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「売りたいのに売れない」「相続したくない」「持っているだけで負担になる」――そんな不動産が今、日本中で増え続けている。いわゆる「負動産」と呼ばれる空き家や空き地の問題だ。その背景には、人口減少や地方の過疎化だけでなく、相続や認知症といった家族の問題が複雑に絡み合っている。
こうした社会課題の解決に挑むのが、大希企画株式会社代表取締役宮川大輝氏だ。空き家・空き地問題の最前線で見えてきた日本社会の現実とは何か。そして負動産を地域の新たな価値へと変える挑戦の先に、どのような未来を描いているのか。事業承継の経験も交えながら、その想いを聞いた。
九州一つ分――拡大する負動産問題の現実
―本日はよろしくお願いします。まず、宮川代表が「負動産」に取り組むことになったきっかけからお伺いします。
私が入社した2014年頃は、アパートやマンションの一棟買いが盛り上がっていた時期でした。弊社でもそういった事業に力を入れていこうとしていたのですが、その後金融機関の不正融資問題などがたて続けに起こりブームが冷めてしまった。それで「このやり方ではいくら不動産会社が適正に仕事をしていても、金融機関の情勢によっては購入者がいなくなってしまう、不安定なビジネスモデルだ」と気がついたんです。
それでやりかたをガラっと変えようと思い、弊社の強みであるリフォームを活かした事業ができないかと全国で不動産業を営む知り合いと連絡を取り合っていた時に、空き地・空き家問題に行き当たった。
―空き地や空き家の問題はどのくらい深刻なものなのでしょうか。
現在、日本には所有者不明な土地が約410万ヘクタールほどあるといわれています。これは国土全体の2割、九州地方分ほどの広さです。しかもその広さは年々拡大し、2040年には720万ヘクタール、北海道程度の規模にまで広がるといわれている。土地は所有者が不明だと買い取ることができないので、何も建てることができず、開発することもできない。そんな本当に利用できずに放置しかできない土地が九州地方くらいもあるのです。
空き地があると粗大ゴミが不法投棄されたりしますし、空き家は人が住んでいないのですぐに荒廃していきます。そうなると景観も悪くなりますし、屋根瓦が落ちて人をケガをさせるといった周囲への危険も発生してくる。それだけでなく、近年は空き家が犯罪組織のアジトに使われているケースも見られます。住民票を勝手に作られて、それが犯罪に利用されてしまう。空き地や空き家があると、様々な問題を生む元になるのです。
―宮川代表が負動産に取り組み始めた時、どのような問題に直面したのでしょうか。
2018・2019年に国交省による「空き家の利活用モデルプロジェクト」の実施事業者に選ばれて、この問題に関わり始めたのですが、まず驚いたのが買い手が全くつかない土地があること。物件価格10万円・15万円という低価格でも全く買い手が現れない。事前の予想では、買い手の現れない物件でも不動産会社が見る情報サイトに掲載すれば何件か問い合わせが来るだろうと軽く思っていたのですが……。それでやっと、物件を抱え続けなければならない理由を実感したんです。自分の浅はかさと問題の根深さを思い知りました。

「1円」売買で受けた衝撃
―売りたくても買ってくれる人がいない、という物件が無数にある。それでも続けようと思われたのはどうしてなのでしょうか。
ある時岐阜県の物件を扱ったことがありました。そこの売主さんは横浜在住でご実家が岐阜、という方でした。ですから岐阜の家にはもうだれも住んでいないのですが、毎年掃除などのために通わなければならない。だから手放したいのだけど、価格100万円にしても買い手が現れない、という物件でした。
そこで「値段がつかないのなら、いっそ1円で出してみましょう」と提案したんです。仲介手数料や登記費用などはかかってしまいますから、売主さんにとってはマイナスになってしまう。それでもいいですか、と提案したら同意してくれた。それで公開したら買い手が何人か現れたんです。その中から、DIYで家をリノベーションして、生活に困っている人に安く部屋を提供する事業をそこでしたい、という人に買っていただくことになった。
契約の当日、売主さんと私、そして買主さんの三者が集まって書類手続きをしていたのですが、私自身、領収書に「1円」と記載した時に「本当にこれでよかったのか」と不安になりました。じつは売主さんは内心納得しておらず怒っているのではないかと……。お金の受け取りも、普段なら高額なので銀行からの融資を受けて、それが振り込まれて決済完了となるのですが、1円なのでその場で1円玉をパッと出されて、簡単に終わってしまいました。
―売主さんはどんな反応だったのでしょうか。
買主さんが帰られたあとに、売主さんにこれでよろしかったのですか、と尋ねたら、売主さんは泣いて喜んでくれたんです。「この1円でこれまでの全ての苦しみやストレスが無くなっていきました、ありがとうございます」と言っていただけたんです。
私にとってそれは衝撃的でした。これまでより高く販売することだけが売主さんの利益になると思い込んでいた私に、金額の大小では量れないことで喜んでいただける、解消できる苦しみがあると気づかされたんです。
それに心が動かされたことが「負動産」に取り組んでいく転換点になりました。
「争続」が生み出す空き家・空き地問題
―そもそもどうして空き家や空き地の問題が発生するのでしょうか。
多くの場合、相続問題が起因になっています。所有者が亡くなった土地が、相続人に継がれたのかどうか分からないまま宙に浮いてしまう。国としても、この問題を解決するために司法書士会に依頼し、所有者不明土地リストを渡して所有者の捜索に当たっているのですが、世代を遡って調査すればするほど、所有権の関係者が増えていく。その一人一人に当たって権利をどうするか確認し、手放すのであれば権利放棄の書類を作成していかなければならない。気の遠くなるような作業です。
そしてもう一つの要因が認知症です。現所有者が認知症で意思の確認が取れず、契約行為ができない。それで手続きが進まないことも多々あります。認知症も含めた相続に関わる問題が、空き家・空き地発生原因の6割を占めています。
―宮川代表は一般社団法人「士希の会」の代表理事として、相続問題に積極的に取り組まれています。
士希の会は、弁護士や司法書士、税理士といった士業の方々に参加していただき、相続相談会やセミナーを開いて啓発に努めています。現在の加盟数は士業の事務所600弱、終活関連事業者が200事務所ほど。相続問題はこういった士業の方々が窓口になることが多いのですが、士業の方々・終活関連事業者の方々も困っている人を助けたい、と問題の解決に意欲的な方々が多く積極的に知識を提供してくれています。
―空き家・空き地問題を解決するために、その原因である相続の段階で未然に防いでいきたい、と。
はい。認知症の問題などもあり、できる限り早く相談してもらい、準備をしておいたほうがいい。どうしても所有者が亡くなった後になると、問題が複雑化してしまいますから。
親が亡くなり、ご兄弟で相続となった時に、不動産など分割できないものをどうするか、もめることが多くあります。法定相続分というルールはありますが、これはあくまで目安でしかありません。関係者の利害関係も含めた様々な要因が絡んで、結局清算できなかった不動産が残されていく。それが利益の見込まれない負動産であればなおさらです。
相続が「争続」にならないように事前に準備しておかないと空き家・空き地が増えていく。だから相続問題が拗れないように「士希の会」の士業の方々と事前に解決策を図っておき、それでも実際に問題が生じてしまった場合は、弊社が解決策を探していく。この二段構えで取り組んでいきたいと考えています。

父の不在が教えてくれた経営者の覚悟
―宮川代表は創業者である父邦博氏の跡を継がれて代表に就かれていますが、後を継ぐ想いは昔から持たれていたのでしょうか。
中学生くらいの時から「お前が継げ」と言われ続けてきました。それに父から事あるごとに、お前たちが学校に通えて生活をさせてもらっているのは社員が働いてくれているおかげだ、と教えられていたので、いつか後を継ぐという自覚はありました。
私は大学を卒業してから別の不動産会社で数年勤めたのですが、父の会社に入る前に、一度独立して起業しようと考えたことがあったんです。弊社は当時リフォーム事業がメインで、私は不動産売買がやりたかった。それで私が不動産売買の会社を立ち上げれば、父のリフォーム業と上手く相乗効果を上げられるのではないかと思ったんです。それに父も一人で会社を立ち上げた人ですから、当時26歳だった私の「独立したい、父の名を借りずに一人でやってみたい」という想いを汲んでくれるのではないか、という期待もありました。
―結果、いかがだったのでしょうか。
もう取り付く島もなく(笑)。お前は後継ぎなんだ、と。
それで入社したのですが、その後父が病で倒れ、以来入院中の父から少しずつ業務を引き継ぎながら、経営のことを学びました。父は4年の闘病を経て亡くなりましたが、その間父も私も、いずれ父は回復して会社に戻ってくる前提で考えていた。だから引き継ぎも決済が必要な業務程度だったのですが、結局父はそのまま他界してしまい、私が社長に就くことになりました。しかし今思うとこういう引き継ぎかたが一番良かったと思っています。私自身、性格的に後が無い状況にならないと決心できない性分でもあるので、病床の父から受け継いだ会社への想いと共に、経営者としての覚悟を決めてもらえたのです。最期まで偉大な父でした。

空き家再生が変える地域の未来
―空き家・空き地が増えている社会的な問題の根底には、各家族の相続問題というミクロな問題がある。今後の展開について伺います。
結局、負動産が増え続けると「そんな空き家だらけの地域に誰が引っ越そうと思うのか」と、町の運営にも関わってきます。さらに今は人口が減少していく一方なので、そもそも家を買おうとする人も少なくなっている。ですから今後は空き家を住居としてのみ考えるのではなく、別の使い道の提案も進めています。
―それが御社の展開しているリノベーションの事業ですね。
例えば空き家をヴィラ風に改築して、施設にすることなどを提案しています。弊社の技術を活用して、別の使途を用意することも空き家対策の一環になるのではないか、と考えています。
―空き家や空き地は今後も増えていくのでしょうか。
少なくとも完全無くなる、ゼロになることはありえません。最初に述べたとおり、空き地は拡大し続けています。しかしそこに付加価値を付け、何か使える方法を模索していくことが有効な手段になるでしょうから、弊社としてももっと強化していきたい。
―それによる社会的な影響はどうでしょうか。
空き家・空き地を活用し、プラスに転換させることで、人がいなくなって寂しかった街が活気を取り戻す。そうやって街の魅力を創造していくことができれば、海外から日本に来たお客様にも新しい楽しみ方、日本の暮らし方の再発見を示していけるのではないでしょうか。草の根のような運動ですが、それが課題解決に繋がる大きなムーブメントになっていけたらと思っています。
―本日はありがとうございました。

大希企画株式会社
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