
身体的・性的・心理的虐待に加え放棄・放置の4種類が認定されたにもかかわらず、処分の軽さに批判の声が広がっている。利用者の命と尊厳を軽視した対応は、障害福祉の現場に根本的な問題を突きつけている。
事件の経緯 裸の状態で食事提供と約1時間の放置
2026年1月9日午後7時ごろ、四万十市古津賀の障害者支援施設「レジデンスわかふじ」(定員10人程度、生活支援員13人体制)2階シャワー室で、利用者Aさんが意識・呼吸がない状態で発見された。
病院に搬送されたが死亡が確認された。死亡直前、施設職員は入浴中のAさんに対し必要な見守り支援を行わず、長時間放置した上、裸の状態で食事を提供した。放置時間は約1時間に及んだとされる。
施設長は翌10日に県へ報告したが、高知県は「死因は把握していない」と繰り返し、放置行為と死亡の直接的な因果関係を明確にしていない。
四万十市が職員への聞き取り調査を実施し、高知県が監査で虐待を認定した。3月31日に事案自体は公表されていたが、個人特定を避けるとして施設名や詳細は非公表だった。
行政処分の内容と「常習性なし」判断への疑問
高知県は5月27日、社会福祉法人一条協会に対し指定障害福祉サービス事業所の指定の一部効力停止(新規利用者受け入れ停止3ヶ月、2026年6月1日~8月31日)を決定。
再発防止策の報告提出も求めた。処分理由は障害者総合支援法第50条第1項第3号の「人格尊重義務違反」である。
県は「常習性・組織性・悪質性はいずれも認められない」と判断した。根拠は職員聞き取りで「本事案のような長時間放置は今回が初めて」「支援員個人の判断」「隠ぺいなし」「過去5年の行政処分実績なし」とするものだ。
しかし、利用者1人の命が失われた重大事案に対し3ヶ月停止のみという軽い処分に、ネットや関係者から「抑止力ゼロ」「また繰り返すのではないか」と強い批判が殺到している。
死因不明を理由に刑事責任追及も進んでおらず、行政の対応の甘さが露呈した形だ。
運営法人一条協会の公式声明 定型的なお詫びのみ
一条協会の東高希理事長は27日午前に会見を開き、以下の公式コメントを発表した。
「亡くなられた利用者様のご冥福をお祈り申し上げますとともに、社会的役割を担い『安心』と『安全』な障害福祉サービスを提供すべき施設で、このような事案が発生したことは誠に遺憾であり、ご利用いただいている利用者及びご家族の皆様には、多大なるご不安とご心配をおかけしますこと、また、障害者福祉施設に対する信頼を損ねたことに対し、心より深くお詫び申し上げます。」
続けて「現在進めている検証を通じて、厳しく指摘された点については反省し、提言を受けたことを着実に実行して改善に努め、こうしたことを二度と起こさない組織となるよう全力で取り組んでまいります」と述べた。
施設内には「レジデンスわかふじ利用者死亡事例検証委員会」を設置したが、具体的な責任者処分、人員増強の数値目標、過去問題の再検証内容などは明らかにされず、抽象的な表現に終始した。
こうした対応がさらなる不信を招いている。
10年前の同系列施設でも虐待発覚 改善の兆しなし
同法人が運営する隣接施設「障害児入所施設わかふじ寮」では2016年に深刻な虐待が相次いだ。
4月には職員が入所者の腕を叩く行為で土佐清水市から改善通知を受け、9月26日夜には18歳未満男性入所者を羽交い締めにして顔をうっ血させる事案が発生。匿名通報で発覚した。
さらに10月19日から24日には、職員2人が知的障害のある19歳男性入所者を1人で担当した際に蹴ったり投げたりする虐待が別の職員の報告で明らかになった。
高知県は2016年11月16日付で法人に対し再発防止策検討の指導通知を出したが、刑事処分や事業停止には至らなかった。2017年にも同施設で児童の髪を引っ張る虐待が報じられている。
約10年を経て同一法人・系列施設群で死亡を伴う虐待が再発した事実は、「常習性なし」という今回の県判断を大きく疑問視させるものだ。過去の教訓が十分に生かされなかった可能性は否定できない。
過酷な職場の現実を認めても 虐待は絶対に許されない
障害者支援の現場は人員不足、24時間体制のケア、利用者個々の特性対応による精神的・身体的負担が極めて大きい職種であることは事実だ。
全国的に介護・福祉人材の確保が難航し、施設運営の厳しさが指摘されている。
しかし、そうした現実をもって裸の利用者を長時間放置し死亡させる行為を正当化することは到底できない。
人権侵害であり、福祉の名を借りた暴挙である。
今回の事案は、障害者施設全体の管理体制・監督強化の必要性を改めて浮き彫りにした。
利用者の命と尊厳を守るための抜本改革なくして、障害福祉の信頼回復はあり得ない。



