
死亡したとき、2歳の女の子の体重はわずか6.08キロ。同年齢の平均より5.7キロも軽く、およそ半分しかなかった。和歌山市で2歳の長女・流菜ちゃんに虐待を加え、適切な治療を受けさせずに死亡させたとして、保護責任者遺棄致死の罪に問われた父親・平晴流被告(26)と母親・菜々美被告(26)の裁判員裁判の初公判が7月2日、和歌山地裁で開かれた。NHKや毎日新聞、読売テレビ、テレビ和歌山などによると、両被告はいずれも起訴内容を「間違いありません」と認めた。
検察「長女をストレスのはけ口にしていた」
起訴状などによると、両被告は2024年秋ごろから2025年7月上旬にかけて、和歌山市の自宅で流菜ちゃんに暴力を振るうなどの虐待を加え、十分な食事を与えず、衰弱しているのに治療も受けさせず死亡させたとされる。
検察側は冒頭陳述で「流菜ちゃんをストレスのはけ口にし、殴るなどの虐待を加えていた」と指摘した。
目を疑う夫婦間のLINEも公開
読売テレビの報道によれば、法廷では両被告が交わしたLINEのやり取りも明らかにされた。
父親は痩せ細った娘について「めっちゃ臭いし最悪 猫より厄介やな」、母親は「ほんまに余計な仕事 増やす奴やわ」。死亡の2日前、父親の「あほどう?」という問いに、母親は「あほは水飲ませて 寝かせているよ」と返したという。
「あほ」と呼ばれていたのは、2歳の娘だった。医療にも行政にもつながらないまま、密室の中で子どもの衰弱は進行し、命は失われた。
「家族系」動画の人気の裏で
この夫婦は「家族系」の動画投稿で人気を集めていたとされる。カメラの前では仲むつまじい家族を演じながら、その裏で娘を「はけ口」にしていたとすれば、SNS上の「見せるための家族像」と現実の乖離という、現代的で不気味な問題が浮かび上がる。動画で子どもを収益の源泉にしながら、その子の存在を疎んじる――視聴者には決して見えない密室の反転である。
こども家庭庁によると、全国の児童相談所が対応する児童虐待相談は年間22万件を超え、過去最多の更新が続く。虐待死に至る事案では、本件のように「外からは見えにくいネグレクト(育児放棄)と身体的虐待の複合」が典型パターンの一つとされる。体重が平均の半分になるまでの間には、健診の未受診、保育・医療との接点の欠如など、社会が異変を察知できたかもしれない分岐点がいくつもあったはずだ。公判では量刑とともに、行政の関与がどこで途切れていたのかも注視される必要がある。
「見えない子ども」を作らないために
裁かれるのは両親だが、問われているのは「見えない子ども」を作らない仕組みの方でもある。乳幼児健診の未受診家庭への訪問、保育につながっていない未就園児の把握、近隣の「泣き声通告」への確実な対応。この裁判の報道に心を痛めた人ができる最も具体的なことは、児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)」の存在を覚えておくことだろう。匿名でも通告でき、それが間違いであっても責任は問われない。密室の中の子どもに社会がたどり着く入り口は、周囲の小さな違和感の通報にかかっている。



