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托卵論争に沸く日本が知らない世界のルール 私的DNA鑑定は懲役刑?

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托卵被害
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約4年間、自分の子だと信じて愛し続けてきた我が子が、実はまったく血のつながっていない他人の子だった。そんなドラマをも超える悲劇に見舞われた関東在住の40代男性が、元妻に損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は元妻に330万円の支払いを命じる判決を下した。男性は判決後も子どもへの愛情を示し育て続ける意向を見せているが、ネット上では「托卵」と呼ばれるこの事案を機に、「出生時のDNA鑑定義務化」を求める激論が再燃している。

法律上の父子関係をどう扱うべきか、出生時の検査を義務化すべきかを直接判断した判決ではないものの、この訴訟が社会に突きつけた波紋はあまりにも重い。長年騙され続けた父親の悲劇を防ぐためには、すべての新生児にDNA鑑定を義務付けるべきなのか。それとも、それは国家が夫婦間の不信感を制度化し、国民の遺伝情報を一括管理するようなディストピアへの入り口なのだろうか。

 

「義務化」は男性の救世主か?感情論だけでは解けない制度の罠

義務化を推進する側のロジックは極めて明快だ。出生直後に血縁を確認できれば、夫が事実を知らないまま他人の子を育てる地獄を回避できる。不信感も早期に解消され、後から家族が崩壊するリスクも最小限に抑えられるというわけだ。

特に現行制度の下では、たとえ民間鑑定で血縁がないと分かっても、法律上の父子関係が自動的に消えるわけではない。事実を知った時には法的手続きの期限が切れており、手遅れになるケースも少なくないのだから、「騙された男性に逃げ場がないのは不公平だ」という不満が爆発するのも当然と言える。

しかし、この義務化論争、単なる確認作業と高を括ると痛い目を見る。新生児の遺伝情報は誰の同意で取得するのか、不一致が判明した場合に父親と母親のどちらへ先に通知するのか、真の父親をどう特定して養育費を負担させるのかなど、クリアすべき壁は山積みだ。生殖補助医療や養子縁組のケースまで含めると、制度設計は極めて複雑になる。「男性を守れ」「妻を信じろ」といった感情的な泥仕合だけでは、何一つ解決しないのが冷酷な現実なのだ。

 

私的鑑定で即罰金刑のフランスと、裁判所で真実を迫るドイツ

こうした難題に対し、海外では日本と全く異なるアプローチが取られている。

まずフランスの徹底ぶりには驚かされる。行政サイトの規定によれば、DNA親子鑑定が認められるのは裁判など司法手続きの中に限定されており、ネットでキットを買って密かに鑑定する行為は法律で固く禁止されている。違反者には1年の拘禁や1万5,000ユーロ(約240万円)の罰金、さらに違法な検査を依頼した側にも3,750ユーロの罰金が科される可能性があるのだ。

これは単に「家族の平穏」を守るためだけではない。深刻な影響を与える遺伝情報を、司法の監督が届かない民間ビジネスに委ねないという徹底したリスク管理の思想が根底にある。当然、出生時の鑑定義務化など論外であり、むしろ鑑定の機会を厳格に制限する方向に振っているのだ。

 

対照的に、フランスとも日本とも違う独自のバランス感覚を見せるのがドイツだ。ドイツの遺伝子診断法では、相手に黙って髪の毛や唾液を採取する「こっそり鑑定」を行政処分(罰金)の対象として厳しく禁止している。その一方で、民法1598a条によって、夫・妻・子のそれぞれに「生物学上の親子関係を確認するための検査を求める権利」を明確に保障しているのだ。

相手が拒否した場合は、家庭裁判所が強制的に検体採取を命じることができる。つまり、無断で遺伝情報を侵害する「闇鑑定」は許さないが、疑念を抱いた夫が正規の手続きを踏むのであれば、司法が「真実を知る権利」を全力でバックアップする仕組みを整えているのである。

 

2024年民法改正でも埋まらない「日本のギャップ」と今後の果実

ひるがえって日本はどうだろうか。2024年4月施行の改正民法により、これまで夫だけに認められていた「嫡出否認権」が母や子にも拡大され、訴えを起こせる期間も1年から3年に延長された。

しかし、法律上の父親が否認できる期限は「血縁がないと知った時」ではなく、あくまで「子の出生を知った時から3年」のままだ。子どもが成長してから偶然事実を知った場合、手遅れになる構造は依然として残されている。

 

日本はフランスのように私的鑑定を禁止する法律がないため、ネットで簡単に民間の鑑定キットを購入できる。だが、そこで暴かれた血縁の真実を法律上の関係に反映させようとすると、厳しい期限の壁にぶち当たるのだ。テクノロジーと法律の間に大きなズレが生じていると言わざるを得ない。

今回報じられた男性が、血縁がないと分かった後も子どもを育て続ける意向を示したことは、親子関係の絆が単なるDNAの配列だけで決まるわけではないという救いを示している。しかし、だからといって騙された側の苦痛を「子どものため」という言葉だけで踏みにじることも許されない。

 

日本が海外から学ぶべきは、「全員を一律検査するか、何も企てないか」という極端な二者択一ではないはずだ。ドイツのように、家庭裁判所を通じた正規の確認手続きを整備し、子どもの福祉や養育費の問題とセットで救済策を設計していくことこそが求められている。

科学技術が不都合な真実をいとも簡単に暴き出す時代だからこそ、感情論を排した冷静な法制度のアップデートが必要なのだ。

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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