
発達上の特性を抱える子どもの育児で、親が限界まですり減っていく。その家庭にプロが直接出向いて支える訪問型療育がある。
株式会社しずくそうが、自宅を訪ねて療育を行う「わがやのさぽーと」を軸に、企業の福利厚生の収益の一部を生活困窮世帯へ還元する社会循環型のプランを7月1日から本格展開した。
公的福祉の隙間で孤立する家庭
同社によると、児童の発達や行動に関する課題が多様化するなか、共働き世帯やひとり親世帯など、家族の形態を問わず、発達上の特性や課題を抱える子どもを持つ多くの家庭が日常的に深刻な疲弊を迎えている。突発的な癇癪や片時も目が離せない状況は、親の精神的・肉体的な摩耗を加速させ、社会からの孤立を生む要因となっている。
さらに、公的福祉制度上、放課後等デイサービスなどの同日利用は原則できず、預かり制度も受け皿不足が深刻で、「頼りたくても安心できる専門的な預け先が見つからない」というミスマッチが起きている。「わがやのさぽーと」は、公的制度や診断の有無に縛られない自費サービスとして、社会福祉士や公認心理師などの専門家や現場経験10年以上のベテラン支援員が直接自宅を訪ね、家族全員の笑顔を取り戻す包括的な支援を行う。
環境調整・休息・対応のコツを届ける
サービスは3つの価値を掲げる。第一は環境調整だ。整えられた施設ではなく、最も困りごとが起きやすい「いつもの自宅」にプロが介入し、子どもが落ち着いて過ごせる空間へと調整する。部屋の片付けや気遣いは不要で、ありのままの生活の場だからこそ実践的な効果が生まれるという。
第二はレスパイト(休息)で、プロに子どもを任せることで親が一人の時間を確保し、心身を回復させる。9時から21時まで、年末年始を除き土日・祝日も営業し、多様な就労スケジュールに対応する。第三はペアレント・トレーニングで、子どもが落ち着きやすくなる声かけや関わり方のコツをその場で保護者に共有・伴走する。支援員が帰った後も家庭がラクになり続ける好循環を目指す設計だ。
「ケア離職」防止で企業にも利点
しずくそうは、この療育を軸にした法人向け福利厚生プランを打ち出す。背景には、障がい児家庭の「ケア離職を検討・経験した」割合が44.4%(女性では約7割)に上るという統計がある。家庭内の見えない疲弊は職場では相談しにくく、従業員のパフォーマンス低下や突然の離職リスクにつながっていた。改正育児介護休業法による両立支援の義務化にも対応する。
プランには、子育て層だけでなく単身者やシニア層まで全従業員が使える包括相談窓口「うちのこと相談センター」もセットで提供される。訪問看護の看護師や保健師とも提携し、心理・キャリア・医療・保健・福祉、仕事と治療や子育て・介護の両立などの相談に割引価格で対応する。全従業員に開かれた形にすることで福利厚生費としての損金算入の要件を満たし、匿名請求で従業員のプライバシーも守る仕組みだ。
寄付に頼らない福祉のセーフティネットへ
最大の特徴は、福利厚生プランの収益の一部を、地域の生活困窮世帯がサービスを利用する際の割引原資として自動的に還元する点にある。同社は以前、独自の割引制度で困窮世帯の支援を試みたが、自費サービスゆえの「福祉格差の壁」を超える難しさを痛感し、一過性のクラウドファンディングや寄付では継続的な支援に不安定さが拭えなかったという。
そこでたどり着いたのが、企業の福利厚生という安定した事業活動を原資に組み込む新しい構造だ。企業にとっての「自社従業員を守る投資」が、間接的にプロの支援に手が届きにくかった地域の子どもたちの育ちを支える社会貢献へと直結する。代表取締役で社会福祉士の下元啓大氏は「単発の寄付ではなく、ビジネスの安定性をもって、誰もがプロの支援に手が届く街を創りたい」と語る。お金の有無に関わらず専門的支援に手が届く地域共生社会を、事業の仕組みで実現しようという挑戦だ。



