
成果や能力で人の価値を測る空気のなかで、評価もジャッジもされず「ただ、そこにいていい」と思える場所が求められている。
子ども・若者を支える認定NPO法人PIECESが設立10周年を機に、東京都多摩市で10代・20代の居場所「まちのま」プロジェクトを始動する。これには、地域住民とともに居場所を共創する点に特徴がある。
「市民性」を育んだ10年から「場づくり」へ
同法人によると、PIECESは2016年の設立以来、「自分にできることで子どもや地域・社会と関わりたい」という一人ひとりの想いを大切に育み、全国へ「市民性の種火」を広げてきた。社会を変えるのは特別な誰かではなく、一人ひとりの中にある小さな想いだと信じて活動してきたという。
10周年を迎え、PIECESは次のフェーズへ進む。これまで育んできた小さな種火をつなぎ、社会の力へと変えるため、新たに「場づくり」という軸を展開する。その第一歩として、人が出会い、想いが言葉になり、行動が生まれるリアルな場所を東京都多摩市に生み出す。
孤立とケアレス化が進む社会への問いかけ
背景には深刻な現実がある。小中高生の自殺者数は令和7年度に538人、不登校児童生徒数は令和6年度に35.4万人といずれも過去最多となり、思春期世代は深い痛みを抱えている。日本の若者は他国と比べ自尊感情が著しく低く、多摩市の調査でも44.4%の若者が「自らの意思で挑戦し、後押しされながら成長する権利」が守られていないと感じているという。
この背景に、同法人は成果や能力で人の価値を測る「評価とジャッジの蔓延」による孤立化と、効率至上主義による「ケアレス化」という社会構造の課題があると指摘する。だからこそ今、評価やジャッジから離れ、子どもが子どもでいられる、自分が自分でいられる「ただ、そこにいていい」という安心感が求められているとする。
大人が与えるのではなく、市民とともにつくる
多摩市の商店街の一角にオープン予定の「まちのま」の最大の特徴は、大人が子ども・若者に居場所を提供するのではなく、地域住民を巻き込みながら共に創り上げる点にある。プロジェクトは「場づくり」と「人づくり」を両輪で進める。
場づくりでは、10代・20代の若者が評価やジャッジから解放され「自分が自分でいられる」空間をつくる。大人がルールを決めるのではなく、若者の声を聴きながらみんなで過ごし方をつくる余白を大切にする。人づくりでは、10年培ってきた市民性育成プログラム「Citizenship for Children」をベースに、支援者や専門家としてではなく「近くて遠い他者」として若者と関わる地域の担い手を増やす。拠点で育まれた市民性がまちのあちこちに染み出し、「やさしい間」が生まれていくことを目指す。
まちの片隅の余白から、孤立のない景色へ
代表理事の斎典道氏は「10年間『市民性』という目に見えない価値を育んできたが、言葉だけでは伝わりきらない『やさしい間』を体感できる『場所』ごとつくってしまおうと決意した」と語る。支援する側と利用する側に分かれた場所ではなく、来た人が「ただ、そこにいていい」と思える場所を目指すという。
PIECESは現在、物件の調整や拠点づくりの準備を進めており、完成までのプロセスを公式noteで発信していく。子どもや若者の孤立が深刻化するなか、行政の制度だけでは支えきれない隙間を、地域の市民とともに埋めようとする試みだ。まちの片隅に生まれる小さな余白から、誰もが「ただ、そこにいていい」と思える景色を広げられるか。10年の蓄積を土台にした新たな挑戦が始まる。



