
第60回麻布十番納涼まつりが開かれた8月22日と23日、こめおが手がける屋台は蟹ラーメンを販売した。報道によれば、港区保健所には26日昼ごろから連絡が入り始め、5グループ、男女6人が下痢や嘔吐、発熱、腹痛を申告し、一部は医療機関を受診した。祭りの2日間で提供された蟹ラーメンは少なくとも約445食に上る。
ところがその後、SNSでは25日夜から26日にかけて39度前後の発熱や強い腹痛を訴える投稿が相次いでいたことが明らかになり、28日までに保健所へ届け出た人数は76人へと膨らんだ。重症者は確認されていないが、わずか2日でこの規模まで申告が増えたこと自体が、騒動の広がりを物語っている。原因物質と発生源はまだ特定されておらず、蟹ラーメン以外の飲食物を口にした人も含まれるため、保健所は発症までの時間や共通の食事歴を丁寧に照合している段階だ。
「700食余った」投稿と使い回し疑惑
火に油を注いだのが、初日の悪天候だった。22日は激しい雨のため午後9時までの予定を切り上げ、午後6時ごろに祭りを終了している。こめおはこの日、自身のXで「700食余ってしまった」と投稿し、翌日の天候回復を願った。23日は予定通り開催されたが、この投稿を受けてSNS上では、雨で売れ残った食材が翌日の販売分に回されたのではないかという使い回し疑惑が広がった。
こめおは後に「使用した事実はありません」と明確に否定している。23日に提供された分の現物はすでに調査開始時には残っておらず、保健所は店舗調理場への立ち入りや食材の収去、従業員の検便などから裏付けを進めている状態だ。食中毒として正式に認定されるかどうかは、病原体の検出結果に加え、発症時期や共通の食事歴といった疫学的な一致が揃うかにかかっている。
堀江貴文が持ち出した「化学調味料論争」の続き
8月31日、実業家の堀江貴文氏が自身のYouTubeでこの騒動に触れた。「リアルバリューでこめおとはバチバチにやっているのは、皆さんご存じだと思います」と切り出したのは、こめおが無添加や無化調のラーメンにこだわりを見せた際、堀江氏が化学調味料を使わない理由を問い詰め、対立した経緯を踏まえてのことだ。堀江氏はその上で「無化調のラーメンを出すこだわり以前に、食品衛生上の対策しろよなと。これが本当だとすると、僕はちょっと残念な気持ちになった」と述べた。
無添加という言葉が運んでくる安心のイメージと、実際に76人が体調を崩したという結果のあいだにある落差を、かつての論敵という立場から突いた格好である。
「割烹こめを」と「かにを」、混同される二枚看板
祭りの公式ガイドで出店者名として記載されていたのは「割烹こめを」、商品名は「こめを冷やしカニラーメン」だった。一方でこめおは2026年5月、東京・浅草に蟹ラーメン専門店「かにを」を別に開業しており、SNSでは今回の騒動を「かにをの蟹ラーメン」と呼ぶ言及も広がったが、祭りの公式表記はあくまで「割烹こめを」である。
この「かにを」も開業直後、カニの原産地をめぐって批判を浴び、中国産やインドネシア産、タイ産の使用を認めながら食品偽装は否定するという別の騒動を経験している。看板を使い分けながら知名度を広げてきたブランド展開そのものが、今回は火消しを難しくしている面もある。
屋台グルメと発信者ビジネスの間にあるもの
祭りの屋台に人気YouTuberや配信者が出店し、行列を作る光景は、この数年で珍しくなくなった。フォロワーの熱量がそのまま集客力に直結する一方で、常設店舗のような冷蔵設備や仕込みの動線を確保しにくいのが屋台の宿命でもある。悪天候で1日分の在庫が余り、それを翌日にどう扱うかという判断ひとつが、これほどの規模の申告につながりかねない。人気があるほど売り切るまで作り続けるという構造そのものが、リスクを底上げしている面は否めない。今回の一件がこめお個人の判断の問題なのか、屋台という業態そのものが抱える構造的な弱さなのかは、まだ切り分けられていない。
保健所の調査結果はまだ出ていない。だが6人から76人へと膨らんだ申告の数と、これまで「無添加」「こだわり」を看板にしてきた語りとの間にある溝は、原因が判明する前からすでに、こめおというブランドの信用を静かに削り始めている。



