
産地直送のびん牛乳が供給できなくなるかもしれない——その危機感から、生協が自ら大規模な牧場をつくった。西日本を中心に16の生協で構成される一般社団法人グリーンコープ共同体が、大分県中津市に約900頭規模の牧場「耶馬渓ファーム」を開場した。
堆肥から飼料、牛乳、びんの再利用までをつなぐ環境配慮型の循環型酪農を実践する。
「びん牛乳が供給できなくなる」危機からの出発
同団体によると、グリーンコープは下郷農業協同組合、耶馬溪酪農組合と共同で、大分県中津市耶馬渓の標高420メートルの中山間地域に約900頭規模の牧場「耶馬渓ファーム」を開場した。1日には開場式が開かれ、中津市長や県北部振興局局長、市議会議長らが出席した。
この牧場が生まれた背景には切実な事情がある。2021年春、「産直びん牛乳が供給できなくなるかもしれない」という事態を受けて、グリーンコープは下郷農協と酪農生産者との話し合いを開始した。そして同年7月中旬、産直びん牛乳の生産に必要な1000頭規模の酪農場の建設に合意し、準備を進めてきた。組合員に届けてきた牛乳の生産基盤そのものを、生協が主体的に守りにいった形だ。
堆肥・飼料・牛乳・びんがつながる循環
耶馬渓ファームの特徴は、共生・循環型の酪農にある。牧場、飼料を生産する「グリーンコープTMRセンター」、びん牛乳をつくる「グリーンコープミルク」がそれぞれつながり、循環を生み出す。
具体的には、耶馬渓ファームで作られる堆肥を、粗飼料となる牧草の栽培に活用する。その牧草はTMRセンターでエサに加工され、そのエサを食べた牛から搾った生乳が、下郷農協を通じてグリーンコープミルクの工場でびん牛乳として製造され、組合員のもとへ届く。そして使用後のびんは回収・洗浄して繰り返し使うことで資源を循環させる。牛の排せつ物から食卓の牛乳、そして容器の再利用まで、一連の流れが途切れずにつながっている点が眼目だ。
温室効果ガス削減にも取り組む
耶馬渓ファームは、環境に配慮し、温室効果ガス(メタンガス)の削減にも取り組む。温室効果ガスの排出量が少なく、省力的で処理能力の高い家畜排せつ物処理機械(好気性発酵処理機械)の導入を進め、温室効果ガスの削減と作業効率化の両立を目指す。生産した堆肥は販売先の拡大も図る。
牧場は1日あたり18トンの産直びん牛乳を生産する体制を整える。大規模化と環境配慮を両立させながら、地域の酪農生産者とともに安定した生産を続けることで、産直びん牛乳という商品を未来へつなごうとしている。畜産が環境負荷の面で課題を抱えるなか、排せつ物の適切な処理と資源循環に踏み込む姿勢がうかがえる。同ファームは大分県から、環境負荷低減に取り組む生産者を認める「みどり認定」も取得している。
「安心・安全な食を子どもたちに」から続く歩み
グリーンコープ共同体は2018年設立で、九州・近畿・中国地方と福島の16の生協や各種団体で構成される。「安心・安全な食べものを子どもたちに食べさせたい」という母親の想いから始まり、それぞれの地域に根ざした生協として、地域を豊かにすることを目指してきた。
びん牛乳は、使い捨て容器に比べて資源循環の面で優れる一方、回収や洗浄の手間から扱う事業者が減ってきた容器でもある。その供給を守るために生協が牧場づくりから踏み込んだことは、身近な商品の裏側にある生産基盤の維持がいかに重い課題かを示している。生産から消費、容器の再利用までを一つの輪としてつなぐ耶馬渓ファームの取り組みは、持続可能な食のあり方を考えるうえで示唆に富む。



