
海水温の上昇で国内のサーモン養殖が年々難しくなるなか、暑さに強いサクラマスで新たな産地をつくる試みが進んでいる。
高温耐性サーモンを研究開発する宮崎県のスタートアップ、株式会社Smoltの種苗を導入した長州ながと水産が、山口県長門市で初年度の試験養殖を完了した。国産サーモン生産の可能性が確認され、両社は来年度も連携を続ける。
温暖化で厳しさ増すサーモン養殖
同社によると、近年は地球温暖化に伴う海水温の上昇により、国内のサーモン養殖が難しい環境に直面している。農林水産省や気象庁のデータでは、日本近海の海面水温は過去100年で約1℃上昇しており、特に夏季の高水温化がサーモン類の斃死リスクを高めている。
こうしたなか、Smoltは2019年の創業以来、サーモン養殖に適さないとされてきた温暖な宮崎県でサクラマスの海面養殖に取り組んできた。6世代以上にわたる選抜育種(ゲノム編集ではない技術)により、20℃前後の高水温環境でも育成可能な高温耐性サクラマス系統を確立し、九州・四国・本州で実証実績を積み重ねている。長門市でトラフグなどを生産する長州ながと水産が、冬春期を活用した新魚種の導入を検討するなかで、この種苗との事業連携が実現した。
海面と陸上、2方式を並行して検証
試験養殖は2025年12月に始まり、2026年6月の最終水揚げで完了した。約2000尾を対象に、海面生け簀と陸上海水かけ流しの2つの養殖方式を並行して実施した。各方式の成長データや生存率、品質特性を比較することで、長門市の環境に最適な養殖手法の選定と、来年度以降の生産体制の最適化に向けた知見を蓄積した。
従来品種では困難とされてきた水温帯での安定育成を実現し、本州日本海側での新たなサーモン産地形成の可能性を示した点が成果だ。サクラマスは水温が低下する冬から春にかけての飼育に適しており、夏季に主体となる他魚種の繁忙期と重ならない。これにより、既存の養殖設備の通年稼働と経営の安定化への貢献が期待される。
既存設備を生かし、経営の安定化に貢献
長州ながと水産の小川渉事業戦略責任者は「新魚種としてチャレンジしたサクラマスだが、海水馴致した後の歩留まりの良さ・成長の速さ・販売のしやすさの3点に非常に魅力を感じた」とコメントする。海面だけでなく陸上でも育てられるノウハウをSmoltから教わったことが成功につながったとし、山口県の新しい特産品として売り出したい考えを示す。
本試験で生産されたサクラマスの一部は、Smoltが西日本鉄道と共同開発した「あまおう桜鱒」として同社の淡水養殖施設(宮崎県延岡市)へ移し、販売もされている。試験養殖から出荷までの流れを一続きにすることで、産地化の実現性を具体的に検証した形だ。
各地でサーモンを安定供給できる体制へ
Smoltの上野賢代表は「山口県長門市という新たな地でも、高温耐性サクラマス種苗が適切に育成できることを確認できた。海面生け簀と陸上かけ流しの2方式で同時に試験を行ったことで、それぞれの特性や課題が明確になり、来年度以降の生産性向上に向けた貴重な知見を得られた」と語る。
両社は来年度も連携を続け、飼料配合・給餌プログラムの最適化による成長速度の向上、両方式の生存率・品質データの蓄積と比較分析、山口県産ブランドサーモンとしての商品化・販路開拓を進める。温暖化で漁業環境が変わるなか、暑さに強い品種を武器に国産サーモンの産地を各地に広げるこの取り組みは、気候変動に適応する水産業のモデルとなりそうだ。輸入に頼りがちなサーモンを国内で安定して生み出せれば、食料安全保障の観点でも意義は大きい。



