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コーケン フード&フレーバー株式会社

https://kohken-flavor.com/

〒223-0057 神奈川県横浜市港北区新羽町916

045-543-0048

「余ってもよい」から始める産地支援。コーケン フード&フレーバーと桂木ゆずの挑戦

サステナブルな取り組み SDGsの取り組み
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コーケン フード&フレーバー株式会社 桂木ゆず
桂木ゆず農家の大野 謙一氏(左)とコーケン フード&フレーバー株式会社 代表取締役 中島 愼弥氏(右)(画像提供:コーケン フード&フレーバー株式会社、以下同)

良い農産物をつくっていても、作り続けられない。高齢化と担い手不足に需要の変動が重なり、各地の産地が抱えるこの構造に、横浜の香料メーカーが向き合っている。コーケン フード&フレーバー株式会社が選んだのは、埼玉県毛呂山町の在来種「桂木ゆず」。

生産ゆずとして日本最古とされるその香りに惹かれ、2019年から、需要に左右されない買い取りで産地の収益構造そのものを変える取り組みを続けている。、地域農業を支える手がかりに変えようとしている。

 

「香り」で美味しさを演出する会社

コーケン フード&フレーバー株式会社は、横浜市港北区に本社を置く香料・食品原料のメーカーである。製菓や製パン、水産加工、健康食品といった幅広い分野で、食品メーカーの商品開発を支える。取引先は全国500社以上にのぼる。

同社の特徴は、二つの顔を併せ持つ点にある。一つは、5,000品目を超える食品原材料を扱う商社としての機能。もう一つは、食品香料や食品原材料そのものを製造・加工する作り手としての機能だ。原料を集めて届けるだけでなく、味と香りをつくる技術を自社に持つ。この両輪があることで、「香りで美味しさを演出する開発パートナー」として、定番商品から新ブランド、季節限定品まで幅広く関わってきた。同社は自らを「美味しさを生み出す演出家」と呼ぶ。

もう一つ、同社の来歴には一貫した発想がある。使われずにいるものの価値を引き出す、という姿勢だ。創業当初、同社はほとんど価値が見いだされていなかった鰹節の削り粉に着目し、抽出原料として商品化したという。捨てられていたものに新たな出口をつくる。この考え方は、のちの地域農業への取り組みにも通じている。

香料メーカーが原料として向き合う農産物は、産地があって初めて成り立つ。その産地をどう支えるか。同社が埼玉県毛呂山町の「桂木ゆず」で取り組んでいるのは、この問いへの一つの答えである。

桂木ゆず
桂木ゆず
 

桂木ゆずとの出会い。産地が抱える課題

同社が桂木ゆずと出会ったのは、2017年のことだという。各地の柚子を比較し研究するなかで、その香りに行き当たった。桂木ゆずは埼玉県毛呂山町の在来種で、奈良時代から続くとも言われる日本最古級の柚子とされる。花や香水を思わせる華やかな香りが特徴だ。

だが実際に現地を訪れて見えてきたのは、香りの豊かさだけではなかった。生産者の高齢化と後継者不足が進み、この香りや栽培の文化が将来失われかねない、という現実である。加えて、農産物は需要の変動に収益が左右されやすい。原料を使うメーカーの都合で仕入れが減れば、その影響は農家の収入に直結する。良いものをつくっていても作り続けられない、という構造が、次の世代の参入を阻む壁になっていた。

この構造には、同社自身の経験も重なっていた。かつて柚子を使った商品で需要が広がり、その後に需給のバランスが変わる局面を経験している。産地が需要の高まりに応えて生産を増やしても、その需要が続かなければ、産地は大きな影響を受ける。だからこそ、一時的な取引ではなく、長期的に産地を支える仕組みが要る。同社はそう考えるようになった。

折しも、ドライフルーツ事業を進めるなかで、廃棄されることの多かった柚子の皮の価値に改めて着目していた時期でもあった。試作を重ねるなかで、桂木ゆずの香りが持つ可能性に確信を深めていく。こうして2019年、同社は桂木ゆずの産地で、農業の収益構造そのものを変える取り組みを始めた。

 

「毎年、必ず増やす」買い取り

同社の取り組みの柱は、三つある。その一つ目が、仕入れの方法そのものを設計し直すことだった。

一般に、原料の仕入れはメーカー側の使用量に連動する。売れれば多く買い、そうでなければ減らす。農家にとっては、来年いくら買ってもらえるのかが読めない。この不確実さが、長期の生産計画を難しくしていた。

同社が採ったのは、初年度に設定した買取単価を起点に、自社の使用量に左右されず、翌年以降の購入額を毎年着実に増やしていくという方法である。商品の仕様や用途が変わっても、この方針は維持するという。原料をいくら使うかという自社側の事情と、いくら買うかという農家への約束を、切り離した設計だ。

当然、使い切れない分が出る。その在庫リスクは、自社の財務基盤を背景にすべて自社で吸収し、数年分の冷凍ストック体制を整えているという。「余ってもよい」という姿勢を、仕組みとして支えている。同社は今後の方針としても「買値を下げない」という考え方を掲げる。

こうした買い方によって、農家は「今年どれだけ買ってもらえるのか」という不安から離れ、長期的な視点で生産に向き合えるようになる。産地が安心して良いものをつくることに専念できる環境を整えること。それが、この仕組みの狙いである。

 

「1玉を余さず価値に変える」加工

工場で桂木ゆずの皮剥きを手作業で行う様子
工場で桂木ゆずの皮剥きを手作業で行う様子

買い取りの仕組みが産地の安心を支えるものだとすれば、二つ目の柱は、買い取った桂木ゆずを無駄なく生かすための技術である。ここで、食品原材料メーカーとしての強みが働く。

桂木ゆずは、部位ごとに違う価値を持つ。同社は、皮を香料に、果肉をペーストに、種を成分抽出の原料にと、部位ごとに加工方法を分けている。皮・果汁・果肉・種のそれぞれに出口を用意し、香料やペースト、マーマレード、食品原料へと展開する。1玉から複数の製品を生み出すことで、限られた収穫量でも高い付加価値を引き出す設計だ。

鍵になるのは、香りの扱いである。桂木ゆず特有の華やかな香りは、時間とともに失われやすい。そこで収穫後すぐに加工することで、その香りを最大限に生かすという。原料を右から左へ流すのではなく、素材の状態がいちばん良いうちに手を入れる。作り手としての機能を自社に持つからこそできることだ。

一つの農産物を「消費する」のではなく、多角的な出口を設計して使い切る。それによって、産地に還元できる利益を大きくする。加工技術は、買い取りの仕組みと組み合わさることで、産地を支える力になっている。

 

産地の名を全国へ。生まれた循環

三つ目の柱は、桂木ゆずという名前を、産地の外へ届けることである。

同社は、大手メーカーとの取引においても、商品に「桂木ゆず」「毛呂山町」と明記することを条件にしているという。原料の供給元として黙って裏方に回るのではなく、産地の名を表に出す。さらに、その商品がどこで売られ、どう使われているのかといった販売情報を、生産者へ共有している。自分たちのつくったものが、どこで、誰に届いているのか。それを農家自身が実感できる仕組みを重視している。

桂木ゆずを使った商品は、全国の食品メーカーに採用され、パンや菓子、飲料など幅広い商品に展開されてきた。展開事例の一つが、株式会社グッテが販売するスナック「サクリィ 香るゆずのり塩」である。これは、消化器疾患を抱える人に向けた商品だ。国内に多くいるとされる、食べたいのにお腹が心配で食べられない人たちのために、刺激物に頼らず、素材の香りと旨味だけで満足感を出すことを目指した。桂木ゆずの強い香りが、その設計を支えている。地域の資源が、現代の切実な課題に応える一助になった事例である。

こうした取り組みの結果、産地には手応えが生まれている。地元では、桂木ゆずを使った商品が発売された際に大きな反響があり、販売直後に完売する例も出ているという。有名メーカーの商品に採用されたときには、農家から、自分たちのゆずがこんな形で世に出るとは、と驚きと喜びの声が上がった。継続的な買い取りによって、出荷先を心配せずに育てられる、来年も頑張ろうと思える、という前向きな声も生まれている。生産者とメーカー、そして地域が一つにつながる循環が、現場に立ち上がりつつある。

収穫作業を行う桂木ゆず農家の大野氏
収穫作業を行う桂木ゆず農家の大野氏
 

「共に歩む未来」を、産地とともに

同社が見据えているのは、桂木ゆずの取引を広げることだけではない。販路を広げるだけでは、農業が抱える根本の課題は解けない。そう同社は考えている。

目指すのは、三つが同時に成り立つ状態だという。農業の担い手が途切れずに続いていくこと。農産物そのものの価値が上がり続けること。そして、生産者が安定した収入を得られること。この三つがそろって初めて、産地は続いていく。その実現に向けて、皮・果肉・種など部位ごとの特性を生かして用途を広げ、一つの農産物からより多くの価値を生み出す取り組みを続ける。大学などとの産学連携も活用し、食品用途にとどまらない新たな使い道の探索も進めている。

日本最古のゆず 桂木ゆず

同社は、この関わり方を一方的な支援とは捉えていない。「共に歩む未来」という言葉で、産地とともに描く将来像を語る。視野に入れているのは、毛呂山町に人が集まる環境づくりだ。将来的な事業所や加工工場の設置による雇用の創出、収穫作業の協力体制の整備など、農家との対話を重ねながら、本当に必要とされていることを見極めていくという。

香りと味を設計する技術を軸に、地域の農業が続いていく仕組みをつくる。使われずにいたものの価値を引き出すという創業以来の発想は、桂木ゆずの産地を経て、各地の農業を支える取り組みへと広がろうとしている。

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ライター:

Sacco編集・ライター。企業に直接出向く取材が中心。扱う記事はサステナビリティ、ウェルビーイング関係が多め。

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