
チャンネル登録者1540万人を抱えるYouTuber・きまぐれクックのかねこさんが、自身の実店舗の駐車場で起きた無断駐車への対応を公開し、反響を呼んでいる。
同氏がプロデュースした愛知県常滑市の海鮮テーマパーク「うお一番」の駐車場に、2台の車が無断駐車される事態が発生。かねこさんは車両とカラーコーンで当該車両の前後を挟んで動かせない状態にしたうえで警察を呼び、立ち会いのもとで損害の支払いを求めた。
4日間動かない2台、挟み込んでから警察を呼ぶ
かねこさんのサブチャンネルで「【警察出動】うお一番の駐車場を無断で4日使った人間を捕まえました。とんでもない奴でした。」という動画が公開されたのは、2026年9月19日。
問題の駐車場に置かれていたのはポルシェ・パナメーラとプリウスの2台で、4日間まったく動く様子がなかったという。かねこさんは2台の前後を自身の車両とカラーコーンで挟み、物理的に出庫できない状態にしたうえで警察を呼んだ。
現れた運転者側は、近隣の駐車場が満車で、近くにいた人からこの駐車場を教えられたと釈明したという。そのうえで「別に悪気があってやったわけではない」と説明した。かねこさんは警察官の立ち会いのもとで「その損害分をお支払いいただきたい」「正当な額を払っていただきたい」と主張し、相手方の連絡先と住所を記録している。
「うお一番」は2025年10月24日、愛知県常滑市りんくう町にオープンした複合型の店舗だ。鮮魚販売に飲食スペースと物販を併設し、中部国際空港(セントレア)へ電車1本で行ける立地にある。旅行者が車を置いて空港へ向かう動機が働きやすい場所でもある。
警察は本来、私有地の無断駐車には動けない
この一件で「警察出動」が話題になったが、実は警察が私有地の無断駐車を取り締まることは原則としてできない。
道路交通法が適用されるのは公道である。私有地はその対象外で、駐車違反としての取り締まりも、放置車両確認標章の取り付けも行われない。加えて民事不介入の原則がある。個人の財産権の行使や私人間の契約をめぐる争いは、司法つまり裁判所が扱うべき領域であり、警察が関与すべき事項ではないとされている。
したがって、通報しても、警察官ができるのは当事者同士の話し合いへの立ち会いと、事実関係の記録までであることが多い。今回のケースで警察官が現場に来たのも、車を撤去したり相手を処罰したりするためではない。かねこさんが車両を挟んで相手がその場に現れる状況を作り、当事者が対面した段階で呼んだからこそ、立ち会いという形が成立している。順番が逆であれば、おそらく何も進まなかった。
請求の根拠になるのは民法だ。無断駐車は民法709条の不法行為にあたり、土地所有者は生じた損害の賠償を請求できる。また民法190条は、悪意の占有者に対して果実の返還を義務づけており、駐車場として貸していれば得られたはずの料金相当額を請求する根拠になる。いずれも民事の話であり、警察の管轄ではない。
勝手に動かすとこちらが罪に問われる
では所有者が自分で車を撤去すればよいかというと、ここに大きな壁がある。自力救済の禁止である。
権利を侵害されていても、法的手続きを経ずに実力で回復することは原則として認められていない。無断駐車された車を勝手にレッカー移動させたり、タイヤをロックしたり、車体に貼り紙をして傷をつけたりすれば、器物損壊罪に問われる可能性がある。実際に、無断駐車した側が土地所有者を訴えて勝つという逆転現象も起きている。3か月以上放置された極端なケースで横浜地裁が例外的に自力救済を認めた判決はあるが、あくまで例外扱いだ。
正規の手続きを踏むなら、内容証明郵便による請求から始まり、民事調停、訴訟、そして強制執行という流れになる。問題はその費用だ。弁護士への法律相談が1時間5000円から1万円、民事調停で60万円から90万円、訴訟となれば90万円から150万円が目安とされる。
一方、回収したい金額はどれほどか。駐車場1台分を4日間占有された損害を近隣の相場から算定しても、せいぜい数千円から1万円台にとどまる。数千円を取り戻すために100万円を投じる人はいない。この逆ざやこそが、私有地の無断駐車が「やったもん勝ち」と言われる理由である。
著名インフルエンサーだからできたが、普通の店にはできない
かねこさんのチャンネルは2016年12月の開設から、2023年に登録者500万人、2024年1月に1000万人を突破し、2026年9月時点で1540万人に達している。総再生回数は37億回を超え、国内のYouTubeチャンネルで上位に入る規模だ。
今回の対応が成立した条件を整理すると、三つある。第一に、4日間という期間をカメラで記録し続けられたこと。第二に、車両とカラーコーンで挟むという、器物を損壊しない範囲の物理的手段を選んだこと。第三に、相手が現れた瞬間に警察を呼び、立ち会いのもとで住所と連絡先を記録できたこと。
だが最も大きかったのは、動画を公開できるという事実そのものだろう。1540万人が見る場に一部始終が出るという前提は、その場の交渉力を決定的に変える。逆に言えば、この前提を持たない店舗が同じことをすれば、単なる当事者同士のトラブルとして膠着するか、下手をすれば挟み込んだ側が責任を問われる。
無断駐車への現実的な備えとして推奨されているのは、警告看板の設置、防犯カメラの設置、ゲートやチェーンによる物理的な制限、そして無断駐車に対する料金設定の明示である。いずれも起きた後ではなく、起きる前にしか打てない手だ。今回の動画が注目を集めた背景には、法が用意した救済が現実には機能しないという、多くの店舗経営者が抱える無力感も作用しているとみられる。



